しばらくして、隣の家に来客があったようだ。やがて、お付きの1人が1人の女性を連れてきた。その女性はアネルダにとても似ていたが、少し若かった。 “アネルダ様の妹で、ジプシーの頭領補佐のギニリア様です。” “おやおやあなたがナイーダかい。ジプシーじゅうに話題になってるよ。評判通りきれいな顔をしているね。” “ギニリア様ナイーダと申します。よろしくお願い申し上げます。” “マレナリア、ちょっとナイーダと込み入った話があるので、お前は隣の家に行っておいておくれ。話が終わったらまた呼ぶから。” “はい分かりました。” と言って、マレナリアはでて行った。 “ナイーダ。私はアネルダに聞いたんだけど、ジプシーの秘密の薬をほしがっているそうだね。” “何の事でしょう。私は何にも欲しがってはいません。ここに来たのは、ナハトム王様の戦勝祈願に来たのです。” “ひょっとしたら、お芝居かも知れないが、絶対に秘密を話してはいけないのだ。” と思って、さらに、 “このような事を思う自分も脳にブロックをかけて。私はここに本当に戦勝祈願を頼みに来たので、それ以外の目的は無い。” と思いこんでいた。 ギニリアは尚もかまをかけてくる。 “私は、アネルダの妹だから、何を言ってもいいのよ。安心なさい。” ナイーダは、 “これからは、私にも話さないでね。” と言ったアネルダの事を思い出し、 “これは私が試されているのだ。” と思った。 “ジプシーの秘密は本当に命がけで守らないといけないものなんだな。” と思っていると、ギニリアは戦法を変えて、 “薬の作り方はね、アネルダだけが知っているのさ。私は知らないんだよ。” “何の事でしょう?” “ジプシーはね。不思議なもんでね。頭領になると自然と不思議な力が付くみたいなんだよ。私もね、副頭領だから、ぼんやりと依然と違う力が付いた気がするんだが、頭領の力は具体的にはっきりといろんなものが見えてくるんだよ。” ナイーダは黙っている。 “次の頭領はおそらくダリアだね。そうするとダリアにもいろんな力が付いてくるのさ。あんたはダリアと仲がいいみたいなので、得をするよ。” “こんなにジプシーの秘密を言っていいのだろうか?” とナイーダは思っていると、 “お前が思っている通りさ。お前は自分から秘密を言ったらおしまいなのさ。ただ私がこの役を飽きてしまってな。ずっと騙し続けるのに飽きたんだよ。そうだよ、昨日の強盗も仲間だよ。しかしお前さんはずっとしらばっくれるんだね。明日姉が来て同じように薬の話をするけど、お前にとっては知らぬ存ぜぬで通さなければならないんだ。そうしないとお前が話した時点で関係者は皆殺されるからね。ジプシーの秘密はそれほど大事なんだ。なーにお前が一生誰にも話さなければ、秘密は守れるんだ。簡単な事だよ。” “なるほど” と思ったがうなずく事はできない。 “分かりました。” とでも言えば、 “さあ秘密を言ったね。お前はもう駄目だよ。” と言われかねない。ナイーダはとにかく “自分は何も知らないんだ。知らない事を聞いても知らない事は知らないんだ。” と強く決心して、 “私は王の必勝祈願に来ただけです。” とくり返す。 “そうそうその調子。” どこまでが本気でどこからが罠なのか分からないが、ギニリアは話好きだ。 “だいたいアネルダ姉さんは用心深すぎるよ。私にこういう役をさせるなんてさ。嫌な役だよね。本当の事を喋ったら、お前は地獄行きだよ。ついうっかり喋ってもね。我々ジプシーは宇宙の真理を知っているからね。一番大事なのはうまくバランス良く生命体が守られる事さ。それが宇宙の真理だよ。生命体って人間だけでは無いんだよ。人間もただの生命体の乗り物さ。まあそういう言い方をすれば地球も宇宙も乗り物だけどね。” 話がどんどん大きくなっていく。ギニリアもそれに気ずいたのか、 “まあこんな話をしても、ジプシーじゃ無いお前には分からないだろうが、アネルダの奴はさ、頭領のくせに身内思いでさ。身内と言っても私じゃ無いよ。私もアネルダと母は一緒でも父親は違うからね。大体ジプシーなんて者は殆どが父親は誰だかわかんないんだよ。身内ってダリアのことさ。ダリアはね、ジプシーのくせにナハトム王にほれちまってさ、あれはダリアが14の時だったか15の時だったかな。丁度、アルハンブラ宮殿のおえらいさん達がフラメンコを見に来た時だったな。フラメンコを見て食事をしていっぱい飲んで、さあお決まりの女だわさ。ダリアは初めてだったので、年寄りがいいとみんな言って、ブッテリアとか言うおえらいさんにあてがった訳だわな。ところがそこにいたのが、ナハトムだわな。さすがに王さんが女抱きにきたんじゃ、世間にはばかるし、まああんなに取り澄ましたお妃さん達相手じゃあたまには、はめもはずしたくなるもんだよな。だがダリアにとっては初めての男だわな。それもガツガツしてないとっても優しく扱ってくれたそうな。そりゃあ惚れない訳にゃあなるまいて。ナハトムは全く覚えちゃいないようだね。まあ一夜のお遊びだからね。それから何年たったのかねえ。いつも保護してもらって、お世話になっているお礼に頭領の娘を差し出すなんて言って、ありゃあ娘の思いを叶えてやったんだよ。まあそれだけなら許せるが、どうやら次の頭領がダリアみたいなんだね。王家に嫁いで行ったあの娘がだよ。不公平だと思わないかい?最も、次ぎの頭領は神様が決めるんだけどね。神様が決めた人は何となく分かるのさ。そうなると王家は辞めないといけないけど、ジプシーにとっては自由が何よりのお宝だからね。王家なんていろんなものを持っちまうと、何も見えなくなってしまうんだよ。今のナハトムを考えてごらん自分の国の得になる事しか考えていないだろう。” ナイーダも生まれついていろんなものを抱えてきたが、自由な自分は味わった事はなかった。しかし、シャルム王子を愛していると言った時は本当の自由を一瞬感じていた。ジプシーの自由とは何にも捕われずに、人を愛する気持ちと共通するものかも知れない。そういう事を思っていたら、隣の家が騒がしくなった。やがてアネルダが顔を出した。 “あらあんた。来てたのかい。” “来てたのかいじゃないわよ。あんたの命令のくせに。この娘は何にも言わなかったよ。合格だよ。もっとあんたの悪口を言いたかったよ。案外早かったんだね。あたしゃこの子が気に言ってしまったよ。ダリアのいい友達になってくれるよ。よかったね。” アネルダはちょっと暗い顔になった。ナイーダもギニリアのそれに気ずいた。 “もう遅いからおやすみ。マリナリア後は頼んだよ。” 一緒にはいってきたマレナリアに後の事は頼んでギニリアと部屋をでていった。 “お前はいつも言い付けどうりやらないんだから。” “姉さんこそ。ダリアに甘過ぎるんですよ。ジプシーはもっと自由じゃなくっちゃあ。” と言う声が遠ざかって行く。 マレナリアが、 “クスッ” と笑って、 “おかしいでしょうあの二人いつもこうなんですよ。仲がいいのか悪いのか?あ。もう遅いですから寝る準備しましょうね。” 寝床で、ギニリアからダリアの事を聞いたのを思い出して、 “ダリアは愛する人と一緒になったんだ。” と何となく嬉しい気持ちになった。
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