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作品名:ファング・プライズ 作者:Sita神田

第4回   アーセナルシップの戦闘方法
CICは、戦闘情報センターと訳されており、第二次世界大戦後に主流となった。
戦艦において、航行と作戦遂行を司り、地上の作戦指令本部とリアルタイムにやり取りをする、重要なポジションであり、読んで字のごとく情報セクションである。
従来ではこの部署を巡洋艦の中でも比較的安全な場所へ確保しており、艦橋とは切り分けていたが、宇宙での戦闘は、艦長が戦闘指揮の統括である事から、やはり艦橋を切り離して考える事は不可能となった。ブリッジとCICはエリアが分かれているだけで境界はない。
CICシステム自動再起動は、中東の監視ポイントで、輸送船らしきものの熱源を「はたご」がキャッチし、作戦開始の合図にCIC内全ての電源を投入し警戒警報を発令したものだ。

「ジミー、熱源がキャッチされた。中東から宇宙船が出るぞ。用意はいいか?」
「これはこれは、リード大尉どの。地上からの観戦で、余裕しゃくしゃくですなぁ。」
「相変わらず、毒づいてるな。おまえも今回首尾よくいけば、大尉だろ。砲に火を入れれば、戦闘経験積みの昇格だ。いちいち腐るな。」
「貴様に言われるまでも無く、エリアのヤローどもの陰謀を粉砕してくれるわ。」
「ただ、気を引き締めろ。実は中東の輸送船は打ち上がるはずじゃなかった。結構な手練が乗り込んでいる恐れもあるし、火力も不明だ。積荷の没収検証が今回の任務だが、場合によっては撃沈もありえる。」
「どういうこった?打ち上がるはずじゃないってのは。」
「実は連邦から中東に偵察を送った。もちろん最終目的は、兵器であれば没収だ。」
「そいえば、地上で何もやらんはずは無いな。で、なんで今回打ち上がるんだ?ありゃ。」
「中東って土地柄のため、地上では手が出しずらい。だからランポって男に依頼をしたんだ。アーミーナイフとボウガンがありゃ、一人で1個軍隊に相当する戦闘力だそうだ。中東が大好きで、ボウガンでアパッチさえも落した伝説も持ってる。」
「どっかで聞いたような話だな。で、どうなった?」
「いかんせん、ランポももう歳だ。よる歳なみには勝てん。おれらもそうだ・・・」
「やけに寂しい話になったな、おい。」

「中東から識別不能の宇宙船が発射されました。呼びかけにも応じません。」
「はたご」CICから技術のハリーがジミーに報告した。
「識別不能はわかってる。宇宙船のスペックを報告しろ。特に火力だ。」

宇宙を飛ぶ船に識別アイディーが付されていない、ということは、たったそれだけで撃沈されても文句は言えない船である。そこへもってきて、兵器に火を入れながら、警戒を無視して航行する船だとしたら、よくて捕獲対象船、悪くすれば一線交える。

「画像解析から、6門のミサイル発射管を持ってます。他にレーザーガトリング露出、レーザー砲、前方と両舷に射撃管制レーダー。隠蔽部分は不明。」
「立派な戦艦じゃねぇーか。おい、リード、撃沈指令も出てるのか?」
ジミーは、地上管制塔にいるリードに聞いた。先ほどの会話では、撃沈もありえる、とのことだったが、のんびり構えてもいられない状態に遷移している。
「戦闘態勢っ!やしちの砲門をあけて、高度を下げろ。」
「やしち」は、これまでの軌道上から、中東へ向けてやや高度を下げた。「はたご」は、北上し、小惑星帯エリアへ向ける航路へ割り込む形に切り込んだ。
不明船は、「やしち」の右舷につける形で突っ込んで来る。
モニタには、フラットブラック、つまり光を反射しない真っ黒な、ちょっぴりレトロな雰囲気を漂わせた軍船の不気味な姿を映し出していた。
「どうした?巡洋艦を見て、なお突っ込んで来るとは、奴らはどういうつもりだ?投降してくるのか?」
ジミーは、クビを傾げながらも、「やしち」の面舵を指示したと同時に、「はたご」は回りこんで「やしち」の左舷に向けて切り込んだ。
「はたご」と「やしち」の間に割り込まれては、同士討ちの危険もありえるからだ。おそらく不明船もこれを狙っている可能性が高い。
予想外の不明船の動きで、「はたご」と「やしち」は近距離で不明船を迎え撃つ形となった。

地上のリードは、この状況をプロッティングパネルを通して見ていたが、ボソっと呟いた。
「まずいな。」
そばで不明船の画像解析に当っていた技術官が、そのリードの呟きを聞き取り、リードに尋ねた。
「何がです?ジミー艦長はセオリー通りの動きをしていますが。」
「踊らされてる。しかも、じきに朝が来る。」
技術官は、リードの言う事がまったく理解できなかった。
リードは、パネルに映る「はたご」に向かってインカムマイクを通して叫んだ。
「ジミー、体勢を立て直せっ!不明船のハナヅラをかすめて、東へ飛ぶんだっ!」
管制塔内のスピーカーからジミーの声が響く。
「簡単に言うな。奴らの兵器からいって、こんな至近距離をかすめりゃこっちだって無事に済まないぞ。」
のんびりしたジミーと、半ばヒートアップ気味のリードのやり取りは、管制塔の中ではどこかチグハグな印象に見える。
たたみかぶせるように、リードが付け加えた。
「レーザー砲を使え。もう射程距離内に入ってるぞ。」
ミサイルなどの火力と違い、レーザー砲の欠点は射程距離が短い事だ。ましてや、大気圏内に向ってレーザー砲を発射しても、効き目の程は定かではない。
ジミーはそう言った後、あくまでも宇宙空間での戦闘にこだわる事もリードに伝えた。


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