一行はその日はカチィスからタリファに着いた。翌日は船でセウタに行く。船の準備はすっかり整っている。 夕食の後、王のとこに主だったものが皆集まった。 “キアリ。もういいぞ。眠たいだろう。今日からわしと一緒で王様の勉強じゃ。ベネヂア御苦労だったな。キアリよ!ベネヂアはこれからますます忙しくなるんだぞ。ますます眠れなくなるんだぞ。ベネヂア達の苦労をよくわかっときなさいよ。” “はい!身にしみて分かりました。” “それで、ベネヂア、新しい情報は?” “は!ビグドリア王に捕われた密偵が大切にされているそうです。よほど我々に良く思われたいようです。そして、金の鉱山の産出量は9700万メレニア。ペセタにして約9700億ペセタ以上です。” “良くやった。後でビグドリアに手紙を書く。筆記係を呼んで、話が済むまで待機させておけ。” そしてキアリに向かって、 “わしがどういう手紙を書くか分かるかな?お前が王ならどんな手紙を書く?” と聞いてきたので、キアリは “はい、私だったら、我々は圧倒的な勢力を持っているので、降伏しなさい。” という内容の手紙を書きます。“ “キアリよ。交渉ごとは落としどころを正直に書くと、こっちの意図がすぐ分かり、足下を見られるものなのだ。だからしばらくは、まだ戦闘になると大軍勢を相手にしないといけない、その恐怖を体の芯まで思い知らせてやるのじゃ。 しかし逃げ道だけは残してな。わしから手紙が来ただけでも1つの救いではあるのじゃぞ。まあわしの手紙を見ておきなさい。“ と言って、もうしばらく続いたミーティングの後、皆が出ていった。キアリは今日から王と一緒である。2人きりになると王は書記を呼んだ。 “今から手紙をビグドリア王に書く。いつものように口述するから筆記せよ。 いいか?“ “はい用意はできております。” “先日、貴公との戦いで負傷したシャルムは”“悪魔付き”“で、意識不明の重態である。今日、明日の命である。シャルムはアルハンブラ王国、グラナダ連合王国の次の王になる予定の者だっただけに、わしをはじめ、全国民が悲しんでいる。部下達は貴公を絶対に許すなといきまいておる。しかしながら、わしの愛するナイーダは貴公の本当の娘という。また部下の早合点で貴公の和睦の使者を殺してしまった事は申し訳なく思っている。わしもマドリッドという重要な地域を捨ててきたので、簡単には引き下がれない。お互い徹底的に戦おう。” “では読みなおしてくれ。文章におかしなとこはないか?” 書記官は、読みなおした。 “よろしいかと思います。” “キアリよ。ビグドリア王国にちかずくにつれ、ビグドリア王の返事が変わってくるのをよく見ておくんだな。今からお前は王のやり方を身につけるのだ。ブッテリアが”“シャルムを早く王の手許におき、いろんな勉強をさせるように”“と言っていたが、わしはまだ早いと思っていた。こういう結果になるのならもう少し早くわしの手許において鍛えていればよかった。” と言いながら涙を流している。キアリも慕っている兄の死を目前にして涙が流れてきた。 “あ、その手紙はベネヂアに渡して適当なものに届けさせてくれ。では下がってよいぞ。” と言った後、2人ともシャルムを思いおもいっきり涙を流した。ナイーダがジプシー村に訪れた時期である。人間は共通の悲しさを持つ2人きりになると涙が増幅して出てくるものである。キアリは王の息子に対する愛情を身にしみて感じた。 王の基へもいろんな人が訪れる。主にタリファ近くの部族長である。皆精一杯の貢ぎ物を持ってくる。王に対する忠誠の印でもある。次から次に来る部族長達に、王とキアリは丁寧に応対する。キアリを横に連れて応対するというのは、次の王はキアリだと決まったようなものだ。王もまだ若いし、後継者問題にはまだ早いと日頃から思っていたが、シャルムがあのような目に合うと、いろいろ王も悔やむところがおおい。 “もう少し手許において教育して戦場に送りだせばよかった。” これが1番の悔やむとこである。ブッテリアを付けてやっていたので安心したが、それがうまく機能しなかった。しかし王達には悲しむ暇も、悔やむ暇もない。部族長達は貢ぎ物を持ってきて忠誠の言葉をいうだけではない。必ず1つ2つの要求をしていく。貢ぎ物が多い程要求が面倒である。王の裁断ですぐ済むものもあるが、多くは部族間の争いだ。無下にはできないので、それぞれに部下を割り当て解決に当たらせる。キアリは王がこんなに忙しいとは思わなかった。この他にもアルハンブラ宮殿からの手紙、ブッテリアからの手紙、カタルーニャ地方ではキリスト教国との戦いがいまだ続いているが、そこからの手紙、グラナダ連合国の多くの部族長からの手紙、息つく間もなく仕事に追われていた。書記官がいなくなって王とともに泣いた時間だけが自分達の時間だった。しかし睡眠時間だけは取れた。夜、11時を過ぎると面会者はさすがになく、2人ともゆっくり寝られた。
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