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作品名:700年後の恋 作者:兵藤 順一

第34回   奈津の日常
榊奈津は信次と別れた翌日自分で作った朝食をとり、朝の化粧をして大学に向かった。昨日の場所に差し掛かり、車に跳ねられてからすごく時間が経ったような気がする。左脚には病院からもらった湿布をしているが、それほど痛まない。
“今日はテニスの練習ができそうだ。”
と思うのであった。
大学の構内に入ると、男子学生の目がちちらちらと自分を見ているのを感じる。奈津が男性が自分をちらちらと見るのに気ずいたのは、小学生の時だ。父から誕生日のプレゼントでもらった可愛いフリルの付いたスカートで遊びにいくと男の人達だけでなく女の人達も目を見張ってみていた
“お母さん。皆私の事を見てるのよ。”
と母に言った時、
“そうね。貴方は前からとても綺麗だったわよ。”
と言われた。奈津にとって綺麗で自慢の母だったが、
“私もお母さんに似て綺麗なんだ。”
と思っていた。それで男性から見られるのはあまり気にしていなかったのだが、昨日は信次との事があり、何か恥ずかしさを感じて歩いていた。
教室に入ると、芳子はもう来ていて、
“奈津。心配したわよ。もういいの?”
“うん。テニスもできそうだわ。少し痛むけど。”
“そう。よかったわね。昨日は心配したのよ。”
“御免。昨日は気が動転しててね。”
おもわず、
“いろいろあってね。”
と言おうとして言葉を飲み込んだ。
“いろいろは決して人には言えないのだ。”
間もなく、1時間目の授業が始まった。
1時間目は肥後の歴史だった。文学部の癧史学科である奈津達は歴史の専門家になる為の講義がたくさんある。奈津はその中でもこの肥後の歴史が好きであった。斉藤教授が来て、
“今日は肥後国人の一揆が何故起こったかを講義する。国人すなわち肥後国衆は、佐々成政が肥後を統治するように秀吉にいわれ隈本城、今の熊本城の前の城だが、そこで肥後の国人を集め検地を実行する旨話した。秀吉が九州征伐する頃は、薩摩の嶋津が肥後を力で制圧していた。そこで肥後の国人達は、その頃52人居たそうだが、秀吉に味方してその代わり知行地を補償された。そこで秀吉は3年間は検地をするなと佐々成政に言って肥後の統治を任せたのだが、佐々成政は秀吉程政治のやり方がうまく無かったのだろう、すぐに検地をする話をして隈部親永を怒らせてしまった。その他の国人達も隈部親永と同じ気持ちだったのだろう、菊池の隈府に、隈部討伐に行ってる隙に、隈本城も襲われ、肥後各地に反乱の火の手が次々と起こったのである。”
斉藤教授の講義は続く、奈津は知らなかった肥後の歴史を熱心に聞いてノートにとっている。
そうして午前中の講義が終わり、
昼を食べに行く事になった。奈津は何時も芳子と千香、美樹と4人で生協に食べに行く事にしている。千香は人吉高校の同級生奈津の友達で、美樹は熊本高校出身、芳子の友達である。2人とも教育学部なので時間を会わせる為しばらく生協の前で待って、4人集まってから食事に行く。
千香と美樹を待つ間、芳子が尋ねた。
“山口先輩とはどうなってんの?事故も知らせるなって言うし。”
“別れる事にしたの。”
“なんで?”
“ちょっとテニスを気合い入れてやろうと思ってるし、勉強もしなくちゃいけないし。”
芳子は奈津がテニスにも熱心で歴史の勉強もよく図書館で勉強しているのを知っている。
“じゃあ。山口先輩私がもらっちゃおうかな?”
“いいわよ。芳子ならいいわよ。”
“嘘よ。山口先輩は貴方がいいんだから。そんなこと言わないで付き合い続けなさいよ。”
そう言っている時、千香と美樹が来た。
“あの先生時間が来てもまだ授業辞めないんだもん。すっかり遅くなっちゃったわね。”
美樹の明るい声が響く、
“なっちゃん。今日何食べる?”
千香が話し掛けてくる。
“うーん。何にしようかな。見てから決めるわ。”
生協の食堂は料理ができている好きなおかずをとって、料金は後払いである。美樹が言う。
“私、生協ランチにするわ。生協ランチを食べると10%がアフリカの貧しい国に寄付されるのよ。”
“アフリカか?”
今のモロッコ出身の過去を持つ奈津にとって非常に懐かしい響きがする言葉で
“私もそれにする。”
奈津が言うと、
“じゃあ、私もひとくち乗った。”
芳子も言う。
“何よ。それじゃあ、私もそうしないと私だけが人非人見たいじゃ無いの。”
千香も生協ランチにした。
生協ランチは熊本の地域の生産物を中心としたヘルシーな献立である。売り上げた利益の中から10%をアフリカの貧しい国の水資源の開発、食料支援にする為、人気がある。4人ともそれを頼んでお金を払った。
“そういえば、あの医学部の軟派男と付き合っていた赤城はるか、あの女ふられたそうよ。”
芳子が思わず医学部に反応して奈津の目を見る。奈津は目で、
“絶対言うなよ。”
と目をぱちぱちして否定する。
“だからみんなあのフェアレディー男は気をつけなさいって言っていたのに。”
美樹が言う。
“なあに。フェアレディー男って?”
奈津が聞くと、
“フェアレディーに乗ってさっそうとかっこ良く降りてくるとこが、評判だけど、本人や一部の者はかっこいいと思っているんだろうけど、私達は馬鹿にしているのよ。”
“ふーん。”
そういう会話をしながら食事が弾んだ。
食後は4人でいつも図書館に行く。午前の復習や午後の予習の調べものをする為だ。奈津は肥後国衆の乱の資料を読んだ。
<肥後隈本軍記>をノートに写す。
午後の講義が終わると芳子と連れ立ってテニス部の部室に行った。
テニス部に行くと女子部のキャプテンが、
“榊さん。良かった。君がメンバーから外れたら今年の大会はとんでもないことになるところだよ。”
奈津はダブルスでもシングルでも重要な選手なのだ。
“私、大丈夫です。昨日は足が痛んだんですけど、大したことでは無いようです。”
事故の事は黙っていた。
そのように合宿前は学問とテニスの練習に打ち込んでいたら、夏休み前に山口からのメールが届いた。


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