榊堅二は早朝の飛行機の便で羽田空港から熊本に向かった。昨日焼酎を飲んで眠ったので良く眠れた。品川から京急に乗り羽田空港から第1便に乗り込んだ。飛行機は羽田を発ち、東京湾を1周して千葉上空から九州を目指す。途中に富士山が見えた。富士は朝日の前に頂上には幽かに雪を持ち、新たな時代を思わせるようであった。 “富士の山は綺麗だが、私の心は晴れない。奈津とシャルムの生まれ代わりをどうしてくれようか?” 富士山のすばらしい景色を見るとなんだか奈津の事を許してやろうと言う気も起きてくる。ふとダリアの面影が浮かぶ。 “私にはダリアがいたのではないか?” 次に妻の美和の顔が浮かんだ。 “美和。愛している。” ふと呟いて美和の事を思い出していた。 美和とは、 堅二は榊家の次男として生まれて、丁度幼稚園に行っていた頃、隣の諏訪家の長女が誕生した。堅二は榊家の長男3つ上の良一と供に赤ん坊の美和を良く見に行っていた。美和は良一と堅二に可愛がられて育った。良一と堅二の行くとこにはどこにも付いて来た。やがて良一は熊本市内の中高一貫教育の私立中学に行き、勉強に励んだ。それからは堅二が良く面倒を見てやった。堅二は人吉2中から人吉高校、1浪して中央大学理工学部に行ったガ、兄の良一は勉強熱心で、マリスト学園から現役で熊大医学部に合格し、卒業後は産婦人科の医師として働いている。兄の良一は帰って来ては美和の勉強を良く見てやっていた。美和の遊び相手はもっぱら堅二の役目だった。美和も成績は良く、人吉2中、人吉高校とトップクラスの成績だった。諏訪美和は現役で熊大法文学部に合格し、卒業後、人吉市役所に勤務した。当然のごとく、両家と兄の良一のすすめもあり、堅二と美和は結婚し仲良く暮らしていた。結婚後、美和はその能力を惜しまれながらも退職し、やがて奈津が誕生したのであった。 堅二は美和とは兄妹のようにして育ったので特別な恋愛感情はもっていないような気になっていた。空気か水のような存在で、無ければ生きていけない存在だった。 “私には美和がいる。” ふと、美和の重要な存在に気ずいた。朝日に煌めく富士の山は人に重要な事を気ずかせる。 熊本空港に着陸するのに残念ながら阿蘇は見えない。阿蘇近くに空港はあるのだが、関門海峡を渡った飛行機は、九州山脈にそって走り、熊本市内を1周してから飛行場に着陸する。熊本空港から熊本駅へのアクセスがまた大変だ。バスにのって朝の渋滞に巻き込まれると、1時間以上かかる。そのバスも交通センターに寄り熊本駅に付くのは大幅に遅れる。熊本駅から人吉には特急で帰った。昼少し前に人吉の自宅に辿り着いた。 “ただいま。” “おかえり。私は、信州旅行から昨日帰って来たのよ。とても良かったわ。” と言って、堅二の顔を見ると、 “あら。あなた。記憶が戻ったのね。” と言う言葉が出て来た。思わず、 “ダリアか?” という台詞がでてきた。 涙がとめど無く出てくる。 “ダリア! 私を追ってこの世界に来ていたのだ。美和は生まれた時からずっと私のそばにいるのだ。それ以上何が望まれよう。” 堅二はいやナハトムは700年間で1番強い感激を涙にした。涙が幾らでも溢れてくる。 “私はもうこれで充分だ。ナイーダとシャルムの恋愛を応援してやろう。”
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