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作品名:700年後の恋 作者:兵藤 順一

第11回   ナイーダのジプシー村訪問
ダリアは自分の部屋で、王の出征を見送った後、じっと考え込んでいた。
“ナイ−ダは信頼に足ると思う。だが,,,,,,,,,,,,,,,,,,,,,,,,,。”
誰にも聞き取れない独り言を呟く。侍女が来ても、
“いま考え事をしているから、1人にしておいて。”
と言っていた。まる1日考え込んでいたが、ジプシーの全身が隠れてしまうフムドを着て、侍女達に言った。
“私はちょっとジプシーの母のとこに行くから、3日程留守にするからね。恐い所だから、だれもついてこなくていいよ。”
そして頭巾で顔を隠してそのへんを歩き回り、怪しむものたちに、
“ちょっと王の命令で、秘密に里帰りをするから、誰にも言うんでは無いよ。”と顔を見せて、言って回る。門番のとこまで行き、
“1人でジプシーの母のとこに行き、3日後に帰ってくるからね。”
とフードを開けて顔を見せ、
“あっ!ちょっと忘れ物をした。15分後またくるから。”
と言って、そのままシャルムの居る部屋に向かう。
部屋の前では、護衛兵が行く手を阻む。
“王様の命令です。ナイーダに連絡したい事があるので、私を通しなさい。
10分以内に戻りますから。”
と言ったので、護衛は通した。ドアの後ろに居た奴隷女も道を開ける。
ダリアがドアを閉め、奥にはいって行くと、
裸のシャルム王子の上に裸のナイ−ダがのっかり、その上でナイ−ダが眠っている。
“あらあらなんと大胆な事を。”
と言うのを聞いて、
目をさましたナイ−ダは顔どころか体中が真っ赤になった。
“こうした方が良く冷えますので。”
“まあそんな事はどうでも良いのよ。あなた秘密守れる?”
“えっ秘密?”
“私がこの事をあなたに教えてあなたがこの秘密を守れなければ私もあなたも殺されます。でも決して人に言わなければ、シャルム王子は助かるかも知れません。”
“シャルム王子が助かるのなら何でもします。秘密は守ります。”
“本当は、あなたに教えただけでも私は殺されるかも知れない事だけど、多分私は娘だから殺されないでしょう。でも秘密がもれれば別、私もあなたも殺されます。だから死んでも秘密は守ってね。”
“はい。必ず秘密は守ります。シャルム様を助ける為なら何でも致します。”
“じゃあまず。服を着て。それから私のこのジプシーのフ−ドをすっぽり着て、ダリアになってこの城を出るの。そして宮殿のお堀を隔てたジプシー村、あなたは知っているわね。そこに行って、私の母、アネルダを訪ねるの。そして悪魔付きをなおす薬をもらうの。決して人のいる前では言わないでね。2人っきりになって言ってね。それでも母はそんなもの知らないと突っぱねるでしょう。粘り強く何回も何回ももお願いするの。それはあなたが試されているんだから。秘密がばれれば私達ジプシーの一群はおしまいになると言われているの。私達     にとって物凄く大事な秘密なんだから。その後も3日間試されてやっと薬がもらえるの。あなたが帰ってくるまでの看病は私がするわ。勿論裸になって冷やす事はしないけど。とにかく急ぎなさい。門番には15分後に行くと言ってい るんだから。城の中では、決して顔を見せないでね。私が歩き回ってダリアだ
と思わせるようにしているからね。“
大急ぎで着替えて、ダリアのフードをすっぽりかぶり、出て行った。奴隷も、護衛の者も病気が移るのが恐くて、ダリア(実はナイーダ)に近寄ろうともしない。宮殿内部ではよっぽど派手に歩き回ったようで、
“ダリア様はお里帰りするそうよ。”
“王様がいないと勝手するわね。”
などとの陰口は聞こえるが、顔を確認するものはいない。
門番も、
“3日後お待ちしています。”
と声をかけた。軽く首を傾けて、宮殿を出た。宮殿を出るのはここに来て初めてである。ジプシー村は宮殿から見えるので、位置は分かる。門を出て右に出る。右側を曲がると、しばらく王妃達の館がならび、それから両脇は商店街になっている。市民達が買い物をして活気がある。ナイーダが通ると、
“あらジプシーだわ。”
と言って市民も顔をそむける。子供達が数人、
“ここはお前達の来るところじゃ無い。”
と言って石を投げる。ナイーダは足早に走って逃げた。長い緩やかな坂を抜けると、右の遠くにジプシー村が見えた。この辺にくると市民とジプシーの交わっている場所もあるし、ぜんぜん煙たがられなくなってきた。ジプシー村に着いて、アネルダのいる場所を尋ねると、
“アネルダ様はこの先の家だけど。”
といぶかしそうな顔をしたので、
“私はダリアから聞いてここに来たんですけど...........”
“えっダリア様。それでは御案内致します。”
と言って、アネルダの家まで連れて行ってくれた。
“アネルダ様ダリア様のお知り合いの方が見えていますけど?”
と言ってもらうと、3人の男が来てナイーダを2階にいるアネルダの所へ連れて言ってくれた。
“私はナハトム王の妻のナイーダと言います。ダリア様に聞いてここにやってきました。お願いしたい事があるんですけど?”
真っ白い水晶玉の前に座り、いかにも魔法使いのようないでたちのアネルダは静かに答えた。
“ダリアがかい。珍しいねえ。めったに人とは仲良くならないのに。宮殿ではよっぽどの事があったんだろうねえ。”
と何もかもお見通しのような事を言ってくる。
“お前達は席をはずしておくれ。”
周囲に佇んでいる3人はこの言葉で出て行った。
誰もいなくなったのを確認してから、
“悪魔付きのお薬を欲しいんですけど?”
と恐る恐る言うと、
“何を寝ぼけた事を言っているの、そんなものは知らないね。”
と答えてくる。
“ナイーダ様に聞いたんです。”
と言っても、
“そりゃおかしいねえ。私は何にも知らないよ。”
ナイーダは黙り込んだ。
“これからどうしよう?”
と考え込んでいるのだ。
アネルダはしきりに水晶玉を覗き込んでいる。
“おつきの者を呼んで追い返さないのは、脈のある証拠だ。何としても薬をもらわなくては。”
そう思ったナイーダは、
“私の大事な人が、悪魔付きの病気で意識不明なのです。”
“おや、それはおかしいねえ。ナハトム王は遠征だと聞いたんだが?”
“いや王様では無く、シャルム王子様です。”
“おや、それもおかしいねえ。シャルム王子がどうして大事なんだい?お前は不倫でもしているのかい?”
少しおもしろがって聞き返してくる。
“いえ、私の家族を救う為に戦争に行って傷ついてしまったからです。”
“それなら放っておいて、死んでしまってもいいじゃ無いか?戦争には死者はつきものだよ。”
“そういう訳にはいけません。私の大切な人なのですから。”
“お前の愛する人ならば相談に乗ってもいいよ。ナハトムをダリアは愛し始めたみたいだからね。ジプシーにとっては、体は何人と寝ようとも、愛しあう人はただ独りなのさ。それが永遠の愛と言うものさ。”
ダリアを守る為にもついこの様に行ってしまった。ナイーダはダリアの強敵になりそうな女だと思ったからだ。しかし次の言葉は、アネルダでさえも驚愕するような答えであった。
“私はシャルム様を愛しています。多分最初にお会いした時からずっと愛し始めたのです。”
何と大胆な事を言う娘かと思ったが、すっかりナイーダを気にいってしまった。
“あたしゃあんたが気にいったよ。だけど薬の事は秘密だよ。秘密は守れるかね。”
“はい!必ず守れます。”
“薬はね。カビや黴菌の中からあたしが抽出するのさ。カビや黴菌同士が出す成分が黴菌には効くんだ。悪魔付きとかいってるけどあれは黴菌がはいっているだけなのさ。しかし今聞いた事は決して人に言ってはいけないよ。”
“はい。言いません。”
“今からは私にも言わない様にね。隣の家に3日間、過ごさせてもらうよ。その間決して薬の事は一言も言わない事。たとえ私が尋ねてもしらばっくれるんだよ。それがあなたのテストになるんだから。それがうまくいったら薬は渡してあげる。しかし、一言でも喋ったらお前の命は無いし、ダリアも掟やぶりで殺されるからね。全てお前が秘密を守れるかどうかで決まってくるんだ。覚悟はいいね。”
ナイーダは静かにうなずいた。秘密を守る事で自分を含めて3人の命がかっている。アネルダの案内で隣の家に着いた。そこはこじんまりしたたたずまいだった。
“ここの部屋にあるものは何でも使っていいからね。ただし一歩もここからでてはならないよ。食事は運んであげるからね。マレナリアちょっと来なさい。この娘がお前の世話をするからね。”
“マレナリアと申します。この家の隣の部屋に居ます。台所もあちらに付いてますので、用があったら何なりと申し付けくださいませ。”
“ナイーダといいます。お世話になります。よろしくお願い致します。”
マレナリアは隣の部屋に引っ込んで、アネルダも帰っていった。ナイーダはふと我に返り、
“私はシャルムを愛していたんだ。”
と呟いた。それは自然にでた言葉であった。


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