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作品名:ファング・プライズ 作者:Sita神田

最終回   検挙
ルドルフは、ずっとこの部屋にいたが、こんな男どもは部屋にはいなかった。それが今どこから出てきたのか、歩いて出口に向って、この部屋から出て行こうとしている。
ルドルフにとって、もう、ここまできたら、前からいようがいまいが関係が無かった。問題は、今の話がこの男達に聞かれたことである。
「キサマら、何者だっ!?今の話を聞いていたなっ!?」
ルドルフは若干の焦りがあった。護衛の兵が慌てて銃を構えようとする。が、その兵は、銃を構えることは叶わなかった。なぜならば、クウガがその兵を蹴ったからであり、それによって兵が気絶したからである。
「な、ナニっ!あそこから兵までの距離を走ったのか?一瞬で?」
ルドルフも、もう一人の男も、クウガに気をとられすぎだった。気が付けば、残り二人の護衛兵の内一人はハンに殴り倒され、もう一人は、ハンに、今まさに、こめかみを潰され唸っている。下に銃身の折れた銃が落ちていた。
ハンは、兵のこめかみを握りつぶしたまま持ち上げた。その兵は、苦しみながらも浮いた両足で、ハンの脇腹にケリを入れようとした。
ハンは面倒くさそうに兵を投げ出すと、ルドルフに近付き、ごく普通の会話のように話しかけた。
「へ〜、エリア#405と、エリア#502はグルだったのかい。おれ達に核兵器なんぞ運ばせやがって。」
「待て、話を聞け。この小惑星帯の資源は地球に搾取されている。我々は、この資源を宇宙に移り住んでいる民衆に分配しなければならない。それには、我々が地球と交渉していかなければならないんだ。それには切り札がいる。地球政府に引けをとらない武器が必要なんだ。我々は宇宙の民衆の為に働いている。」
「エリアの技術者に強制労働をさせて、何が民衆の為だ。キサマら、小惑星帯資源を独占する気だろ。まあ、おれ達は運送屋だから積荷がクライアントの元に届けられればいいんだ。積荷は返して貰うぜ。どうせ#502に運ぶ積荷だ。邪魔すんな。」
ハンとクウガがルドルフに近付いてきた。怯えたルドルフは叫んだ。
「何が運送屋だっ!この絵図を描いたのは運送屋だぞ。スティムソンだっ!やるならスティムソンだぞっ!」
「ゴタクはいいから、ちょっと付き合ってもらうよ。なあに手間は取らせない。いっしょに来て貰うだけ。」
「な、何をする気だ?民衆を救うためだ。わたしは暴力に屈しないぞ。」
「まぁ、いいからいいから。」
ハンは、ルドルフを力ずくで執務室から連れ出した。


エリア#405の港では、ダンジョー号がまさに飛び立つ体勢をとり、浮いていた。
港側の公安が持つロケットランチャーの弾数も少ない上に、無駄に飛ばしたロケットランチャーが港の被害を拡大している事もあり、ダンジョー号に対して、なす術もないという感じの膠着状態に陥っている。
時折港の外、「はたかぜ」と3隻の戦艦の戦闘の余波が伝わり、轟音を上げている。
その合間を縫うように、1.隻のタグボートが発進した。

「一体この戦闘中に、あの役人は何を考えてこの戦艦に乗り込もうなどと考えているんだ?」
トルーマンは、予想以上のネバりを見せる連邦警察の戦艦「はたかぜ」にイラ立ちを隠せない。もともとは、港で暴れる貨物船を鎮圧する要請を受けてこの宙域に来た。そこへ持ってきて連邦警察の待ち伏せに遭ったのだ。イラ立ちも無理は無い。それを逆撫でするように、ルドルフがタグボートでこの戦艦「デーモン」に着けると言う。戦っている相手が警察でなければ、撃沈されても文句は言えない状況である。
「タグボートを収容しました。ルドルフ統括がお見えになります。」
トルーマンとバークリーは、部下から報告を受けると艦橋の入り口に目を向けた。ルドルフは分る。だが得体の知れない男が二人付き添っているではないか。
「ほお、これが黒船の艦橋か。」
ハンは、回りを見回しながらトルーマンに近寄ってきた。トルーマンは警戒した。
「キサマ、何者だ?ルドルフ統括の護衛兵でもなさそうだな。」
「おまえ、おれ達の船に刺客を送った上に、ミサイルまで撃ったろ。」
「ナニ?」
言うが早いか、ハンの拳はトルーマンの顔面を捉えた。
トルーマンも軍人である。咄嗟にスウェーバックでハンの力を殺したが、鼻血を噴いた。倒れながらも、ハンに蹴りを喰らわせている。
ハンは腕でトルーマンの蹴りを払うと、再度トルーマンに拳を撃ち放った。その拳を払ったのは、トルーマンの隣にいたバークリーだ。バークリーは、ハンの撃ち出された拳を掴むと、肘をハンのみぞおちに目がけた。ハンは、ヒットする寸前のその肘を、ムンズと鷲掴みにする。
「ぎゃああーー。」
バークリーは悲鳴を上げた。ハンに離されると同時に肘を押さえて後方に飛び、ハンから距離を開けた。抑えた腕は、本来曲がらない角度に曲がっている。恐らく骨が砕けているのだろう。バークリーの顔が歪んでいる。
それでもバークリーは、ハンの顔面に向けて蹴りを放った。体勢を立て直したトルーマンもハンのボディ目がけて拳を入れている。
ハンは、顔面に蹴り、ボディに拳をめり込ませながら、拳でトルーマンの顔面を粉砕し、構えに戻す前にバークリーの蹴り足を粉砕した。


気が付くと、エリア#502から発進したであろう戦艦2隻の間にダンジョー号がいた。なぜそこにいるのか当の戦艦たちも分らないだろう。ダンジョー号のすぐ前にいた「はたかぜ」に乗り組んでいるリードですらまったく理解不能なのだ。
そしてダンジョー号は、戦艦に設置してあるレーザー砲、ミサイル発射機を、双極板から発射される光らしきもので次々の焼いていっている。港の中で猛威を振るった兵器である。
「はたかぜ」から見るその光景は、まるで廃船になった戦艦2隻を解体するかのような、作業的な流れに見えた。
あれほどうるさかった黒船も、タグボートを収容してから、不気味なほど静まり返り、慣性でこちらに近付いて来ているのみである。
モニタに、先ほどと同じスタンガードの顔が映された。
「リード、手伝いは終わったぞ。今回のは貸しにしとくから、兵器積載規制違反はなしにしといてくれ。」
「黒船もおまえらがやったのか?」
「そっちは、ハンとクウガの餌食だ。ドズルを積んでるって、今連絡があった。おまえさんたち、それが目当てだったんだろ。」
「おまえ達、これからどうするんだ?」
「おれ達は、荷物搬送の途中だ。伝票に印鑑もらわないとな。コッチに技術の先生方がいらっしゃるので、警察で引取って貰えないかな。それから、ゼイムカンパニーへ行ってくれや。黒幕は、スティムソンだそうだ。」
「スティムソン?」
リードはクビを捻った。
「はたかぜ」は、あと一撃でもたなかったかも知れない。


株式会社ゼイムカンパニーの専務取締役は、専用のブースを持っていた。
皮製カバーの社長チェアに座り、社長デスクで毎日の庶務をバリバリこなしている。専務の名前は、スティムソン。将来はゼイムカンパニーを背負って立つ男だ。その専務取締役ブースに、連邦警察が押し入ってきた。
「スティムソン専務ですね。」
「はい、わたしはスティムソンですが。」
「連邦警察に任意同行を求めます。」
「人違いではないですかな?ここはゼイムカンパニーで、わたしはスティムソンだ。」
「いや実は、連邦警察でエリア#405のルドルフ統括の身柄を確保してましてね。近くエリア#502の統括にも話を伺おうと思ってるんです。ルドルフ統括からスティムソン専務の話も出てるのでね。」
「何も関係ないと思うのだが。」
スティムソンの言葉は、まるで聞き入れないかのように連邦警察は話を進めた。
「部品とは言え、自分の会社の貨物に核兵器を運ばせたのは失敗でしたね。博士を貨物船に乗せたり、何よりも2箇所のエリアが互いにけん制し合ってるかのように強奪させたりの自作自演をしてまで小惑星帯に兵器を運んだ。なるほど、刺客に至るまで同行は筒抜けだ。そして、その理由が、小惑星帯の利益を独占しようとしての事だ。暴力で物事を進めようとは、急ぎすぎましたな〜。」
スティムソンは平静を装ってはいるが、視線が泳いでいる。
「何のことやら、さっぱりわからん。」
そのひと言を搾り出すのがやっとだった。


「おじいさん、結局あの人たちは、何者だったんだろう。」
サクラはポツンとゼンダに聞いた。
「ああ、クウガたちか?彼らは運送屋だ。マゴコロも運ぶ運送屋じゃ。」
「マゴコロお?」
「ああ、本人達が言っとった。」
「マゴコロね〜。」


ゼイムカンパニー、専務取締役が連邦警察に、任意とは言え出頭していようとも、この大企業には大した影響は無い。
課長ブースでは、課長のハガがダンジョー号のチームを呼びつけ、あいも変わらず怒鳴っている。
「きさまらあっ!今度はエリアの港を破壊したらしいじゃないかっ!?おまえ達は何かを壊しながらじゃないと目的地にたどり着けんのかっ!」
「あの、課長、あの港はですね、統括もですね、辞任するとの事ですし。はあ、」
「話をそらすなぁっ!」
サリナは、そんな3人を見て、クスっと笑った。


カルムイク共和国沿岸から400キロほど沖。地球最大の湖にして、最小の海洋であるカスピ海にある軍事実験施設。
戦艦制御の機能を丸々凝縮させた2体のアンドロイドの電源が灯された。

おわり


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