安田秀二はワインを飲んでいた。信次と安田と寺口とは小、中、高と一緒で、2人とも小学校の時からの信次の良き相談相手だった。安田は小学生の時から本を良く読み、森鴎外、夏目漱石などの日本の文学者の本を良く読んでいた。中学に入ると1、2年の頃は世界の文学者の本を良く読み、ドストエフスキーやトルストイ、エミリーブロンテなどを読んでいたが、3年になると突然哲学書にこりだした。西田幾多郎、パスカル、デカルト、カント、キルケゴールなどを読み、大した受験勉強もせずに玉名高校に合格した。必死で受験勉強し、国語、英語、社会は安田に、数学、理科は寺口に聞きまくってやっと同じ学校に合格した信次とはえらい違いである。安田、寺口は玉名高校で1番2番をいつも繰り返してとっていた。2人とも特に努力して勉強するタイプではなかったが、安田はいつもの読書量はすごかった。寺口はそれとは対照的で完全な理系人間で、小学生の時から模型を作ったり、ラジコンや無線に強く、中学生からはコンピューターを使っていろんな作業をし、高校ではインターネットを駆使していろんなことを調べ、数学、物理に関してはずば抜けた実力を示していた。荒尾から玉名までJRで通うので3人とも高校ではとても仲が良く、信次は2人に教えられてどうにか成績も中の上くらいには保たれていた。当然のごとく大学は2人とも現役で九大に合格し、信次は1年間浪人しやっと熊大の工学部に合格した。安田は九大の文学部に、寺口は九大の工学部にいって、安田はグリーンランドへ、寺口は肥後銀行に就職したのを知った時大学4年だった信次は驚いた。後で理由を聞き、安田は “今、子供の行動が1番興味があり、子供が1番子供らしいのは楽しく遊ぶ姿である。それが見れる職場に行くことにした。” 寺口は、 “銀行に行くのは常に社会の縮図を見ることになるから。” と言っていた。 どちらの考えも信次には分からなかったが、2人とも以前から信次の考えが及ぶ範囲を超えていたので、そのまま受け入れた。しかし自分の就職にはとことん相談に乗ってもらった。 信次はキャノンでビールを頼みフランス料理のAコースを注文した。安田は赤ワインを飲んで、信次はビールを飲んで、安田は早速切り出して来た。 “なんか話のあっとやろ?話は何や?女のこつか?仕事のこつか?” “よう分かったね。ちょっと女の事で話のあっとたい。” “だいたいお前が飲みに行こうと言うときはなんか多きか悩みばもっとる時ばってんが、今の時期なら女か、仕事ば辞むる事しか考えられんからな。” しばらくして信次はどこまで話そうか考えたが、人間離れした安田である、包み隠さず全部はなすことにした。 “実は俺はな、スペインのアルハンブラ宮殿のシャルム王子の生まれ変わりたい。そしてその時愛しあったナイーダ姫と今の時代で巡り会った。再び愛しあう気があるんだが、実はナイーダと出会う前に恋人ができていて、その娘が妊娠したて言うとたい。それで困ってしまって。” “生まれ変わりと言ったことを馬鹿に去れるかな。” と思っていたら、安田の口から驚くべきことが出て来た。 “俺だって黙っていたが、天智天皇と織田信長の生まれ変わりたい。もう政治は飽き飽きしたんで、本を読み、1番面白い子供の行動を、それも楽しい時の行動を見る仕事を選んだつたい。” 信次は信じていいものかどうか迷ったが、自分の言うことも同じようだと思い、とにかく信じることにした。 安田は続けた。 “過去の事は関係ない。今がどうかなんだ。お前はどっちが好いとっとや?ほんとに好きな方ば選べばよかやっか。” 信次はちょっと考えて、最適の人に相談したと思った。しかし美千代は妊娠している。 “しかし、好きでない方が俺の子ば妊娠しているとたい。” “お前の子かどうか分からんし、無理して結婚すると後で大きなひびとなってくるぞ。大恋愛で愛しあって結婚しても長い結婚生活でちょっとしたことで憎みあうようになった例は山程あるからな。” “分かった、今の自分の気持ちを大事にするよ。” “ところで、お前んとこの兄貴の子供達は、運動神経がよかねえ。あっという間にボートの漕ぎ方ば覚えたじゃなかや。” “そぎゃんやろか?まあ2人とも、足は速かごたるばってんが。” “何かスポーツばさすっと伸びるぞ。” それからえんえんと子供の行動についての話を楽しそうに続けた。食事も終わった頃安田に寺口から電話があり、 “やっと会議が終わった。今からどっかで落ち合おう。” という電話だったので、208号線沿いのカラオケに行くことにした。 “もうこの問題は解決したけん。寺口には言わんどってな。” “あいつは生まれ代わりなんて事は絶対信用せんやろからな。” 安田も笑いながら言った。 カラオケで3人は歌い、かつ飲み、おおいに楽しんだ。
|
|