モナムは腹心のベドラクシュを呼んだ。ベドラクシュはキリアーニと剣の腕が1、2を争うと言われているモナムの忠実な家来である。 “ベドラクシュついて参れ。但し、いつものように、今回も聞いた事、見た事はすぐに忘れるように。” “ははっ!畏まりました。” ベドラクシュと一緒に、シャルムの部屋にやってきた、 “シャルム様。ナイーダ様が5分だけお別れの言葉を言いたいそうです。ほんの少しだけ時間を与えますので、最後のなごりを惜しんで下さい。” 王子は喜んでついてきた。まだ体はふらふらしている。それをベドラクシュが支える。 “ありがとう。ベドラクシュ。” 王子は、ベドラクシュに支えられながら、ナイーダのとこまで連れていかれた。 “ベドラクシュを呼ぶまでもなかったかな?”モナムは苦笑しながら、2人の後をついていく。 “ナイーダ様。シャルム様を連れて参りました。お別れの言葉をお願いします。” シャルムがはいっていくと、モナムは手招きして、自分とベドラクシュを部屋の外に出した。 ナイーダは、 “良かった。時間がないので詳しくは話せませんが、あなたはこの薬で助かったのです。後4日間、1日3回薬を飲んで下さい。それから、この薬はあなたと私が未来の世界で結ばれるものです。飲むと死にますが、死んだ後、未来の世界で結ばれる薬です。決して間違えないで下さい。” そういって薬を渡すと、シャルムは、 “10日間おとなしくしている。その後会いに来るので、来たらこそっと窓を開けてくれ。窓から来る。” と言った。ナイーダが何か言う前に、 “ではナイーダお別れだ。” とみんなに聞こえるように言い。薬を持って懐に隠し、部屋を出ていった。 “モナム。ナイーダとは別れてきた。” と言い、ふらつく体をベドラクシュに支えられながら母達のいる部屋へと帰っていった。
ここで、時間は昔に戻るが、ナハトム王達の行動について述べてみたい。ナハトム王は完全にシャルムの事は諦めていた。むしろシャルムの死んだ事を口実に、背景に3万という巨大な戦力を見せ、ビグドリアとの和平交渉を有利な方に持っていこうとしていた。それにはダリルやキリアーニに戦争だけではなく和平交渉も大事だと経験をさせたかった。未来のアルハンブラ王国を支える力になる2人で、シャルムが死んだら、まだ若いが、能力の高いと言われているキアリ王子に2人を付けて、王国の発展をはかりたかった。そこでこの3人を今度の遠征に連れ出した。王の部隊100人あまりは、グラナダで約3万の兵士と合流した。アルハンブラ王国きっての将軍ナリニクが王に面会を求めきた。そこにはキアリ、ダリル、キリアーニが同席している。 “王様。どうしてマドリッドを与えてまでも和平を結んだんですか?マドリードをとられたら殆どカスチィーリャ国にこのスペインの地は取られてしまいますぞ。” “ナリニクよ御苦労だったな。実はビグドリア国には豊富な金が採れているのじゃ。正確にはフェズリア国だった地域だがうまく和平交渉に持ち込めば、8割の金をもらえる事ができるかも知れないんじゃ。さらに彼等はエジプトやメソポタミアなどからダリルの騎馬隊に匹敵する騎馬隊を持っているそうだ。その騎馬隊を借りれば騎馬隊の戦力は今の3倍、そちの部下のベケルビダの騎馬隊に指揮させると相当な戦力になるぞ。” その話を聞いてダリルは嫌な顔をした。ベケルビダと仲が悪くて、アルハンブラまで引き返してきていたのだ。 “しかし、そこにいるダリルとベケルビダは犬猿の仲ですからな。” “和平がうまくいって、騎馬隊の再編となれば、ベケルビダを休ませて、騎馬隊をダリルに任せてみればどうじゃろ。ベケルビダも連戦でとても疲れているようだし、なんせもう50過ぎている。この前もわしに休暇願いを頼んできていたのじゃあ。” “その事は私も知らない事ですが、本人がそういうのであれば、休ませるのもいいかも知れません。” ダリルはその言葉にとても喜んだ。もともとベゲルビダはダリルの騎馬の先生だったのだが、ダリルの技術が上がっていくにつれ、ダリルにひどく当たり、完全にダリルと仲たがいしてしまっていた。そもそもこの時代のカトリックを信じるキリスト教徒の騎士の戦いは、1体1で戦い勝った方が、非常に尊敬される。アルハンブラ国はイスラム教なのでそれほどではないが、ベゲルビダの30代、40代の前半頃までは、騎馬の技術に卓越し、西洋で及ぶものはいない程の力を持っていたが、40代後半から力が衰えだし、ダリルの力が衆目の見るところでも明らかに上であったが、何せ過去の栄光が物凄いものだったので、誰も文句は言えなかった。今日の王の決定は、ナリニク将軍にとっても喜ばしい事であった。 “これからはカスティムリャ国との戦いを再開しても、かなり有利になるな。” とナリニクは思った。 “分かりました。王様の決断に従います。” もともとナリニクはナハトム王の全体を見据える能力に感心してもいた。 “確かにナハトム王の言うように、ふんだんな金と、騎馬隊が優秀な戦力をましたら、マドリッドの奪回は可能であろう。しかし、和平をしてすぐに和平を破るのはどうであろうか?道義に外れているのではないだろうか?” そう思っていたら、ダリルが、 “王様。ビグドリアとの和平がうまくいっても、ただちにカスティーリャ国と戦争を始めるのははやすぎませんか?” と言った。 “その日の為にペナムをマドリッドに残しているのじゃ。1年もした頃、マドリッドの市民が、カスティーリャに対して不満があり、市民運動を起こすはずだ。そして、アルハンブラの支配の方が市民にとって良かったとなる。その時にアフリカで訓練したベルベル人を含むアルハンブラの兵と、グラナダに引き上げている兵が呼応してマドリードにせめこむのじゃ。ナリニク、ダリル、キリアーニはアフリカに残ってアフリカの兵の訓練をしてもらうつもりである。そうするとカスティーリャ国には情報も漏れまいて。” 一同、王の知略に感心していた。 “その時の総指揮はナリニクに任せるが、キアリも参戦させる。シャルムの初陣が遅かったのと、シャルムの周りに丁度良い経験者がいなくてこの前の失敗につながったのじゃからな。キアリ。戦いの仕方、和平の結び方、交渉の仕方をよく見ていくんだぞ、しゃにむに戦うだけが戦争ではないんだぞ。” “はい分かりました。” シャルムの重態の知らせに意気消沈していたキアリも少しは元気を取り戻しかけていた。
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