そんな話をしている時、アネルダが現れた。いつもの雰囲気とは違う。 “マレナリア御苦労様。あっちの家にいっといで。” と厳かな言葉で言った。マレナリアは出て行った。 “さて、これが薬だよ。丸薬で16個ある。” “何の事でしょう?私には分かりません。” “そうだね。それで合格だよ。とにかくお前からは秘密は言ってはいけないからね。それだけジプシーの秘密は大事なのさ。秘密がばれると、権力者達が秘密を求めて、ジプシー社会は崩壊するからね。簡単に言ったらこの薬は黴菌を殺す薬だよ。遠い未来には社会に流通して抗生物質と呼ばれるんだが、そんな事は世界中で私しか知らない事だよ。私はジプシーの頭領になっていろんな事が見えるようになったんだよ。” 聞きたい事はいっぱいあったが、全部ジプシーの秘密に当たる事で、それも 一部の幹部ジプシーだけしか知らない事を言っているようで、そのおご魚喋りに圧倒されて、ナイーダは黙ったままでいる。 “そうだよ。お前は黙って聞いているだけでいいんだよ。下手な事を言うと、そこで秘密を喋った事になりアウトだからね。その丸薬の飲みかただがね、まず黴菌を殺す為に2個のませるんだ。その後は6時間おきくらいに1個ずつ5日間飲み続ければいいのさ。6時間は適当でいいよ。まあ1日3回食事の後くらいでもいいよ。1日か2日でほんとは大丈夫だが、ぶり返す場合があるのでな。用心の為5日間飲んだがいいんだ。” “最初は2個、後は日に3回1個ずつ。” ナイーダは心の中でくり返した。 “永遠の愛って大事だと、よく私はいってるが、愛って何かと言うと記憶だよ。その記憶とはね。ここから先は難しくって分からないかも知れないが、一応言っておくよ。返事はいいから聞くだけ聞いときな。記憶とは何かと言うと脳の中のタンパク質だよ。このタンパク質と脳の電気の流れが相まって記憶を生み出して行くのさ。そのタンパク質を作るのは核酸さ。核酸は生命の基なんだよ。王子を苦しめている黴菌も核酸からできているんだよ。もっと小さいウィールスというものも核酸からできてるんだ。植物もそうだよ。ありとあらゆる生命体は核酸からできているのさ。その核酸はアデニンとチミンが必ずくっつき、グアニンとシトシンが必ずくっついて2重らせん構造を作っているのさ。それこそ長い長い鎖になっているんだよ。それが永遠の愛の正体さ。つまり永遠の愛とはくっつくべくしてくっつく核酸の相手方のつながりの事さ。これから世界いや宇宙のつながりができているんだ。これこそが宇宙の真理だよ。” ここでアネルダはマレナリアが用意していた飲み物をうまそうにいっぱい飲んだ。 “これから先はその後の事だよ。あんた達は一時は肉体的に愛しあうよ。それからが、大変さ。ここに薬が2個ある。1個はシャルムにもう1個はお前が飲むんだ。そうするとそれでお前達は死んでしまうよ。だがこの薬はね簡単にいうと記憶物質がうまく残るように配合され、それから黴菌やウィールスの核酸の中に入り込んで何百年か先にどこかの地で再生されるように工夫した薬さ。人間はね死んだら腐敗する。だが核酸の一部は腐敗菌の中で残って行くのさ。つまり黴菌やウィールスの一部になって残って行くのさ。だから生命はどっかで繋がっているのさ。さあこれで終わりだよ大事な事は全部はなしたからね。明日は暗いうちに出て又ジプシーの頭巾をかぶりダリアになって帰るんだ。明日の朝の門番は、出て行った時の門番だよ。それは手の者を使って確かめているから間違いないよ。ではもうあう事もないだろう。さようなら。” といって出て行った。ナイーダはお礼をいいたかったが、それも言ったらいけないようで、黙っていた。 心の中で、 “どうもありがとうございました。” と呟いていた。 やがて、マリナリアが帰ってきて寝る準備をしてくれた。しかしナイー出はベッドに横になっても一睡もできなかった。宇宙の真理を聞いた喜びと、これから先起こる事の不安。シャルムが回復した事を考えての、興奮。瞬く間に世が白んできた。ナイーダが起き上がると、マレナリアも起き上がった。さすがは武術の達人である。朝の準備をしてくれてジプシーのフードをすっぽりとかけてくれた。 “本当の友達にあったようでした。” とマレナリアが言ったので、 “私達は永遠に友達よ。” と答えた。まだ空が白んで、薄暗い時にナイーダはここにきた道を逆に辿ってアルハンブラっ宮殿へと帰って行った。
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