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作品名:700年後の恋 作者:兵藤 順一

第44回   美千代の実家
“プルルルルルー。プルルルルルー。”
美千代の家、佐古田家の電話のベルがなった。
“もしもし。佐古田ですけど。”
“あっ!お母さん。私。あのね。今から信次さん連れていくから。御飯は食べたからね。お父さんにも言っといてね。”
佐古田美沙枝、美千代の母はびっくりして、
“美千代ちゃん。あのね!”
と言った時はもう電話は切れていた。
“もう美千代ったら、いつも一方的なんだから!”
と口にしながら食後、2階の書斎にいる夫の佐古田文隆に伝えようと二階に上がる。
“トントン!”
ドアをノックする。中から声がする。
“酸化と還元は同時におこり、これを酸化還元反応と言う。この黒板に書いた反応式に”
返事がないので中に入る。文隆はウィスキーを飲みながら明日の予習をしている。佐古田文隆は第二高校の化学の教師で、夕食後はいつもウィスキーを飲みながら明日の授業の予習をする。その時間を邪魔されるのを嫌う。今日も、
“何だ!明日の準備をしている時は邪魔せんでくれ。”
と言った。
“美千代が彼氏を連れてうちに来るそうよ。”
“そぎゃんとはお前が相手しとけ!俺は忙しかけん。”
“美千代がお父さんにも伝えといてと言いよったばい。”
文隆は無気味な予感がした。
“結婚の事とかいいよるとやろか?”
“そらわからんばってんが、あるかもしれんね。私はちょっとそうじばすっけんが、後のことはたのむけん。”
“後の事って何や?”
しかし、もう気になって明日の授業の具体的な練習はそれで打ち切りになった。机の上には化学の教科書と綺麗に整理されたノートが、左の移動式のテーブルにはウィスキーグラスに注がれたオールドパーのウィスキーと大きくて丸い氷が1個浮んでいる。その他に、移動式のテーブルには氷、つまみのさきいか、それとウィスキーのオールドパーのボトルが置いてある。ウィスキーのグラスはまだ飲み始めたばっかりであった。10年前くらい前から大きな丸い氷のできる製氷機を購入し、その氷が溶けて薄くなっていくウィスキーをちびちびと飲んで翌日の準備をするのが習慣になっていた。文隆は1階に降りていく、1階の居間にはテーブルの前で次女で高校3年生の良枝と長男で大学3年の隆一がテレビを見ていた。
“姉さんのお友達が来るそうばい!”
そう言うと良枝は、
“姉ちゃんの恋人が来るとね?”
と言ったので、
“恋人じゃなか!友達たい。会社の同僚。”
と言い直した。
“まだ娘は結婚するには早い。”
と思っている。恋人とも認めたくはなかった。
美佐枝は、
“最近、ちょっと様子が変と思いよったら、そろそろ結婚ば考えとっとかな。”
と思いながら居間と玄関とを綺麗にかたずけるので大忙しである。
“良枝。ちょっと手伝わんね。信次さんが来って言うとるばい。”
前回、夜、会社の宴会が終わって信次が美千代を送ってくれた時にお茶を飲んでいた信次と会って、後で、
“お姉ちゃんの彼氏かっこよかね。”
と言った良枝だった。
何回か美千代を送って来てくれたが、本格的に連絡が入って佐古田宅に来るのは始めてだった。隆一も挨拶程度の対面はあったが、父親の文隆はまだ会ったことはなかった。母親や、息子、次女の話から
薄々、
“特定の男がいるな”
とは思っていたが具体的に紹介されるのは嫌なものである。
しぶしぶと御盆を持って二階に戻り、移動式テーブルに乗ったウィスキーセットを居間に持って来て、となりの台所からウィスキーグラスを1個だし、対面の席にグラスを置き、隆一が見ているお笑い番組の前でちびちびと飲み始めた。視線はテレビにいってるが、全く内容は分かっていない。頭のなかは美沙枝との事を思い出していた。美沙枝は天草高校の化学クラブの部員であった。よくみんなで天草の自分の下宿先に遊びに来ていた。美沙枝の父はおとなしい漁師で美沙枝の母親がやり手で魚の行商から、民宿を起こし5人の子供を育てていた。その3番目、兄と姉がいる次女が美沙枝であった。美沙枝が卒業の時、文隆は天草高校から熊本市内の第二高校に転勤となり、偶然、熊本商業大学に進学を果たしたアパートが文隆の実家の近くにあり、良く遊びに来ていて文隆の両親から気に入られ、父親から、
“美沙枝さんと結婚したらどうだ。”
とすすめられ、美沙枝の大学卒業を待って結婚した。
それからすると美千代も早いとは言えない。
ふと横で隆一がテレビに見いっているのに気がつき、
“お前も飲むや?”
と聞くと、
“うん。”
と言うので、
“お前にはこのウィスキーはもったいなかばってんね。”
と言って前に置いたウィスキーグラスを横の隆一に渡しウィスキーを注ぎ、丸い大きな氷を浮かべた。そして再び立ち上がり台所に行き新しいグラスをテーブルの前に置く。
そして、
“隆一が横にいてくれたら少しは気が楽かな。”
と思うのであった。
美沙枝も掃除しながら文隆とのことを思い出していた。美沙枝の母親はとても積極的な女で、おとなしくて働き者の父親を口説き落としたのをいつも娘に自慢しているのを聞いて育った。高二の春、化学の先生である文隆を見て、
“私の旦那になる人はこの人だ。”
と決めた。それから佐古田文隆が部長である化学クラブに入り、みんなを誘って文隆の下宿にたびたび遊びに行った。
文隆が熊本市内に転勤になるのをいち早く知って熊本市内の大学を選び、かつてから知っていた文隆の実家の近くのアパートを探しそこから大学に通った。偶然を装い、文隆と会って、
“遊びにお出でよ。”
という慣例の誘いのすぐ後で、熊本の出水の実家に遊びに行き。文隆の両親の手伝いをして両親に気に入られ、念願の文隆の嫁になることができた。母親譲りの積極性である。しかし父親ににて働き者でおとなしくもある。
美沙枝は、長女である美千代はそろそろ結婚を決めてもいいと思っていた。そして母親の勘で、二人は肉体関係があると見ていた。


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