翌朝、3万数百の一行は、コルトバを立ち、セビーリャについた。王の放った間者達が次々とベネヂアに報告をもたらす。ベネヂアはマドリードに潜伏しているペナムの弟子で、今はナハトム王のスパイの統轄をしている。すべての情報を受け、最も必要だと思われるいくつかを、王に報告する。だから報告する内容は、王の今、大事に思っている件が中心となる。そのベネヂアにキアリを付けている。ナハトム王は、シャルムが助からないと知って、もう少し早くから実戦の教育をしとくべきだったと、後悔していた。キアリはまだ早すぎるかも知れないが、シャルムが死んだら有力な跡継ぎはキアリしかいない。他の王子達は、いずれもたすきに長し、帯に短しといった感じなのだ。王の体が万全だったので、跡継ぎはまだ早いと思っていたが、跡継ぎの最有力候補が、あのような目に会うと、次の跡継ぎは実戦を覚えさせながら鍛えていくより他はない。夜中でも早朝でもひっきりなしに来る間者に、キアリは2日目にして睡眠不足である。間者(スパイ)が出ていくたびに、ベネヂアは丁寧にキアリに説明する。 “さっきの者は、ビグドリア王の周囲が3万の兵がじわりじわりと近ずいてくるのを知って、かなり慌てているそうです。ビグドリア王自身の情報はなかなか入り込めないらしくあまりはいってはこないようです。かなり警戒が厳重なのでしょう。その点、味方だからなのか、警戒が甘いのかルイトン王の情報は良くはいってきます。” “味方のとこまでスパイを送り込んでいるのか?” “いつ裏切るか分からないからですね。味方と思われているものが最大の敵になるのですよ。” キアリは情報の大切さを身を持って体験している。ベネヂアのナハトム王に対する報告が又見事である。山ほどの情報を簡単にまとめる。 “我々がゆっくり侵攻していく事で、ビグドリア側はかなりおびえているようです。ベルベル人達は報復をおびえて混乱しているみたいです。ルイトン王はこちらを頼りにして殆ど無警戒です。” “ルイトン王の器量がとわれるなあ。マチアは本当はどちらの王を好きなのだろうかなあ?ナイーダのあの賢さは、やはりビグドリア似なのかな?” と思ったが、誰にも言わずに、 “ベルベル人の信頼ある男に、ナハトム王は”“今回は賃金の支払いが遅れたわしらも悪かった。以後賃金の支払いは決して遅れずに、今の2倍になるから戻ってこい。全て許す。”“と伝えてもらってくれ。” キアリもそこにいるので、 “いままでは払いたくても払えなかったのじゃ。これからはビグドリアの金がはいるのでそれが資金源だ。” キアリは、 “結局は相手の金を当てにしてるのか。” と思った。キアリはまだ若く、慕っているシャルムが重態に陥った事も王が悪いような気がしてやり場のない怒りは王に向けられていた。 “本当に許すんですか?” と、律儀なキリアーニが聞くと、 “キリスト教国との戦いには、ベルベル人が頼りなのだ。今回の裏切りは賃金の支払いが滞っていた為で、いつもだったら彼等は裏切ったりしてないんだ。もともと律儀な種属だからな。今度は相手もアフリカ勢だったし身内で戦いたくもなかったのじゃろう。キリアーニ、余り目くじらをたてるな。うまく人を利用しないと戦いには勝てないぞ。お前もブッデリアの事を聞き、うまい具合に戦いを押さえていれば、このような結果にならなかったのじゃ。その為に、ブッテリアを付けてやったのに。また、ビグドリア国の金の半分でもはいれば、ベルベル人をかなりの人数雇える。ベルベル人は勇敢で強いからな。お前も敵として戦ったから分かるだろう。” “確かに強うございました。” ダリルもキリアーニも小さくなった。あの時点では戦いたくってしょうがなかったのだ。 大部隊は翌日はカチィス泊まりになった。カチィスの夜も密偵が後から後からやってくる。 “ビグドリア王の近くに潜り込んだものが捕われました。何にも喋ってはいないのですが、ビグドリア王はこちらのスパイだと疑っているようです。その為かなり好意的に扱ってもらっているようです。捕まる前に受けた連絡では、ビグドリア王はかなりおびえているようです。” “3万という大軍がそう思わせているのだな。ナハトム王様の思惑どうりだ。” キアリがナハトム王に何か不満があるのを見抜いている。ナハトム王の知略を誉めたたえる。 朝方3時頃、2人が熟睡している時、新たな密偵がやってきた。 “ベネヂア様、フェズリアの金の鉱山の月産出量が分かりました。9700万メレニアだそうです。” メレニアはアフリカの貨幣で物々交換が盛んなアフリカの地に於いて、1メレニアは1万ペセタ以上には相当する。 “そんなに産出するのか?これはナハトム王様の交渉の切り札にもなるし、すごい情報だ。誰がとってきたのだ?” “カリペナンです。鉱夫になって潜り込んでいます。” “キアリ様。この男は今回の密偵の頭をしているコロニプリアです。私の右腕になってくれている男なので、御見知りおきください。” “これはキアリ様ですか?お初にお目にかかります。コロニプリアでございます。” “キアリだ。よろしくな。” 眠い目を擦りながらキアリも挨拶をした。 “先程名前のでましたカリペナンも覚えておいて下さい。貴方様にきっと役に立つ人材で、今19歳です。若者の中では最も頼りになる密偵です。” ベネヂアが言うと、あくびをかみ殺して、 “分かった。カリペナンだな。覚えておく。” とキアリは答えた。 “カリペナンはペナム様のようになるかも知れませんな。” コロプリアが出ていった後、ベネヂアは呟いた。 “さあ、眠れる時に眠っておきましょう。” 2時間くらい眠ったら、 “ベネヂア様。ナリニク将軍が参りました。” ベネヂアはすぐに跳ね起きた。キアリはまだ熟睡している。 “キアリ様。キアリ様。” ゆするとやっと目を開けた。 “ナリニク将軍がまいっております。おそらく、金の月間産出量を知ったのでしょう。ナリニクとの駆け引きも大事ですから、顔でも洗って目をさましてよく駆け引きを見ていて下さい。” ナリニクが入ってきた。 “やあ!朝早くから済まん。すごい情報が入ったんだそうだな。” “さあ何の事でしょう?” “しらばっくれるな。これで、和平交渉もうまく行くな。ビグドリア王はびっくりするぜ。” “その情報はどこから仕入れになりました?” “それは言えん。情報源を明かせばわしの価値が下がるからな。” “情報源が分からなければ、我々情報活動をするものの妨げになるかもしれません。ナハトム様に言ってでもただしますぞ。” ベネヂアの強い態度に、 “先程、ペナムからの知らせを受けたのじゃあ。あまりの大きな情報に居ても立ってもいられなくなってな、ここに駆け付けた訳だ。” “ペナム様ですか?なるほど。マドリッドにいながら、ペナム様の情報量は大したものです。” “で?他に何を聞きたいのです?” “ビグドリア王は和平交渉に応じるだろうか?またその時のルイトン王の態度はどうなるだろうか?後々禍根を残さないだろうか?わしはその両国からの兵士とベルベル人の兵士を合わせて訓練する事になるので、それが一番気掛かりなのじゃあ。” “ビグドリアはもともと和平を結びたかったのです。彼はナイーダが自分の娘だと言いたかったのですが、それが叶わなくてここまでこじれたのです。彼はルイトン夫人のマチアを手に入れたい為に戦争しているようなものです。おそらくそれは叶わない事ですが。和平後、禍根は残さないでしょう。おそらくマチアが鍵になるでしょうね。” キアリがびっくりして尋ねる。 “ナイーダ様はビグドリア王の子なの?” “キアリ様。これは超1級の秘密ですので、決して人に言ってはいけませんよ。将軍以上か身内しか知らない事です。しかしアフリカでは知れ渡っているかも知れません。こういう噂は早いですからな。アフリカにつくまでは秘密にしておいて下さい。” “そう言えば兄上は、”“ナイーダ様を好きになった。”“と言っていたな。”などと思っているうちに話は進む。 “では和平交渉はうまく行くんだな。” “我々のゆったりとした行進が進むに連れ、和平の内容もだんだんこっち有利になり、着いた時は殆ど決まっていますよ。勿論言葉の上では最初から始めるのですが。” “それを聞いてこれからはゆっくり寝られる。” “我々は眠れないだろうな。” と思いながらキアリは聞いていた。
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