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作品名:700年後の恋 作者:兵藤 順一

第40回   美千代の涙
喫茶店“バタフライ”を出た時美千代は前から疑問に思っていたことを口にした。
“どうして由美子の選ぶ店は美味しいの?”
里江も同調する。
“そうだよ。何で美味しい店をそんなに知っているの。由美子は私達以外と付き合いもないのに。”
“私ね。インターネットのブログをみてるの。熊本でも舌の確かな人が数十人いてね。その人達の複数の人が美味しいと言う店は必ず美味しいのよ。まあ
”フクロウの食事通“って言うブログ名の人は1人でも必ず美味しいけどね”
“へえー。ブログをみてるのか?私は芸能人や有名人のブログしか見ないけどなあ。”
美千代が言うと、
“私は他の人の言うことなんか全く興味ないけど、美味しい店を知っているのはいいことだわ。でも由美子から聞くからいいわ。ブログを読むって面倒臭いじゃない。”
美千代は、
“男と話すのが一番好きだからな。”
と心に思ったが口には出さなかった。
里江の男好きは芸術の域まで高まっていた。美千代は中学の時からの里江を思い返していた。中学の時は美千代の知ってる里江は、噂だけだった。マリスト中の某と付き合って、某は停学になったとか、熊高の1番と付き合ってその子の成績が落ちたとか、九州学院の陸上部で槍投げが日本で1、2位でオリンピックに行くような選手を駄目にしたとか、まさか熊本商業高校で仲良くなるとは思ってもみなかった。高校時代も熊商の主な男性とは殆ど浮き名を流したのは美千代も由美子も非常に詳しく知っている。何故なら、里江は美千代、由美子には全く包み隠さず全ての事を語ってくれた。美千代も由美子も完全に聞き年増になっていた。美千代達が1年の時、熊商3年のサッカー部のストライカーと里江が付き合い始めた頃、誰もが憧れるハンサムな彼と里江がキスをし、肉体関係を持ち、別れたことを詳細に聞いた時、美千代も由美子も自分の事のように興奮した。それからの男関係は全て2人は知っている。3人が仲良くいるのでよく男は美千代と由美子に手紙を頼んだり、里江との仲介を頼んで来たりした。美千代は男の頼みに乗ってやったりする時もあったが、由美子は黙ってうつむき、
“無理です。”
と言って取り合わない。そうした噂を聞いて男達も美千代を利用する頻度が増えてくる。美千代は勝手に男を選んで紹介する癖が付いた程だ。どうせ断られると分かった人は面倒だから、
“今、里江は誰々と付き合っているから駄目だよ。”
と言って断ってあげた。そういう意味では里江以上に里江の事を好きになった男の事を美千代は良く知っていたのかもしれない。
フランス料理の店“シャンゼリゼ”に着いた。とても高そうなとこだった。
“ねえ。ここ高くない。”
美千代が言うと、由美子は、
“安くて美味しいのもあるわ。でも高いのが美味しいそうだけどね。”
と言った。
しかし入ってすぐにその心配はいつものように消し飛んだ。里江をみて奥で飲んでいた2人組がワインをごちそうしてくれたからだ。
そうなるといつもの里江の独壇場が始まる。
“良かったらこちらで一緒に食事なさいませんか?”
もう殆ど食べ終わっていた2人組がやってくるともう勘定は2人が払うことになる。里江は抜け目なく、
“ここは何が美味しいのかしら?”
と2人の客に聞き、
“ここはごちそうするから何でも好きなものを選んでいいよ。”
という御好意に甘える。由美子は昔は男が近寄ってくるのがいやそうだったが、この男達は里江目当てで自分には興味を示さないのは分かっているので、だんだんと役得に甘んじるようになって来た。だって里江といると料理も酒もデザートでさえ一級品がただなのだから。
いつものように男2人は里江との会話を楽しむ。申し訳程度に美千代にも声をかける。由美子はあまり相手をしないのを男も由美子も好都合のようだ。そのくせ由美子は男達を良く観察して覚えている。
“イタリア料理のトレビアーノで会った。弁護士の人ね。私の店に来たわよ。全く私の事は覚えていなかったみたいだけどね。”
と言われても美千代は全く忘れている。里江も、
“あっつ。あの人ね。”
と言っていたが本当に覚えていたか分からない。
デザートを食べ終わるとお決まりの、
“これから飲みに行かない。”
という誘いに、由美子は、
“私は用時があるから先に帰るわね。どうもごちそうさまでした。”
と言って帰って行った。これもいつもの事である。
次の店に入るとそこはイギリス風のパブであった。だいたいそこで里江の取り合いとなる。美千代は、
“多分。シャンゼリゼのお金を払った方が勝つだろうな。”
と勝手に予想をしていたが、お金を払わなかった方が里江の優先権を得たようだ。話が付いたようで、
“僕は里江さんと別のとこに飲みに行くから。”
と言って2人で別の店に出かける。
突然1人となった男は美千代を口説きはじめる。
“何よ今まで里江に御執心だったじゃないの。”
と思いながらも値踏みを始める。
“お金は持っていそうだわ。しかし大学病院の外科医と言っているがそれは嘘だろう。”
実は3ヶ月前、妊娠した相手は信次ではなかった。その人も大学病院の外科医を称していた。その男は珍しく里江ねらいではなくて最初から美千代に関心があった。美千代はその夜かなり酔っていて素敵な彼に体を許した。次に会ってホテルで体を許した後、
“自分は外科医ではなく、もてたい為にそう言ったんだ。”
と言われた。それは別段驚かなかったが、
“実は妻子持ちの、焼肉屋チェーンのオーナーだ。”
との話を聞いて、騙されたことを悟った。
“外科医だったら結婚してもいいかな。”
と思っていた美千代は裏切られおまけに後で分かったのだが、妊娠していたのだ。結婚してもいいかなと思ってコンドームをつけてもらわなかったのが大失敗だった。
“妻子はあるが付き合って欲しい。”
という都合の良い要求は即座に断って怒って別れたが、
“妊娠してしまったとは...........”
そんなことを考えていると横の男は、
“今から君とホテルに行きたいな。”
と言って来たので、
“私をそんな女だと思っているの?失礼ね!”
と怒ってパブを出て来た。その怒りは焼肉屋のオーナーに対したものでもあり、今まで里江に言い寄っていたのに急に自分に言い寄った男への怒りでもあった。
美千代はタクシーを乗る為歩いていたが、涙が出てくる。通行人に気がつかれないように、そっと涙を拭いた。



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