「はたごの高度を下げろ。圏入ギリギリの高度からフリッツエックスをお見舞いするぞ。こちらからのポートを開ける。」 リードは、「はたご」から発射された遠隔操作型のミサイルを地上からコントロールして不明船に当てると言っているのだ。 「ふざけるなっ!あくまでもヤツを仕留めるのはおれだ。やしちから動いて不明船をレーザー砲でたたく。」 「意地を張ってる場合かっ!ヤツらにはお前の手の内が見えてるんだぞ。」 「チンケな宇宙船じゃねぇ〜か。」 ジミーは「やしち」移動の後、続いて「はたご」の高度を上げるようにCICから艦橋へ指示をした。その直後、不明船がミサイルを撃ってきた。 「不明船より、ミサイルが発射されましたファイヤーカッターです。目標はやしちっ!」 CICではファイヤーカッターのスペックをダラダラと表示していた。CICの中枢コンピュータは弾道を一瞬のうちで計算し、着弾点を「やしち」とまで絞った。 ファイヤーカッターは、自分では爆発せず、戦艦に着弾すれば装甲をこじ開けて中にペンシルミサイルを無数にまき散らす。しかも、不明船は気前よく2発も発射してきた。 気が付けば、「はたご」は「やしち」に異常に接近している。 リードは、管制塔ポインティングパネルに映し出された「はたご」の画像に向かって叫んだ。 「ジミーっ!やしちから離れろっ!離脱するんだっ!」 聞くまでも無く、ジミーは、「やしち」に取舵、「はたご」に面舵の指示を出していた。 「やしちは、取舵と同時にGPS誘導ミサイルを発射。ありったけをぶち込めっ!」 「はたご」CICでは、次々に発射されるミサイルに、不明船のデータをインプットし、トリガキーを押しているが、いずれにしても、いっぺんに発射できるミサイルの数には限りがあるし、ファイヤーカッターを撃墜しなければ恐らく無事にはすまない。 不明船は、打上の際に使用した燃料タンクを切り離すと、さらに高度を上げた。 「やばいっ!逃げられるぞ。」 ジミーがそう思ったときには、打ち漏らしのファイヤーカッター1発が「やしち」の前方に設置されたミサイル格納庫兼発射機を直撃したところだった。 弾薬庫にモロに食い込んだファイヤーカッターが、内部にペンシルミサイルを散弾する。「やしち」の内部で誘爆が起きた。 「くそったれっ!」 管制塔ではリードが敗退の覚悟を決めていた。 「はたごへ、救急班を出せ。やしちからクルーを救助するんだ。」 ジミーは、「はたご」の艦橋から地上管制塔に接続しているテレビモニタに向って叫んだ。 「ヤツらが逃げるぞっ!ここで抑えなければ、エリアに兵器が渡る。」 「落ち着けジミー。作戦は失敗だ。人命最優先により、今は救助を火急の任務とする。」 外では、先ほど「やしち」が撃った8発のミサイルが、不明船の残した燃料タンクに命中し、大爆発を起こしていた。 「負けたのか?おれたちは。」 ジミーは、がっくりうなだれた。
リードは、自席に腰掛けると、専用パネルで月面基地にある自艦「はたかぜ」の整備状況を確認した。整備の進捗状況にもよるが、リード自ら、2日遅れほどでも「はたかぜ」に乗り込むことができれば、火星軌道上手前あたりで不明船を叩く事ができる だが、負け戦となってしまった今回の作戦は、全員の無事が確認されるまで任務遂行中だ。 「全員無事だといいが。」 リードは、全乗組員の無事を祈った。
「ダンジョー号、認識しました。ようこそムーンステーションへ。」 艶っぽいアナウンスが、ダンジョー号コックピットに響き渡った。 ムーンステーションの管制塔では、貨物輸送船の発信する船舶識別番号を受信、照会してダンジョー号格納ポート位置を決定、整備診断、ゲートを開けるに至るまで、全てオートメーションであるが、チェックは人の五感が頼りだ。 最終決断は、やはり、人が担当者として介在した方が、余計な欲と、感情が無い限り安全であり、確実である。が、その担当者を機械なり第三者機関がさらにチェックする、と言うことで、効率的なんだか、非効率なんだかよくわからないマルチウェイチェックの手間をかける無駄は、20世紀のサラリーマン社会からなんら変わることは無い。 政治と社会がある限り、不正と犯罪はいつの世にも存在するのだ。
スタンガードの仕事は、ステーションから発行された暗証キーを打ち込むだけでことは済む。あとは、ステーションのシステムとダンジョー号のシステムはお互いに、グチを言うこともなく手を取り合って三人と積荷をポートへと案内するのだ。 「ここでの補給が済んだら、すぐに出航するぞ。」 地球の周回軌道上で、中東から打ち出された正体不明の戦艦が、地球連邦警察の巡洋艦を撃破した後、小惑星帯への進路をとり続けている、との情報はダンジョー号にも入っていた。 発令中の巡洋艦、すなわち十分な装備を搭載しての巡洋艦を撃破とは、ただ事ではない。ここムーンステーションでも十分な警戒をしており、港もモノモノしい雰囲気に包まれている。不運なことに、このダンジョー号との航路ともピタリ合っており、ゼイムカンパニー社コントロールセンターでは、サリナが同僚たちにお悔やみを頂戴する有様だった。 サリナは、なんとかこの正体不明の軍船の動きを計算し、ダンジョー号を安全かつ迅速に契約を遂行すべく、当初の航路を再計算しなければならない。そのしわ寄せが、補給後直ちにダンジョー号を出航させるという強行になってしまった。要するに「巻き」である。
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