港の外では、「はたかぜ」が黒船に圧されていた。黒船から射出された艦載機2機は、エディ隊の性能に及ばずも、なかなか黒船の背後を取らせない。 「はたかぜ」自体も、エリア#405という巨大な障害物を背にしているため、思うような体勢がとれない上に、恐らく黒船からも丸見えである。一方黒船は、そのカラーリングにより完全なまでに宇宙空間に溶け込んでいる。 「はたかぜ」のCICでキャッチするものがあった。 「エリア#502方面から、不明船2隻。兵器を持っています。」 「何だとう。敵か?味方か?」 「識別番号を発信してません。敵の可能性が大きいです。」 「呼びかけろ。ここは立ち入り禁止だっ!」 「呼びかけてますが、未回答です。こりゃあヤバい。」 「黒船1隻に手こずってんだ。この上敵が増えたら、目も当てられんぞ。明らかにエリア#502からってことは、#405から見て敵ってことだろう。一体ここはどうなってんだ。まさか、ヤツらは、グルってことじゃないだろうな。」 まるで、エリア#502の艦隊を待っていたかのように、黒船が「はたかぜ」目掛けて突っ込んできた。もう肉眼ではっきり見える位置に黒船はいた。 突然、黒船の砲塔から光がほとばしった。「はたかぜ」の艦首に据付けてあるミサイル発射機がバチバチっと溶解する気配をリードは感じた。 「しまった。レーザー砲か。先手を取られた。#405の港に向けろ。最悪港に着けるぞ。」 「エディ隊の報告では、港は火の海だと。」 「構わん。この船は、もう黒船のレーザー砲の射程距離内にいるんだ。今の動きでエディ隊が黒船の背後を取ったはずだ。バックしながら、ミサイルを黒船に撃ち込めっ!」 「至近距離のミサイルですか?」 「フリッツエックスだ。肉眼で追える。」 「りょ、了解。」 フリッツエックスとは、早い話がラジコン操作のミサイルである。自動追尾でもなく、撃ちっ放しでもないが、撃ち込んだら着弾までマニュアルで操作しなくてはならない。回線ポート1つを独占する他、技術兵のスキルによるところが大きいので、敬遠される武器である。が、これだけの距離になれば、効果の期待も大である。
「通信班、港の中の貨物船と連絡をとれ。」 突然、何の脈略も無くリードがダンジョー号との通信を所望した。 「何と呼びかけましょう?」 「何でも構わん。本船は、最悪港に突っ込む。後の判断は貨物船に任せる。退くなり攻撃するなり勝手にしろ、と。」 「了解。貨物船の双方向通信ポート開きます。」 その間、「はたかぜ」のレーザーの弾幕が黒船のミサイルを至近距離で捕らえ、爆発させた。間一髪だが、「はたかぜ」にショックを与えるに十分だった。 「ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ」 不気味な地響きに似た振動が「はたかぜ」を襲った。 「#502よりの不明船より、ミサイルの一斉射撃あり。合計・・・」 技術兵より、新参の戦艦から撃たれたミサイルの報告が入る。一瞬で数え切れないくらいのミサイルが撃たれたようだ。
ダンジョー号のコックピットには、スタンガードが一人、ユニックの先に設置されたカメラアイから通信される画像を頼りに、ドズルをダンジョー号に引き寄せていた。 器用に、ドッキングしていたコンテナに、フロートキャリーごとドズルのコントロールユニットを収めると、先ほどから鬱陶しいように呼び出されている通信ポートを確認し、「はたかぜ」からの通信だと分るとダンジョー号の通信ポートを同期させた。 「ダンジョー号のクルーか?」 「これはこれは、連邦警察の戦艦の乗組員様で?」 スタンガードは、状況とは裏腹なほどノンビリと答えた。 「本船は、その港の外で攻撃を受けている。一時、その港に退避する可能性が高い。ショックに備えるよう、警告する。」 「おやまあ。コッチも危険だぜ〜。」 言いかけて、モニタを覗くと、そのモニタの中に見慣れた顔が現れた。 「おや、これはリード大尉殿。こんな僻地までわざわざ見回りですか。」 「おれを覚えていたか?スタンガード。」 「今、ちょっと取り込み中なんで、兵器積載規制の取締りは後にしてくれると、この上なくありがたいんだが。」 「こっちも、ちょっぴり非常事態でね、おまえら、船に武器の積み過ぎでシょっ引きたいのは山々なんだが、こっちも生憎多忙中なんだ。」 どうやら、お互い旧知の仲らしい。が、挨拶もそこそこに、リードは本題に話題を持っていった。 「ところで、ここいらのエリアが用意してる、なにやらゴっつい兵器とやらを追ってきたら、おまえらの船に当ったんだが、違法行為に加担して無いだろうな。」 「さあ、法律がわかんないんで、何が合法で、何が違法かがわからん。くだらない話なら通信ポートを閉じるぞ、こちとら役人と違って忙しいんだ。」 「そうか、邪魔したな。これから、この船、はたかぜがそっちの港に強行入港する。轢かれないよう、どいてろ。」 「がははは、逃げて来るならオカド違いだぜ、この中もロケットランチャーがうじゃうじゃいる。その傷だらけの船が持つか?」 「キサマら、ここでも暴れてんのか?どこ行ってもトラブルメーカーだな。」 「人のこと言えた義理か、おれ達の職場に決まって現れるくせに。暫くしたら、コッチが表に出るから待ってろ。手を貸してやる。」 スタンガードはそれだけ言うと、席を立ち、コックピットを後にした。ダンジョー号からクウガと共に進入したゼンダ、そしてゼンダが連れて来るであろう人質達を収容しなければならない。 身を乗り出して、入港口の向こうを覗き込むと、「はたかぜ」からフレアが打上花火のように散開し、眩いばかりの光を放っていた。
統括執務室では、ルドルフが怒りまくっていた。 「港が滅茶苦茶に破壊されている。あのテロリストがなぜ未だに居座ってるんだ?早く宇宙へほっぽり出して破壊しろっ!トルーマンは何をやってるんだ?」 「今現在、トルーマンは連邦警察と交戦中です。思ったよりも手こずっている様でして。もうエリア#502からの援軍も到着しますゆえ、もう暫くお待ちを。」 「その事だが、エリア#502とこの#405が組んでいることが分れば、後々不利なものにならんか?」 「今となっては、その懸念は遅いですが、なあに、トルーマンは連邦警察の船を消してくれます。さらにゼンダを始め技術職員もドズル調整後消えて頂きますし、今ある貨物船も残念ながら地球に帰ることは無いでしょう。」 「この事を知る部外者は、他にいないな?こんな大げさにするつもりは無かったし、港が破壊されるなど、まるで計算外だ。」 「地球政府を相手取る前哨戦と思えば、これくらいの犠牲は仕方無いでしょう。計算間違いはいつの世もつき物です。その都度修正して行くのが大事かと。」 「何を、分った風な口をきくな。おれ達は、この小惑星帯の富が手に入れば、それ以上は望まん。ドズルが必要なのは、あくまでもビジネスだよ。おまえ達など・・・」 ルドルフは、言いかけて、部屋の隅に目をやった。なぜならば、そこにはいないはずの人間がいたからだ。 見たことも無い、頭にタオルを巻いた土建屋風の大男と、やけにさっぱりしたヤサ男、特徴がないのが特徴のような男だ。 ハンと、クウガである。
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