シャルム王子の回復の知らせが来るのはもう少し先である。
シャルム王子の全快の知らせは王のキアリに対する方針が一変してしまうのだが、それは後少しの時が必要だ。
さて、シャルム王子だが、母、ビネリー王妃、アベル、ナタリーに見守られながら王宮の一室で暮らしている。表面上のシャルムは全く何もなかったかのように平静を保っていた。 誰もシャルムの心の中は覗けない。 いつもの態度は全く代わりがなく、ナイーダからもらった薬は、1つを残して全部飲んでしまった。
ここでちょっと作家の特権でシャルムの心を覗いてみましょうか、 “ああ会いたい。ナイーダに会いたい。あの美しい姿、顔、ふくよかな乳房、あの、、、、、、、、、、、、、、、、、、、” すいません止めさせてもらいます。発禁本になってしまいます。
シャルムの体力は、日に日に回復してきた。部屋はモナム、ベドラクシュが代わる代わる見に来る。
イサクは日に3度必ず来て、必ず同じ事を言う。 “奇跡です。本当にこんな事は見た事がありません。王となるべき人なので、アッラーの神が御救いになったのでしょう。”
王宮全体の噂は懐疑から、賛嘆に変わった。懐疑とは奴隷女が殺された噂が、いろんな憶測が城内を飛び回ったのだ。
しかし、シャルム王子の回復の知らせはアッラーの神への信仰とともに、グラナダ連合国の未来も明るいものとなるに違いないと、思うのが大勢であり、奴隷女の死はしだいに忘れ去られていった。
やはり、王宮の人たちにとって、マドリッドをキリスト教国に奪われた事はショックが大きく、だんだんとキリスト教国に支配され、このグラナダの地も、やがてはキリスト教国の物になるのではないかと言う漠然とした恐れももっていた。昔はイベリア半島ほぼ全部を支配していた事からも神の子シャルムに対する新しい期待が王宮全体を支配していた。モナムやベドラクシュもその期待を新たに持ち始めた。
“イサクどう思う?シャルム様はナイーダ様をお忘れになったのだろうか?” “奇跡を起こすアッラーの神の子ですので、私など凡人には推し量れませんが、何事もアッラーの御気に召すままでございます。” 老練な医師の老練な責任のがれの一言である。しかし、イサクは心からこう思っていた。医師として絶対に助からないと思っていた病人が完全に回復したのだから。
そこでモナムはシャルム達一行をシャルムの屋敷に帰す事にした。シャルムが意識を取り戻してから、5日目の昼である。
ナハトム王にはかつて厳しく王者の教育をしてくれた、デリールという大臣がいた。とても優秀な大臣でアルハンブラの事は何もかも全て知っていた。そのデリールが年をとって、ナハトム王に申し出た。シャルムが5歳の時である。 “ナハトム王様私は現役を引退してシャルム様の教育係にして下さい。シャルム様を時期王として立派に育てたいと思います。あの者には王としての素質がございます。” ナハトム王は許した。 しかし、デリールはシャルムが12歳の時になくなった。デリールが78歳の年齢の時であった。 デリールはシャルムが5歳にして誰も知らないアルハンブラの抜け道を自由に行き来しているのを見て吃驚(びっくり)したのだった。 その時はデリールは誰にも知らせず秘密の抜け道のチェックをしていた。たまにチェックをしないと道が崩れたり、壁の部屋が開かなくなったりする恐れがある。屋上の壁のレンガを1本抜き左に引っ張ると壁が開くその時中からレンガを引っ張る者がいた。 デリールは物陰に隠れて、 “この王宮の秘密を知る者は生かしてはおけぬ。” と剣に手をかけ、様子を見ると何と5歳のシャルム王子であった。壁を開け、締めた後ちゃんとレンガを背伸びして元に戻した。 “賢い子だ。” そして出ていって、 “王子様。この抜け道をどうしてお知りになりましたか?” と聞くと、 “わしの秘密の通路じゃ。いつも城で遊んでいるうちにいろんな通路を知ってるよ。わし1人の秘密にしていたが爺にも教えてあげようか?” “是非教えて下さい。2人だけの秘密ですぞ。” と言って、シャルムの後をついていくと、アルハンブラの秘密の通路の3分の1程を自分だけで見つけていた。 “そろそろナハトム王様に秘密の通路を教える時期だ。” と思っていたが、 “ナハトムに教えるのはやめてシャルムに教えよう。それがアッラーの意志に違いない。” と思い直した。 シャルムは12歳の時までにアルハンブラ宮殿のすべての秘密の通路を知っていた。宮殿だけではないアンダルシアの野や、シェラネバダ山脈にかけてもいろんな抜け道や洞穴などがある。デリールは、11歳の頃王子をシェラネバダ山脈に連れ出して全て教えてしまった。王子に全ての秘密を教えた後安心して死んでいった。実はナハトム王の前の王から “お前が適当だと思う者に秘密の通路を教えてくれ。” と言われていたのだ。一時はブッテリアを思っていたが、それも適当な者とは思えなかった。ペナムに教えるのは少し危険な気がしていた。そこで、 “ナハトムが適当な人かな。” と思い始めていたが、 “アッラーの神の教える適当な者はシャルムだったのだ。” と思った。 アルハンブラ宮殿の秘密の通路を知る者はシャルム1人しかいなかった。 王家の者が住む屋敷には必ず1つ2つは秘密の通路がついている。 勿論シャルムの館にも。 シャルムの屋敷の秘密通路は1つ。食堂の下に食物貯蔵の倉庫がある。腐りやすい物などその当時は冷蔵庫はなかったので地下に保存していた。地下へは食堂の右端をあけると階段になっていて、階段をおりるとかなり多きな地下貯蔵庫である。酒類の貯蔵もしてある。その部屋の右端に少し突出したレンガがある。それを引っ張り、横のレンガの扉を横にずらすとひと2人とおる通路が開く。その通路は中に入り、閉めた後、中からレンガを入れ込むとぴったり閉まる。次にあける時の為、少し引っ込めておくか少し出しておくと目印になる。この屋敷の秘密の通路がシャルムが最初に見つけた通路だったのだ。夜中にシャルムは起きだしてナイーダ王妃のいる部屋の、中庭に通じている事を確かめた。 ナイーダの影が見える。 “もうしばらくほとぼりをさましてからな。” 今すぐ会いたくてたまらなかったが、ナイーダの周辺には見張りがついているので、 “もう少し時間が経ってから。10日過ぎに行こう。” と思って、その日は元に戻ってきた。
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