「こちらダンジョー号、搭乗は、スタンガード、ハン、クウガの3人。積荷アイディー364576、オーケイ?」 「照合します。」 三人は予定通りに出航する。 ダンジョー号は、地球大気圏外から小惑星帯航路の外洋専門の貨物輸送船である。地球上空3万6千キロ、静止衛星周回軌道上にあるゼイムカンパニー宇宙港から、すでに積載された貨物のコンテナを受け取り、そのコンテナを両脇から包み込むように、ユニックと呼ばれるアームを伸ばし固定している。 その両方のアーム、シンメトリーに当る位置に、中に居住区を擁しているコントロールブリッジが設置されている。このコントロールブリッジの形、古き良き時代のアメリカントラックを髣髴とさせるデザインは、燦燦と運送屋のプライドを物語っているのだ。 通常であれば、地球からエリアへの生活物資、建設物資等を満載し船出をするものだが、今回のダンジョー号は、加えてクライアントから依頼を受けた、契約上は、学術調査用物資の積荷を積載している。 地球への物資輸送には、同じコンテナを大気圏に突入させるが、外洋専門の船に圏入機能はなく、圏入専用シャトルに積み替える。ゼイムカンパニーは、この圏入専用シャトルも保有しており、同業他社から比較すると、外洋から地上までを単一業者に依頼できる、得々パックを売りにしていた。
ダンジョー号には、事前に配布された、仕事内容を収めた「ミッションデータ」がインストールされた船全体を制御するコンピューターにより、その航路からクルーの健康管理までを管制塔で掌握する事が出来る。 ステーションの管制塔には、その船のコンピューターを通して後方支援部門とやり取りをするオペレーターの存在が不可欠であり、社食のカレーライスが大好物で、自称美しい女、サリナがダンジョー号の担当オペレーターである。 これらのシステムは、クルー3人、オペレーター1人の圧倒的少人数ながら、貨物船を地球から小惑星帯まで往復させるのである。
「積荷アイディー364576、照合確認しました。」 管制塔にいるサリナは、ダンジョー号に乗り込んでいるスタンガードに返答すると、 「課長から伝言があります。くれぐれも気をつけるように。」 と付け加えた。 「了解。」 スタンガードは神妙に答えると、 「テイクオフ。」 サリナに掛け声をかけて、フロートパネルのエンターキーを押した。 「よいフライトを。」 スタンガードは、ダンジョー号の安全ノッチが外れるのを確認すると、プログラムを起動させた。これで、何事も起こらなければ、貨物港から出発したダンジョー号は、途中の補給も含めて、小惑星帯エリア#502まで三人を自動的に運ぶ。 はずである。
「正体不明の兵器が、地球から小惑星帯に向けて搬入される。」 地球連邦警察にタレコミがあったのは、かれこれ2週間前だ。 小惑星帯の資源採掘プラント同士の小競り合いは、地球にも聞こえており、報告を聞く限り一触即発の様相を呈している。近日、地球各地を監視するスパイ衛星が捕らえた画像によれば、中東で大型トレーラーが、ロケット打上港に何物かを運び入れる様子を捉えていた。 連邦警察は、これらの背景を総合的に検証、精査した結果、タレ込みは本物と判断し、警戒態勢を強いていた。小惑星帯付近なんぞで戦争でも始められては、ステーションの物価は上がるどころか、宇宙開発全体に影響を及ぼしてしまう。地球の経済にも影響を与えることにもなるのだ。近く、国連からの調停も予定されていたが、今はとにかく、エリアの武装をやめさせなければならない。
地上から高度400Km上空。連邦警察が誇るチュウバット級巡洋艦「はたご」チームが、静止衛星の周回軌道上である、赤道直上に停泊中である。アーセナルシップ「やしち」を従えた、軍と言っても引けをとらない、堂々とした艦隊の様相を呈している。 「やしち」とは、500発のミサイルを発射機と共に搭載しており、「はたご」からの発射指令をデータリンクで受けるのみのアタック専門の巡洋艦である。迎撃時は、チュウバット級巡洋艦といえども、さらに5、6倍の火力が見込める、人員とコストを抑えることが出来る、などの理由により、このアーセナルシップを従えるのが主流になってきている。 これらは無論、タレコミがあった、正体不明の兵器輸送と思われるものの監視のために配備された。 さらに、赤道上空とはいえ、監視ポイントから兵器が打ち上げられた場合には、瞬時に迎撃体勢が取れる優位な位置にある。
そして、その時がやって来た。 「はたご」のCIC内プロッティングパネルが光りだし、警戒警報が鳴り響いた。 「ついに、動いたか?やっこさん。」 艦長のジミーは、つぶやくと、シートに座って帽子をかぶり直した。
|
|