いや。そんなに強くないです。普通です。” それを美千代が否定した。 “いや。信次さんはお酒は強かよ。会社で1番強かかもしれんよ。酔ったとこ見たとこなかもん。” “そんなら飲め!今日は酔わせてやる。” 信次が来た為に1人でペースが上がっていた文隆が酔ってきたようだ。 美沙枝は、 “そろそろ喋りはじめるかな?” と心の中で思った。 文隆は酔いが回ってくると饒舌になる。 信次のほとんど減ってないウィスキーグラスになみなみとウィスキーを注ぎ、 “俺の若い時は良く飲み、良く遊んだものだ。” そして酒に酔った男の常である武勇伝が始まる。こうなると美千代の交際相手ではなくただの年下の男相手の自慢話になる。 “昔はな、キャバレーと言うとこがあってからな、若いお姉さん達がたくさんいて、ワンセット500円くらいで3人の男に5人ぐらいの女性が付いてくれたつぞ。高校教師って言ったちゃくさ、人間やけん、キャバレーくらい、いってもよかろうが?” “はい。” 信次は突然の話の展開に戸惑いながらもあいずちをうつ。 “若いときはよう行ったなあ。” “うそばっかし。真面目1本の貴方がそんなにいくもんですか?誰か他の人の話をとっているわ。” 美沙枝はそう思ったが黙っている。 隆一が、 “お父さん。いつもと言うことが違うよ。大学の時は勉強が1番大事だけんが、テレビとか見らんで専門の勉強しろっていつもいいよろうが?僕もギャバクラとか行ってみたいな。今度お金ちょうだい。” “自分で稼ぐようになってから行け。お父さんも自分で稼いでいきよったつぞ。” “嘘をつけ。実家のお父さんが恐くて飲みに行くことは殆ど出来なかった癖に。初めて二次会で皆と飲みに行っても12時をこえて、”“高校教師がこんなに飲み歩くとは、とんでもない!高校教師はみんなに見本にならんといかんとぞ!”“と1回怒られてから、いつも宴会のたびに1次会で帰って来て1人でウィスキーをちびちびやって私に話をして喜んでいた癖に。” と思いながらも娘を奪いに来たライバルに精一杯虚勢を張る主人がかわいらしく思えた。 “昔はいろいろよかったつですね?” 美沙枝は、心の中で、 “昔も今もあんまし変らんとよ。” と言っていたが、文隆は、 “そうね!昔はいろいろと豪快だったね。” と話を続ける。 あまり生産性のない話をしていても仕方がないので、美沙枝は、 “信次さんは何人兄弟なの?” と娘の恋人の情報収集にかかった。文隆も興味があり聞き耳を立てている。 “男二人です。兄がいます。兄は荒尾市民病院でレントゲン技師をしています。” “御両親は健在なの?” 美沙枝は次々と質問してくる。 “はい。父母とも健康で、荒尾で梨園をやっています。” “あら、荒尾梨。新高を作っていらっしゃるの?それは素敵ね!” 文隆も、 “荒尾梨はシャキシャキして美味しかよ。じゃあ、君は後にはその仕事ばつぐのかな?” “おとうさん。いい質問だ。” 美沙枝は心の中で思う。“ “ええ。少しは考えてるんですが、まだ迷っています。” そうすると意外なことに美千代が突っ込んで来た。 “私は梨園の仕事嫌よ。今の会社で二人一緒に働くのがいいわ。” するとその言葉は、文隆の怒りに火を注いだ。 “なんや!お前達は交際しとるだけやろが?結婚とか考えるとはまだはやかし、もっといろんな人と付き合ってその後一番気に入った人と結婚とか考えるとばい。大体信次さんにも失礼じゃなかや。” 美千代は、 “しまった。” と思ったもう遅かった。美千代可愛さで、二人が結婚するのは早い理由をえんえんと言い始めた。感情に任せてくどくどと話すので、妹の良枝はたえられなくなり、 “私自分の部屋に戻るね。” と言って戻っていった。良枝はこんな父に紹介する為まだ見ぬ自分のボーイフレンドを連れて自宅にくる日が心配であった。 美沙枝が何か言っても全く意にかいせず、説教は続く。かなり酔っていてしどろもどろになりながら1人で話す。さすがに信次も、 “すみません。明日は早いのでもう失礼します。” と言って帰っていった。文隆は、 “ちょっと言い過ぎたかな。” と思ったが、 “おう!気をつけて帰れよ。” と言ってまだウィスキーをのみ続けている。 真っ青になった美千代と美沙枝が送っていった。 二人が居間に帰って来て、美沙枝が何か言おうとする前に、 美千代が嘗てない程大泣きし始めた。 “お父さん何よ。今の話は。お父さんが反対しても私は信次さんと結婚したいの。でもお父さんがあんな態度をとったから信次さんもう私の事が嫌になったかもしれないわ!” そういうのがやっとで後は取り付く島がない程泣き続ける。 娘が今までない程泣き続ける姿を見て文隆はすっかり酔いがさめてただおろおろするばかりであった。
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