ジミーは落ち着いている。 「高度上昇。不明船の上に出るぞ。至近距離からレーザー砲で推進源を破壊する。」 不明船は、「やしち」への突撃から東へ回頭して重力圏を抜け、滑るように水平移動している。ジミーの目には、巡洋艦の姿を確認して、逃げているように映った。 「レーザー砲発射しろ。」 「了解。」 ジミーの掛け声と共に、「はたご」の左舷に据付けられたレーザー砲が火を噴いた。予想以上の不明船のスピードに目標の右側後方を掠めたに過ぎなかったが、黒く焦げた痕がついた。うまくいけば、中まで焼けているが、動きに何ら影響が無いところを見ると、失敗である。 「ちきしょう、これ以上出力は上げれん。再度発射だ、よく狙えよ。」 「はたご」では、レーザー砲の弾角修正をしていると、不明船は、「はたご」「やしち」に正面を向けながら、高度を上げ始めた。 「なに?やる気か?」 ジミーが思うと同時に、CICから報告が入った。 「ミサイルです。サイドワインダータイプ。熱源にヒットします。」 なんと、不明船から、下から上に反り返る形でミサイルが打ち出されている。レーザー砲は、現在不明船にターゲットを絞っているため追い切れない。恐らく、レーザー砲を破壊する為に撃った一撃だ、とジミーは思った。最悪エンジンをやられる。 「さらに、2発目が射出されました。」 「やしちから中距離ミサイルを発射しろ。迎撃する。はたごからレーザー機銃。」 CIC内スピーカーから、リードのがなり声が聞こえた。 「ジミーっ!迎撃しろ。捕獲は無理だ。」 地上管制塔では、すでに「やしち」をコントロールし、レーザー機銃の弾幕により1発目のミサイルを落していたが、不明船より発射された2発目が「はたご」のレーザー砲を破壊した。
地球の夜明けが来た。水平線から昇る太陽は、これ以上ない幻想的な光景を見せてくれる。 先ほど管制塔でリードが言っていた、朝が来たのだ。 「はたご」から見た幻想的な太陽、がしかし、その中にすっぽりと不明船が納まっていた。不明船のシルエットが不気味に黒く浮かび上がっている。 「しまったっ!サン・サイド・ポジションだ。」 ジミーもリードも、同時に思った。リードは、ある程度予測はしていたが、ジミーともあろう者が、そして連邦警察とあろうものがやすやすと、有利な戦局を相手に組まれてしまったのは、衝撃である。と同時に、リードのイライラがジミーに乗り移ったかのようにジミーが慌てて叫び始めた。 「やしちの砲門を不明船に全て向けろ。全弾撃ちつくす気で狙え。」
リードは無理な事はわかっていた。 「圏外NAVSTAR捕捉。使えるモンは、GPS誘導っきゃないぞ。」 この時代の兵器において、ミサイルを誘導するのは、赤外線が大半を占めていた。赤外線誘導は言うに及ばず、画像解析誘導でさえ暗い宇宙空間の中での使用に耐える為、赤外線カメラを使う場合が多い。 太陽をバックに背負われてしまうと、赤外線を利用した兵器の使用は極端に制限されてしまう。次の戦法は、GPS衛星NAVSTARが発信するGPS電波を利用した敵艦捕捉手段が有効とは言え、地球の外側に座標を持っているNAVSTARに数はあまり無く、兵法が減る事には変わりない。 「サイドワインダーからスパローへ切り替えろ。赤外線は使えん。パルス設定を5チャンネル。5発一斉に撃てっ!」 ジミーは、赤外線誘導ミサイルであるサイドワイダーからアクティブレーダー誘導ミサイルであるスパローへ、「やしち」の発射ミサイルを切り替えるよう指示を出す。それと同時に、技術科兵から報告があった。 「GPS捕捉。不明船の座標はセットされました。併用します。」 「撃てっ!」 ジミーの号令と共に、「やしち」から8発ものミサイルが発射された。どれも一直線に不明船に向かって飛んでいる。 それを待ってましたとばかりに、不明船からドラム缶並のミサイルが発射され、十分な距離の位置で弾けた。あたり一面にチャフと高周波発生カプセルがバラ撒かれた。チャフとは、無数の細かいアルミ箔で、紙ふぶきのように撒くと、レーダーが誤動作を起こす。ここまでの高度になれば、大気濃度も薄い為、チャフの拡散も広範囲となること必至だ。 案の定「やしち」の撃ったミサイルは誤爆し、4発の誤爆波は、他の3機のミサイルを巻き込み大爆発を起こした。唯一GPS誘導のミサイルだけが健気にも不明船めがけて走ってはいるが、哀れ、レーザーガトリングの弾幕の餌食となってしまった。 「くそ、ヤツら、こっちが撃つミサイルを分かってやがる。太陽を背にしたのは偶然じゃないぞ。完全に軍の知識だ。」 苛立つジミーに、スピーカー越しのリードが言う。
地球近接での戦闘は、敵方の赤外線感知装置の全てを封じ込める意味でも、敵の姿を明確に捉える意味でも、太陽を背に戦う方が圧倒的に有利である。他に、地球、月からの反射光によっても戦局が大きく変わる、デリケートなポジション争奪戦を展開する。 中東から打ち出された、ただの輸送船という印象が、「はたご」を油断させたとは言え、太陽を背にする、サン・サイド・ポジションを奪取した不明船も結構な手練と言えた。
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