翌朝、ナイーダは朝食をとった。いつも心に気にしているのはシャルムの状態だ。それを見越したようにアネルダがやってきて、 “もう一日泊まって行くんだね。それがジプシーのきまりなんだからね。シャルムはずっと変わらないよ。死んじゃいないさ。私には何だって分かるのさ。それもジプシーの秘密だよ。人に言ってはいけないよ。ギニリアがいろんな話をしたみたいで、やりにくいったらしょうがない。ギニリアが言ったように、ジプシーの頭領になったら何でも分かるようになるのさ。詳しい事は夜話すよ。今はそういう時間じゃないからね。こんな話をするのも全部ギニリアのせいさ。お前は特別な存在になっちまったようだね。こんな事は初めてさ。” そしてマレナリアの方に振り返って、 “マレナリアこのナイーダはお前と同じ年齢だよ。この子にはジプシーの秘密を喋ってもいいから、仲良くしなさい。でもナイーダくどいようだけど、あなたは一言でもジプシーの秘密を喋ったら駄目だからね。私にでもだよ。いいかい。悲しい事になるかも知れないが、シャルムにも喋ったらいけないからね。いいかい、愛は永遠なんだよ。あっそうだ。マレナリア、朝からフラメンコの練習をしているところを奥を含めて見せに連れて行っておあげ。アマリーザには伝えておくから。” マレナリアは、 “えーいいんですか?” “いいよ。” 遠いかなたを眺めるような仕種をして部屋をでて行った。アネルダも愛する人がいたに違いない。でもこの会話から、ナイーダはフラメンコの練習場にも尋常でないジプシーの秘密が隠されている気がした。 “本当はこの部屋から一歩も出てはいけないんですけどね。こんな事は私は初めてですよ。” マリナリアはナイーダを案内して数百メートル先の広場と大きな建物のとこへ案内した。そこには背の高い、すらっとした女性が待っていた。周囲にはフラメンコの練習をしている女性、男性がたくさんいて、楽器を練習している主に男性と、年とった女性がいた。 “やあナイーダかい。私はここの責任者だよ。アルハンブラの人をここに入れるのは初めてだよ。よっぽどアネルダ親子に気に入られたんだね。” と言って、 “ここは主にフラメンコを練習する場所さ。中の建物で行っている事のカムフラージュでもあるんだよ。” 建物の入り口には屈強な若者が2人立っていた。おじぎをする2人の間を、アマリーザ、ナイーダ、マレナリアと続く、 “ここは武道場だよ。ジプシーの秘密の格闘技を教える場所だよ。マレナリアはここの女性では最も強かったんだよ。だからお前さんの警護をしているだろう。” “やはりあの強盗は芝居だったんだ。マリナリアも芝居をしてたんだ。” と思った。そこでは奇妙な動きをした少年少女がたくさんいた。 “いまのは防御の動きだよ。例えばナイフを持った男がこうきたとするだろう、それをこのように引くように受けて、ひじで反撃するんだよ。同時に男なら金的を、女ならみぞおちを蹴りあげるのさ。”向こうではナイフの扱った練習をしているのさ。ジプシーは平和主義で、決して争いはしないんだが、防御のためと、秘密を守れなかったものや、この世の中で本当に良くない者達の排除をしているのさ。もちろんただの悪者は排除しないよ。そうだねえまあ意味の無い子供殺しをする人間なんてその排除される者にあたるかな。子供はこの世の宝だからね。“ マレナリアも付け加える。 “とにかくジプシーは時代の流れ、自然の流れを大事にするんですよ。その流れをさおさすものは排除する事がありますね。” この話はすごく恐ろしい事を意味する。 アマリーザはそれをさえぎって、 “マレナリアちょっとナイーダに護身術を教えておやり。” マレナリアが基本的な事を教えると、ナイーダは器用にこなす。 “ナイーダあなたは武術の訓練を為さっていたのですか?” ナイーダの母マチアは武道の達人をつけて、ジュリアーノとナイーダを小さい頃から鍛えていた。ここで何故自分達を鍛えたか、ナイーダは母が戦えなくて捕虜になった悔しさを感じた。勿論ロルフ王子は武術訓練は当たり前の事である。 “母から武術の達人をつけてもらったのです。” と言うと、アマリーザは、 “昔私達が20人程、アフリカの地を旅した時、アネルダが自殺しそうな女王の話し相手になって救った事があるけど、あれはあなたの母上だったのかな?アネルダは、ジプシーは男が変わって行くのは当たり前だが、王家の女は何とひよわなもんだなとか言っていたが、大分いろんな話をして慰めたらしいよ。” “多分母はそれで強くなったのだと思います。” 母は自分達姉妹にたいして処女性は全く教育していない。むしろ、 “男が変わったらそれに従うのが女の生き方です。” と教えてきたのも母の辛い経験からなのだろう。 “でもいったい母の永遠の愛の相手は誰なのだろうか?” そう考えていると、マリナリアは、 “この奥はいかが致しましょう?一般の女性にはショックが多いかと思いますが?” “そうだね話だけにしておこうかね。この奥ではね、いわゆるベッドテクニックを教えてるんだよ。ジプシーは男に好かれる為にあるからね。勿論大っぴらには言えないが、女を喜ばす男達も練習しているんだよ。まあお前さんには刺激が強すぎるからここまでにしておこうか?夜の寝室での会話がもっとも秘密が聞きやすいし、秘密ももれやすいからね。お前さんも、寝た後の秘密保持には気をつけるんだね。ジプシーは訓練しているから、決して自分からは秘密は喋らないのさ。” “暗殺をするのも性交時が一番簡単なんですよ。” マリナリアが時々恐ろしい事を言う。秘密を喋っていいと言われるとつい言えない事を喋りたくなるものみたいだ。ジプシーの秘密武道場を出た頃には、昼過ぎになっていた。ジプシーは昼ごはんは食べず、果物を少し食べる。マリナリアとナイーダは自分達の家に戻って果物を食べた。 “やっぱりあの泥棒はお芝居だったんだね。核心の演技で分からなかったわ。” “そうなのよ、乙女の首に傷をつけて、もう少し深く傷をつけたら体を蹴りあげてやろうかと思っていたのよ。” “加減していたのが分からなかったわ?” “あの人が私の愛する人なの。もちろんジプシーだから特定の夫は持てないけど、ジプシーの中ではあの人とだけしか夜のベッドはともにしないのよ、” “彼は他の男性に抱かれる時やきもちを焼かないの?” “彼はやきもちをやかないようですわ。私は彼がいろんな貴族の女性に呼ばれて夜のお相手をする時は最初はやっぱし嫌だったんですが、何せあのようにいい男でしょう。余りの多さに慣れちゃいましたわ。” “ごめんなさい。やっぱりあの時は恐くてとても顔を見る余裕はなかったの。” “あの人もジプシーですが、父親はアルハンブラの大臣らしいですわよ。勿論これも秘密ですけどね。秘密が多くて大変でしょ。守れる?” “ここでの事は頭にブロックをかけて忘れるようにしているの。” “それがいいですわ。私達は子供の時から秘密保持の為に大人からずいぶん厳しくしつけられるの。だからジプシーの子はジプシーのいるとこからは出ないでしょう。あれは子供はつい喋ってしまうから、秘密保持の為でもあるのよ。” “ジプシーの為にも隔離されている方がいいのだ。” とナイーダは思った。マレナリアはジプシーの秘密を言ってもいいと言われたので、後から後から話をしてくれた。夕食後も話の種は尽きない。
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