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作品名:700年後の恋 作者:兵藤 順一

第47回   石橋ツワー
涼は自宅で電話をしていた。
“1人くらいなんとかなるでしょう?”
“もう閉め切りましたので。”
“そこを何とか?誰もキャンセルはいないんですか?”
“とにかくもう〆切は大分過ぎているので人数的には余りがありますが、先方に予約やいろんな点で独り増えるのは、とんでもない手続きがいるんですよ。”
電話の相手も辟易して実情を言い始めた。涼はもうひと押ししていく。
“上司の方に聞いてもらえませんか?”
電話の相手はむっとしたが最近では
“お客さまの事を充分に考えてやりなさい。”
と上司からは何時も言われている。
“ちょっとお待ちください。”
電話は音楽がかかり大分待たされている。
しかし涼は携帯電話を耳に当て気長に待っている。
“どれだけ待っても、何としてでも、この石橋ツワーには行かなくては。”
昨日、奈津と熊本駅で別れる時、奈津は
“私は明後日の熊日主催の石橋ツワーに参加して、その後人吉に帰ろうと思うの。”
と言っていた。その話を聞いた後、涼はこの夏休み中奈津と一緒にいる方法を考え付いた。その為には自分も石橋ツワーに参加する必要がある。そしてそこで奈津に話をするのだ。
“今年の夏休みに、熊本県内の歴史探訪に行こう。菊水の江田船山古墳に前方後円墳を見に行き、菊池の近くにあるきく智城跡とか、田原坂古戦場跡などの歴史の場所を見に誘うんだ。そして時間があればラブホテルにいければ入ってもいいし。奈津さんは歴史の地が大好きなのできっと誘いに乗ってくれるよ。”
と思いとにかく
“石橋ツワーに一緒に行き奈津さんを熊本県の歴史探訪ドライブに誘おう。”
との考えで申し込み期限の切れた石橋ツワーに必死で申し込んでいるのだ。
“もしこの電話が駄目なら、高校時代の友達の父親が熊日新聞のお偉いさんだから、その人に頼んででも行かせてもらおう”
と思ってもいた。しかしその必要はなかった。
“もしもし、実は明日のツワーは、料理屋石橋の里と共同で主催してるのですが、明日の昼の皆と同じ食事が準備できないので御了解だけますか?石橋の里さんへお願いするのが大変だったのですよ。お客さんは何かの折に石橋の里を御利用願うことにして、特別に認めてもらったので、通潤橋の近くにある料理屋石橋の里を御贔屓にお願いしますよ。お客さまの料理だけ他の方と違う料理が出ますが、材料が手に入らなかったからでそれでもよければお出でください。”
“そんなのはどうでもいいです。石橋の里は何回でも利用させてもらいます。通潤橋には何回も行く機会があると思いますので、その時は喜んで利用させていただきます。”
奈津と何回も通潤橋をデートしている姿を想像しながらそう答えた。
涼は石橋について殆ど知識がなかった。明日の石橋ツワーでは奈津にあって一日過ごし、今度の夏休みの計画を話すことであった。夏休み中全部でなくっても、なるだけ多くの時間を奈津と過ごす為に、“熊本県歴史探索の旅”
という本を買い必死で読んだ。どんなに読んでも涼にとって付け焼き刃的な要素は否めないが、涼はそれでもよかった。夏休みの間奈津とできるだけあえるのならば。

翌朝8時半に交通センターに集合なので、涼は7時50分にバスに乗り込んだ。奈津が右前から5番くらいの席で後ろの席の40代の男の人と楽しそうに話していた。
“奈津さん。”
“あら、山口さん。どうしたの?”
“僕も昨日この石橋ツワーに申し込んだんだ。”
“閉め切り過ぎていたのに良く入れてくれたわね。”
“うん、なんとか頼み込んでね。”
“あっつ。こちら田島さん。石橋を見るのが好きで、ツワーを見つけるたびにくるんですって、こちら山口さん。私の大学の先輩です。”
涼は、
“私の彼です。”
と言ってくれなかったのが不満だったが、それを態度で示そうと奈津の横の席に当然のごとく座った。奈津も嬉しそうだった。山口がいるにも関わらず田島はなおも話の続きをする。
“それでね。その石匠館の近くには藤原林七の練習の為に作った石橋があってね、それは今日は見ないんだけどさ。”
涼は何のことか分からなかった。奈津が付け加えてくれた。
“今からね。私達のバスは東陽村の石匠館にまず行くの、そこでね、石橋の説明をしてくれる石匠館の館長さんが乗ってこられるの。今その話をしていたところよ。田島さんはその館長さんともよく知った仲みたいなのよ。”
“どちらも日本石橋の会の会員なんですよ。”
田島は後ろから話す。
やがて人数が集まり運転手さんが乗り込みバスガイドさんが話す。
8時半きっかりにバスは交通センターを出発した。


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