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作品名:700年後の恋 作者:兵藤 順一

第35回   信次の実家
土曜日、信次は久しぶりに荒尾に帰った。昨日までの激務の後ゆっくりと起き、車で荒尾に向かった。車はもう直してもらっていた。料金は3万8千円だった。荒尾に帰ったのは、何でも相談している兄に話を聞いてもらうつもりだった。兄の進一は荒尾市民病院に勤務している。放射線技師として勤務してもう12年になる。市役所職員の慶子と知り合い、結婚して7年になり、6歳の女の子と5歳の男の子がいる。共稼ぎである。忙しい時は実家に子供を預けていることがおおい。信次の父親は梨の農園を経営していて、進一、信次を育て上げ、最近は荒尾梨ブームで生活はかなり楽になっている。荒尾梨は、荒尾の名産で新高と言う品種で、かなり大型の梨でその甘さは有名である。シャキシャキ感がなんとも言えずに最近はインターネットの取り寄せもあり全国にファンが多い。大牟田出身の自民党の古賀誠選挙対策委員長が自民党員にこの梨を送り、その自民党員は今回の自民党公認は“なし”なのかと勘ぐったと言う話は有名である。古賀誠は長年の習慣で珍しい荒尾梨を送ることにしていただけなのだそうだ。新潟と高知の梨をかけ合わせて作ったので、新高と言う名がつけられた。国道208号線を右に曲がり、細い道を左に曲がると信次の実家である。駐車場に車をとめると母の博子が顔を出した。
“あら、信次どうしたの?連絡もしなくて帰って来て?”
“うんちょっとね。兄貴に話を聞いてもらいたくってね?”
“何なの?話って?結婚の事?それともこの梨園をついでくれる事?”
どっちも当たらずとも遠からずである。
“さすが母親だと思ったが、”
“いや。そんなんじゃ無いよ。”
と否定して家に上がり込んだ。
“おじちゃんいらっしゃい。”
“いっしょにあそぼ。”
兄の子の好子と勇気が声をかけた。
“おお。お前達来てたのか。うん後でな。ところでお父さんは?”
“お父ちゃんは救急医療で朝からお仕事。お母ちゃんは婦人会の集まり。”
“ええー。兄貴は仕事なのか?ついてないなあ。お母さん親爺は?”
“お父さんは梨の手入れよ。山にいるわよ。お父さんに用事なの?”
炊事場で洗い物をしながら答える。
夕方まで兄貴は帰らないと思って、又無口な父にはあまり相談をした事も無かったので、
“好子、勇気。グリーンランドに連れて行ってやろうか?”
“えっつ。ほんと。やったー”
勇気は喜んだが好子はしっかりしている。
“お婆ちゃん。おじちゃんがグリーンランドに連れて行ってくれるそうだけどいってもいい?”
“良かったねえ。じゃあお婆ちゃんがおじちゃんにお金をあげるからお昼も食べていらっしゃい。いっぱい楽しんでおいでよ。”
荒尾にグリーンランドはあるが地元の子は高いのでめったに行けない。熊本市内や福岡市内からの子が良く連れて行ってもらっている。信次は2人を車に乗せた。母親は2万円渡して、
“じゃあ。2人をお願いね。助かるわ。”
といって送りだした。裏道を抜けて車通りの少ない道からシティーモールを抜けてグリーンランドへ向かう。高速からの道、208号線からの道は土曜日なので、車で溢れている。
入場券を払い、中に入り、子供達が望むジェットコースターや観覧車などで遊び、ショーを見て昼御飯を食べた。昼御飯はグリーンランドの有名なジンギスカン料理だ。ラム肉を丸く盛り上がった鉄板で焼く。信次もひさしぶりだったが、子供達も大喜びだった。デザートのパフェをほうばった後、勇気は
“おじちゃん。ボートに乗ろうよ。僕とお姉ちゃんでこぐから。”
と言うので、
“じゃあおじちゃんが漕いであげるから、好子と勇気が漕ぐのはちょっとだけだぞ。”
といってボート乗り場に行った。ボート乗り場の監視員は同級生の安田である。
“おお小島。今日は兄貴の子供さんのお守か?”
“ぼく。良かったねえ。優しいおじちゃんで。”
チケットを購入し安田に渡しながら、兄貴に相談するのは止めて安田と寺口に相談してみようと思い直した。どうも兄貴に相談するのは今一気が引けていたのだ。
“おい。安田。今日の夜は暇か?”
“おおあいとるよ。”
“寺口誘って飲みにいかんや?”
“よかねえ。久しぶりやね。”
“寺口はお前から連絡してくれ。6時半キャノンでな。”
“おじちゃん話してないではよう乗ろうよ!”
勇気が声をかける。
“じゃあ寺口への連絡頼んだぞ。”
そういってボートに乗り込んだ。ひとしきり信次が漕いだ後、せがまれて好子と勇気にオールを持たせて信次はへさきに座り、1本ずつ持ったオールを真剣に漕ぐ2人を見守っていた。水しぶきが信次にかかる。しかし、しだいに2人とも漕ぐのに慣れて来て水しぶきもかからなくなった、
“2人ともうまいじゃないか。”
得意そうに2人とも漕いでいる。ふと向こうで安田が手をふっているのに気が付きそっちを見ると、両腕で罰印を出していた。
“寺口は都合が悪いのだ。
と理解し、2本指をあげた。
“じゃあ2人で行こう”と言う意味だ。
安田は大きく腕で丸印を出した。
“了解した。”と言う意味だ。
ボートは時間が来て辞めようと言ったが、2人とも延長しようと言うのでもう1時間延長する事にした。結局1時間半も子供だけで漕ぎ続けてボートを降りた。さすがに疲れた様子だがまだ遊ぶと言う。それからもいろいろ付き合ってやって夕方5時前にグリーンランドを後にした。両親の実家に着くと兄夫婦はもう戻っていた。
“信次ありがとう。大変だったろう。何ね?話って。”
“うん。いやもうよか。解決した。お母さん。今日は安田と食事に行って、その後飲みに行くけん、夕食は好かばい。”
“なんね。今日はせっかくジーチャンが(母は私の事をジーちゃん兄の事をイッチャンと呼ぶ)帰って来たけんステーキばこうてきたつに。安田君ばうちに呼びなっせよ。”
安田を読んだら話が出来なくなくなる。
“いや今日はもう決めたけんが、そして、安田が俺に話があるって言いよったけんが、人に聞かされん話のごたるけん。”
とっさに嘘をついた。やはり肉親には話さない方が好いだろう。しばらく家に居て会社の話や、梨の話で当たり障りのない話を皆でして、信次は家をでた。歩いて行き、シティーモールの下にある荒尾タクシーでタクシーに乗り、キャノンというレストランに着いた。


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