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作品名:ファング・プライズ 作者:Sita神田

第21回   救いの「手」
エリア#405の宇宙港では、予想もしなかった貨物船からの攻撃に晒され、一面が火の海になっていた。
体勢を立て直した宇宙港公安兵がロケットランチャーを装備し集まって来ていた。
「コントロールブリッジを狙えっ!中にいるのは2名らしい。」
搬入通路からコントロールブリッジを狙うには、ダンジョー号のコンテナが邪魔だ。
「管制塔からは、コントロールブリッジを狙えるか?」
管制塔に配置された公安兵は、搬入通路にいる兵に無線で答えた。焼けて瓦礫の廃墟となりつつある管制塔から見たダンジョー号は、見下ろす形で眼下に横たわっている。
「こちら管制塔からは十分狙える。貨物ヤロウのコントロールブリッジ目掛けてロケットランチャーをぶち込むぞ!」
兵は、ロケットランチャーのサイトを覗き、十字をダンジョー号のコントロールブリッジに合わせた。トリガーを引こうと指をトリガーにかけた途端に、シャープに平たい、異様な形の戦闘機が2機、轟音を轟かせて宇宙港に入って来た。
「連邦警察だ。こいつは、恐らく、はたかぜの艦載機だぞ。」
公安兵は、ロケットランチャーを引っ込めた。

エディ機から見たエリア#405の宇宙港は、まさに地獄絵図だった。
「ひでえモンだな、こりゃ。一体何が起こってるんだ?」
ヘンリーは通信でカーラに伝えた。
「停泊している貨物船のコンテナの天井が破られてるわ。ひょっとしてなぶり殺し?」
「港の方が被害がひどいってのは、どういうわけだ?」
ここから状況を見た者にとっては、まるで貨物船がいじめられているとしか思えない光景と言えなくも無いが、現に港が燃えている。
その一瞬の隙を突いたかのように、ダンジョー号はノーマルエンジンを吹かして管制塔に突っ込んだ頭を軸に、搬入路の入り口へ横付けする形に移動した。
その隙に、ダンジョー号から搬入路に進入した影があった。
ハンである。ハンは、今の移動でダンジョー号が搬入路に取り付くと、そこからエリア#405の港へ忍び込んだ。

崩れ行く管制塔の中で、ロケットランチャーが発射された。体勢を崩されたまま、はずみで撃ち出されてしまったロケットランチャーは目標があるわけでもなく、虚しく港の中で轟音をあげて港の一部を破壊しただけだった。
「貨物船が攻撃を受けている。護衛した方がいいの?」
パニック状態の宇宙港に突っ込んできたエディ機の二人は、どうしていいのか判断も付かずに状況を見守るしか出来ない。
「帰還命令が出た。どっち道、この状況じゃこっちも危ないし、する事もわからん。カーラ、外に出るぞ。」
「了解。」
エディ機が港の外に出ると、帰還命令が出たわけがわかった。あの憎き黒船がそばまで来ていた。
通信機からリードの声が聞こえた。
「見たとおりだ。あのクロヤロウがやって来やがった。」

黒船から、5発ものミサイルが発射された。
「はたかぜ」では、この5発のミサイルを的確に捉える。
「パッシブセンサー内臓ミサイルが発射されました。フレア出します。」
「はたかぜ」の艦尾から、夥しい数のフレアが撒き散らされた。あたり一面が、フレアの眩いばかりの光に照らされ、エリア#405のボディーに「はたかぜ」の影を落とし込む。
ミサイルは、フレアの光源を目標物と誤解し、そちらに自ら座標を修正する。ミサイル3発がフレアに直撃し、轟音を上げた。
「2発、シーカーヘッドがペーブウェイです。当たるっ!?」
黒船は、赤外線誘導であるサイドワインダーに、セミアクティブレーザー誘導ミサイルであるペーブウェイを混入して発射してきた。ペーブウェイは、連続的な照射ではなくパルスとして発信されるので、サイドワインダーに混入させると「はたかぜ」ではわかりずらい。
「チャフ散布っ!」
「了解。」
ペーブウェイに向けてチェフが吐き出された。「はたかぜ」の手前で誤爆させたものの、近距離の爆発により右舷が焼けた。艦橋にも地震のような揺れが伝わってきた。シートから投げ出された者までいる。
「被害は?」
「艦艇の被害は、右舷に亀裂。ケガ人は不明。」
「やってくれるぜ。」
「黒船から戦闘機が2機射出、スペック不明。」
「UCAVじゃないのか?有人戦闘機か?」
リードは、ここまで黒船の戦闘能力が高いとは思っていなかった。地球から打ち上がって、そのままここ、小惑星帯エリアまで走り詰めなのだ。艦載機まで搭載していることは誤算である。かくも外洋に生きる賊と、地球圏内に生きる者の戦闘力の差は大きい。
「エディ隊を黒船の後方に回せ、黒船の足を止めるんだ。」
「了解。」
ヘンリーとカーラの声がスピーカーを通してCICの中に鳴り響く。


ケガ人をはじめ、#502から来た技術職員達をドズル据付ラボに詰め込むと、クウガ、ゼンダ、サクラの三人は手近のフロートキャリーでそのドズルごと挟み込み、港に向けて走り出している。
ゼンダとサクラは、少なくとも港、その他の道順を知っているのでラボには乗らずにフロートキャリーの方に乗った。
ラボの中は、ほとんどスシ詰め状態だったので、そっちの方が快適かも知れない。
これで全員を、ユニットごと脱出させようという魂胆である。

「不思議じゃ、誰も咎める者がいない。っちゅーか無人のようじゃ。」
ゼンダは、脱走するからには途中数々のトラブルを覚悟していた。先ほど見たクウガの動きを持ってすれば、そのトラブルも難なくクリアしていけそうな気がして、気持ち的にもだいぶ落ち着いている。がどうしたことか、まったく障害が無いまま港まであと一歩のところまで来ている。
「ああ、恐らく港はオレ達どころじゃないと思うよ。」
「ナニ?何かやったのか?」
「いやぁ、スタンとハンを残しておいて、どうにかなってないワケがない。このエリアはおれ達にケンカを売ったんだ。残念ながら無事ではいられない。」
そこへ、フロートキャリーの前に立ちはだかる兵がある。
「おいっ!港は封鎖されているぞ。この先は通行禁止だっ!」
その時、隣にいた兵が銃を構え、今港の封鎖を告げた兵に向って言った。
「おい、こいつら#502からの職員じゃないか?監禁していたはずだぞ。」
それだけ言うと、銃を構えた兵士は、はるか後方に吹っ飛んで行った。吹っ飛んで行った兵士と入れ替わりに、クウガが立っている。
「キ、きさまっ!」
それだけ言うと、その兵士も天井に向って体が伸び上がった。瞬間に白目を剥いている。クウガのアッパカットが見事にヒットしていた。
遠いところで、声がする。
「あ、あそこだ。おまえ達、そこで何をしている!?」
今の状況を見ていたゼンダが、クウガに言った。
「この辺に人が出てきたぞ、みな殺気立ってる。一体、どうしたのじゃ?」
「恐らく港が近いんじゃないかな?人の流れに付いて行けば港に行けるってことか。」
クウガは、今声がした方向にフロートキャリーのハンドルをきると、そのまま突っ込んだ。思ったよりも大勢の兵がいる、まではいいが、ロケットランチャーまで装備した大げさなヤツまでいるではないか。
「あれは、さっき貨物船から引っこ抜いたドズルのコントロールだっ!」
クウガはその言葉を逃さなかった。
「ラッキー、ここは港に違いない、あのシャッターをブチ破って突破するぜいっ!」
クウガは、ゼンダとサクラに言うと、フロートキャリーをその方向に向けた。
兵は、フロートキャリーに向けてロケットランチャーを構えている。
「大事な核兵器の部品を、ロケットランチャーの餌食にするってか?」
兵は、ワラワラと、どこにいたのかと思わせる人数が集まって来る。リーダー格らしい兵が、集まってきた兵を制止するように叫んだ。
「ヤツらドズルのユニットを持ってる。発砲するなっ、引きずり降ろせっ!」
前からも、後ろからも続々と集まって来る。
サクラもパニックで、泣き叫びそうな勢いである。
兵は、手に手に銃やスタンガンクラブで武装してフロートキャリーを取り囲んできた。
「どうするの?」
さすがにゼンダも、諦めの色を隠せない。
とその時、
「ズガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガ」
港の方向から、極太のシリンダーが伸びて来た。シリンダーの先にスライド式のラッチが付いていて、アームに見える。アームは、ドズルを挟み込んでいるフロートキャリーよりも大きいから、人数がまとまっている兵は、ひとたまりも無かった。
「やったっ!ダンジョー号のユニックだ。ゼンダのせんせ、ユニックに引っ掛けよう。ユニックの先にカメラが付いているから引っ張ってもらえるぞ。」
クウガは、フロートキャリーから身をいっぱいにかがめると跳躍し、兵が密集するユニック付近に、一人の兵を踏み潰しながら着地した。
スタンガンクラブを持った兵がクウガ目掛けて振りかぶる。が、その兵が殴った相手はクウガではなく、同士である。
「ぎゃあ。」
悶絶うって殴られた兵が倒れた。クウガ足の甲がそいつの後頭部にかかると、クウガの位置へ手繰り寄せ、身をかわされたところへスタンガンが襲ってきたものだった。
「しまったっ!」
思った時には、すでにクウガの拳が顔面に直撃していた。殴った位置に、すでにクウガはいない。その左に立っていた兵が、どこから飛んできたか分らないクウガのかかとをこめかみに当て、吹っ飛んでいた。

「運送屋には恐ろしい男がいたモンじゃ。」
ゼンダは、フロートキャリーの上にいながら、隣のサクラに聞こえるか聞こえないかの声で言うと、身震いした。
「そんな事より、早くあのアームの所に行かないと。」
「おお、そうじゃった。」
ゼンダは、たどたどしくフロートキャリーをユニックの方向へ操作すると、さらにユニックのアームが伸びてドズルを掴み、ユニックが縮み始めた。元は港へ向っている。
サクラがクウガを見ると、まだ兵どもと戦っている。
「クウガっ!」
港に向うユニックから見ると、クウガがドンドン遠ざかる。それを見てサクラが叫んだ。
「ちょっと確認する事がある。ゼンダのせんせ、後は頼む。港に行けば、スタンがなんとかするから。」
クウガはそれだけ叫ぶと、また奥に戻っていった。


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