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作品名:700年後の恋 作者:兵藤 順一

第33回   解剖実習前期の終了
山口涼の朝は早い。毎朝5時には目を覚ます。中学の時は自分で考えて父のように医者になろうと思って、生物部にはいったが、高校にはいってから父から、
“医者は結局は体力だ。医学の勉強は大学にはいってからが、大事で一生勉強は続けていくもんだ。焦らずともいいよ。”
と言われて、熊本高校入学から硬式テニス部に入部した。その頃から明るくなってからの週1回のジョキングを始めたが、大学になってからは雨の日以外は、ほぼ毎日走っている。朝から明るくなるまでは本日の予習をする。簡単に昨晩寝る前に予習はするが朝からは本格的にやる。昨日前期の解剖実習は終わり本日は納棺の作業がある。涼達は昨日11時近くまで下半身を完全に解剖し終わって帰宅し、午前1時頃まで復習と簡単な翌日の予習をして眠った。下半身は腹部より下でそれ程大変では無い。大変なのは上半身で、胸部と頭部があり、肺、心臓、縦隔から、頭部があり、頭部の神経配列を追ったりして理解を深めねばならないから、どうしても時間がかかり、上半身のグループはまだ終わらずに昨晩頑張っていた。
“吉村達は昨晩徹夜かもしれないな。9月からの自分達の解剖実習の後半担当する上半身頑張らなければならないな。”
と決意を新たにするのであった。
吉村は上半身で、涼は中学の時の生物実験で神経を見なれていたが、吉村が、
“神経って綺麗だなあ。実際こんなに白いのが全身を走っているなんて俺感激した。”
と言う言葉を聞いて内心、
“吉村よ、中学の時のカエルの実習で見たろう。神経線維は全身にはり巡らされているんだ。”
などと思ったが、その涼も下半身の坐骨神経を見た時は、
“美しい!白い太い束の固まりだ。これが圧迫されたり、傷ついたりするからあの坐骨神経が起こるんだ。”
と、高校2年の秋、坐骨神経痛に苦しめられたのを思い出した。
そのように学問の事を大事に思いながらも、心の奥で、
“今日解剖の、前期が終わったら奈津にメールしてみよう。”
と思って、解剖実習が終わるまで我慢していた奈津への想いを蘇らせて体操服に着替えてジョギングに出かけた。
涼の家は江津湖の近くにある。家を出て1分も走ると江津湖に出る。本日はいい天気である。朝の江津湖の湖面には水蒸気がただよい何とも幻想的な風景をかもし出している。池には鴨やかいつぶり、時にはゴイサギが佇み、朝から散歩する人達に遇う。
“おはようございます。”
追いこしたり、すれ違う人達に挨拶をする。江津湖の下流に向けて走り動物園裏の歩道をずっと走っていき、動物園が終わった場所の少し広くなった場所で体操して引き返す。歩く人達は多いが、ジョキングをする人は少ない。
“よし。今日メールして、西医体の合宿前には何としても1回会ってもらおう。”
体操しながらそう思い、ジョキングコースを再び戻って帰って来た。
涼の家は電車通りと、健軍神社の参詣門入り口の近くにある。参詣門からちょっと入った。熊本商業高校の裏に位置する。
家に帰るとシャワーを浴び、少し勉強して母の用意した朝食を食べ、車で学校に通う。駐車場は、吉村が言うには、
“昔のサッカーグラウンドのとこにある。”
のだそうだ。
“駐車場にサッカーグランドをとられているのでいつもサッカーの練習場の確保が大変だ。”
と吉村は言っていた。しかし自分としては駐車場があるので便利である。すぐ横にあるテニスグランドは無事にあるのでそこで練習できる。西医体前などはエイズ研の横にある2面の職員用テニスコートも借りる事ができる。
8時前の教室は閑散としている。数人しか人はいない。涼はいつも前から2番目の席に座る。今日の1時間目の講義の微生物の教科書を勉強していたら、
“おはよう。”
と吉村が声をかけて来た。
“おお。吉村解剖終わったつや?”
と聞くと、
“やっと5時に終わった。”
と言った。
“そしたら、眠っとらんとや?”
と聞くと、
“2時間だけ眠った。”
と言った。吉村は熊本市内だが、
“医学部は勉強が大事だから。”
と親に言って医学部のそばのアパートに住んでるので2時間とか眠れるのだ。
“お前。解剖実習が終わったら彼女に別れの原因ば聞くとだろ?”
“うん。”
“俺の経験からばってんが、そぎゃんか時はたいがい男がおるけんが、あまり深く追求すんなよ。むしろ”“好きな人がおってもよかけん付き合いは続けよう。”“って言うとが長続きする秘訣たい。“
“そんな男はおらんごたるけど。”
“そるが、女はいろいろあっとくさい。例えば小学生の時好きだった男と電車の中で再会すっとか。”
“お前の昔の彼女にそんなのがいたなあ。”
“だけん、言いよっとたい。お前にとっては、始めての彼女だからショックは大きかろうと思ってな。今までは解剖実習が大変だったけん俺も言うのば、控えとったつばってんが、やっと半分は終わったけんな。”
“まだ。納棺が今日の午後ひかえとるばってんが。”
“あれは儀式だけんな。”
そして午前中の講義が終わり、昼飯に母の作ってくれた弁当を食べ、昼から納棺の儀式が始まった。
部屋の中の御遺体の横には棺桶が置いてあった。
御遺体を御棺に入れ、助教や準教授が、
“脂肪分1つの残すなよ。”
と言うのにあわせて周囲に散らかった脂肪分などを綺麗に拾って御棺に入れた。教授が、
“黙祷!”
と声をかける。目をつぶって佇む人、両手をあわせるもの、キリスト教者は手を組むもの様々であったが、黙祷が終わり、御棺を運び出す。御棺は、トラック2台に乗せられ火葬場に運ばれる。山口達の御遺体は吉田が代表して火葬場に付いていった。吉田は喪服に身を包んでいる。8人で1体の割当なので、102人の学生の13人の代表がタクシーに乗り合わせて火葬場まで見送った。後は12月頃、病理解剖された人、法医解剖された人と合わせて合同慰霊祭が控えている。その時は解剖した学生全員が喪服を着て慰霊する。
御遺体を見送ってしばらくして涼は奈津にメールを打った。
“今まで、解剖実習で忙しかったが、解剖実習の前期は今日で終わり、後は9月から後期実習が始まる。”“理由は聞かないで。”“と言う事だったので、理由は聞かない。でも最後に1日だけ会って欲しい。もうすぐこっちは西医体(西日本医科系大学体育大会)の合宿が始まるし、そちらも夏合宿が始まるだろうから、その前に会って欲しい。”
と言う内容だった。


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