「そもそもヘタっぴなんだよ。運送屋、っちゅーかおれらをナメすぎなんじゃねぇーのか?」 休憩室で、クウガは二人の顔を覗き込みながら、回りに同意を求めるかのように呟いた。 一人は鼻をへし折られて失神してるし、もう片方は肩に走る激痛の為に唇まで青くなって震えている。骨折などお構いなしにガンジガラメに縛られているのと、これまでの特殊部隊の拷問に対する訓練もあって、気絶もできない。 「技師三人のうち、二人がマッチョって、誰がどう見ても怪しいだろう。ギリギリ運び込めた武器が棍棒だけじゃ、なかなかどうして、インスペクションも見所あるなぁ。」 ムーンステーションでは、一切の武器、爆発物等の危険物を排除する為インスペクションを設け、全てをチェックする。むしろ武器になりうる棍棒がダンジョー号に入ってきたのですら噴飯ものである。 「いやぁ、ラボへ行けば、調査ツールと称して、兵器を積んでるぜぇ。そうっすよね。先生。」 ハンは、嫌味っぽくゼンダに聞き、助手の二人にフリ直った。 「要するに、その運び込んだ武器を手に入れるまでもなく、おまえなら手玉に取れる、と思われたゾ、クウガ。要するに、ナメられたのは、運送屋でもなくオレらでもなく、クウガ、おまえ一人だ。」 がはは、と笑いながらハンはクウガに言った。 「残念だったね。」 クウガは、本当に同情したように、助手と名乗る男に言った。 ゼンダは、縛られた二人を見ていたが、クウガとハンに向き直ると、頭を下げた。 「すまない。このままエリア#405へ積荷を運んで欲しい。」 「それは、孫が人質にとられてるからだろ。」 クウガは、先ほど聞いた話から、ゼンダにカマをかけた。 「孫だけじゃない。他の研究員、みな人質にとられてしまった。ワシらは、エリア#502から#405へ拉致されたようなモンじゃ。」 「へえ。研究員ってことは、先生は、本当に先生なんだ。それがまたどうして団体でラチられちゃったの?」 「ワシらは、#502でドズルの研究をしてたんだが、ドズルを#405に向けて発射することの決定を受けて、反対運動をおこしたんだ。」 「ドズルってのは、何なんだ?」 「核兵器のコントロールユニットだ。」 ハンもクウガも仰天した。 「なにいー。するってぇと、この船は核を運んでるってのか?」 「いや、この船に積まれているのは、核兵器のコントロールユニットであって、核ではない。ドズルとは総称の事じゃ。」 この時代においても、核兵器の実証実験は必要不可欠であり、宇宙エリア和平条約の下、実証実験は困難を極めた。そのような危険を冒してでも核を製造するよりは、地球から輸入した方が、安全かつローコストで保有できる可能性はある。 「ひょっとして、地球の衛星軌道上で連邦警察とドンパチやった、アレか?打ち出しは中東だってゆうし。」 ハンは、先般の「やしち」が撃沈された事件を思い出し、結び付けてみた。 「アレってのは、あれが核だってのかい。それにしても、そこまでやるかね。」 クウガはクビを捻った。 確かに、宇宙プラントであり、居住区でもあるエリア同士の利権争いに、核を使うというのは、大げさすぎる。 「宇宙に出れば、神を見る人間もいる。呪われる人間もいる。ましてや、最果ての地で利権にまみれたとなれば、狂ってくるヤツがいてもおかしくは無い。」 突然老け込んだワケ知りなじいさんのいでたちをかもし出し、ゼンダがぼそぼそとつぶやき始めた。 「で?#502で核を輸入して、#405に打ち込もうとしたら、逆に#405に科学者もろともかっぱらわれた。って、わかりやすく言うと、こういうワケだな?」 「ワシも戦争の事はわからんが、恐らくそんな事じゃろ。ワシの孫も含めて、研究員は、#405で発射機の整備にあたっとる。というか、整備させられとる。それは、ワシにとって、人質をとられた事といっしょなんじゃ。」 腕組みをしながら黙って聞いていたハンが、カっと目を見開き、力強くゼンダに叫んだ。 「ヨシっ!じいさん。エリア#405に行こう。人質を取り返すんだっ!」 まるで憑き物が取れたかのような晴れ晴れした顔と、天井に向けて突き立てた人差し指から御光が射している。 「コラ待てえい。おれらの行き先はエリア#502だ。#405ではない。また課長にドヤされるぞ。」 「しかしだ。先生のお孫さんがトリコの身になっているのを、ホってはおけんだろう。」 「てめえ、何がお孫さんだ。またいつもの悪いクセが始まりやがったな。その変なクセの為に、今までどれだけシンドイ思いしてきたと思ってんだ。」 「よいか、クウガ。おれ達は宇宙の運送屋さんだ。もちろん荷物も運ぶが、おれ達は、同時にまごころも運んでいるんだ。困った人たちに手を差し伸べるのは、コレ、運送屋さんのモットーだと、ボクは思うんだ。」 「んな、モアイ像みてぇな顔して、何がマゴコロだ。課長にも言われたろ。めんどくさいようだったら、帰ってきていいよって。悪いコタ言わない。帰ろう。」 課長であるハガは、「身の危険を感じたら」と言ったのであって、「めんどくさければ」とは言っていなかった。 「クウガ、てめえ、めんどっちいだけだろ。リーダーのおれの言う事を聞けっ!」 「ハン、おまえこそ、いつからリーダーになったんだ?」 「こないだ決めたろっ!これからは、おれがリーダーになっておまえらを引っ張ってってやるって。」 「そんな酔っ払った席で出た話、真に受けるな。あの時は、おれもスタンも反対したろ。それに、その話を蒸し返したら、サリナがおれらのリーダーになっちまうぞ。」 ハンは一瞬間をおいて、よく思い出してみた。確かに、その後サリナが三人を一蹴し、 「それほどまでにリーダーが必要なら、あたしがおまえらのリーダーになってやる。」 そう言って、ガバっと立ち上がり、腰に手を当て、大ジョッキを一気に飲み干していた。 「ええいっ!宇宙に出れば、おれがリーダーだ。それともだ。ヤるか?」 「おお、ヤるとも。」 クウガも腕まくりをし、低次元な争いながら一触即発の緊張したムードを、ゼンダはアッケにとられて見ていた。 と、休憩室に設置されたスピーカーからスタンガードのノンビリした声が流れた。 「二人とも、ケンカはそこまでだ。コックピットに来てくれ。」
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