戦闘服の男達は、瞬間的に照明弾を投げつけ、なおかつ三人を倒したのはこの男だ、と誰もが直感した。 「このヤローっ!」 何も持たずに、両手をブランと下げたままのこの隙だらけの男に、殴りかかった。クウガの向こう側からも仲間が殴りかかっている。挟み撃ちにして、袋叩きにしてやる。 と思った瞬間に、クウガが身を屈めた。クウガの頭上から拳が飛んできた、と、クウガと対面した戦闘服の男には見えた。 クウガの左を見ると、後方から殴りかかった仲間は、顔面にクウガの蹴りをメリ込ませ、鼻血を飛ばし、体をくの字に曲げながら倒れた。 「ナニっ!?」 叫んだのと同時に、クウガの拳が顔面にヒットした。鼻の奥に熱いものが湧き上がり、口の中いっぱいに鉄の味が広がった。 さらに殴りかかってきた一人を見たクウガは、その場にしゃがみこみ、足を伸ばしつつ体を回転させると、走ってきた一人の足をはらった。男は、予測もしないクウガの動きについてこられず、そのまま転び、同時にクウガに殴られ吹っ飛んだ。 しゃがんだクウガは、その場で体を伸ばしきると、後方で銃を構えた戦闘服の男に向って人間業とは思えない跳躍力を見せて着地し、その男に立ちふさがった。別に何をどうするわけでも無く、その男から銃を取り上げた。 サクラは、クウガの流れるような動きと、何の障害も無く倒され、吹っ飛ばされていく戦闘服の男たちを、半ば呆然として見ていた。銃を構えた男など、飛んで来たクウガに、まるで銃を渡すかのごとく、自然な流れで銃を奪われた。 その男は、クウガの回し蹴りを喰らい、吹っ飛ばされている。 ものの何秒もしないうちに、5人が倒された。 クウガは、さらにとんでもない方向に飛んだ。戦闘服の男達は、なおも5人残っているが、いずれも何が起こっているのか理解できない表情が見て取れる。そんな5人の中に、壁を蹴って方向転換してきたクウガが一人の男を蹴りでなぎ倒しながら着地した。 残った4人は、本能的にクウガに殴りかかった。 サクラには、その4人の行動は、自暴自棄、ヤケクソのように腕を振り回しながら相手に向っていく子供のように見える。 クウガは足を上げると、その一撃で二人を蹴り飛ばした。 その後、再び跳躍し、相手の頭を掴み、顔面に自らのヒザを入れた、と同時に、空中にいる間に、もう一人の顔面にもう片方の蹴りをメリ込ませ、着地した。 なんとクウガは、数秒の間にコマンドー並の男ども10人を再起不能に陥れた。 「ひゅううー。」 クウガから、空気を吸い込む音がする。 これだけの動きをしている間、クウガは呼吸をしない。回りを警戒しながら、間合いを置き、初めて息を吸ったのだ。なのに、その後は息切れをしている様子も無い。 「ゼンダのセンセー、これで仕舞いか?」 初めて言葉を発したクウガの言葉に、代わりに、私服の男が別の方で答えた。 「港に行った男を除けば、見張りはこれで全部だ。」 さらにその男は、クウガに駆け寄り、握手を求めた。 「あんた、すげぇな。コマンドーを一瞬の内に10人もノしちまった。」 クウガは、これで全部、の言葉で安心すると、 「んなこたぁ、どうでもいい。みんな、ゼンダの先生とここを脱出してくれ。おれは、こいつを持ってかなくちゃ。」 その言葉を聞いたゼンダが、クウガに聞いた。 「なおも、ドズルを持っていくのか?こいつは破壊したいのじゃが。」 「冗談言うな。こいつをエリア#502に持って行って、伝票にハンコ貰わんと、おれらの仕事が終わらない。」 「ああ、なるほどね。」 ゼンダは、大きく頷いた。 クウガは、回りにお構い無しに、ダンジョー号の中でノした二人をドズルの中から引きずり出すと、その辺に捨てた。
「見つけました。それにしてもエリア#405の宇宙港の中です。」 「はたかぜ」の技術官は、ダンジョー号の識別番号発信をキャッチすると、位置を確認した上で艦長のリードに伝えた。 「でかした、殴りこむぞ、#405の港に着ける。黒船の位置まで千キロを切ったら黒船に向けて飛ぶ。」 「はたかぜ」CIC内のプロッティングパネルには、#405が拡大されて映し出されていた。と、その時、#405の港からビームが一直線に光ったと思ったら、火の手が上がった。 「なんだ?画像を解析しろ。リアルタイムか?」 「今まさに火事起こした画像っすね。画像届くまで、何秒と差が無い距離です。リアルタイムですよ、これは。」 「黒船は、スピードを上げました、計算上の進路は、#405。到着まで10分ってところっす。行き先一緒だ。やりましたねリード大尉、読みが当った。」 「まぐれだ。エディ隊を出して、#405の港がどうなってるのか探ってくれ。」 「了解。」 エディ隊、ヘンリーとカーラは揃って#405に向けて出撃した。
「10分ってところか。これ以上は無理だな。」 宇宙戦艦「デーモン」の中では、バークリーが、トルーマンに呟いた。 「我々はエリア#502に向っていたんだ。それを今さら#405が目的と言われても何ら落ち度は無い。」 「そうだな。ルドルフ直々の要請だ。よく分らんが、ドズルは今どうなってるんだ?」 「あのダンジョー号ってのが積んで、エリア#405の港にあるか、#405がすでに奪っている可能性が高いな。もっとも、奪っていたら貨物なんぞに攻撃されないと思うが。」 「で、ドズルの本体、核弾頭は我らデーモンが持っている。核兵器のセットが#405の手に渡ることは、我らの依頼人である#502は何とも思わんのか?」 「わはははは、何とも思わないどころか、もともと#502と#405は、同じ穴のムジナだ。エリア同士のイザコザだから、連邦警察も戦艦一隻などとナメた艦隊で追撃してるのさ。エリアが結託して核など用意したら、大艦隊が押し寄せる。」 「何だとっ!では、#405が#502から奪ったドズルの部品などと言うのは、茶番だったと言うのか?」 「ああ、地球側を欺く為に、民間の運送屋に運ばせたってのがそもそもの間違いだと、おれは思っている。そのまま運ばせればよかったのに、#502から#405へ発射装置を変更するからあんな危険も侵さなければならなかった。あの二人には気の毒だった。」 「あの二人と言うのは、貨物船をジャックさせた二人か。トルーマン、おまえはこのことを地球から打ち上がる前から知っていたのか。」 「黙っててすまなかったが、このことは、極秘事項だったんでね。#405と、#502、そしてオレだ。」 「プラント大手のエリアが2箇所肩を組んで、どうするつもりだ?しかも、2箇所とも武装し始まった。」 「さあ?政治家と資産家のやることはわからんよ、おれ達はエリアの連中にセッセと兵器を運んで、金を貰う。それだけで十分だ。」 その二人のやり取りに割って入るように、「デーモン」の技術官がトルーマンとバークリーに向って報告した。 「#405付近に、はたかぜが出現。#405に向っています。」 「何だと?まさか、ダンジョー号に積んだドズルがバレたか?」 バークリーが焦った声を出してトルーマンに聞いた。 「わからん。とにかく、意味不明な動きといい、港へ内部からの攻撃といい、あのダンジョー号とかって貨物船、クセモノかも知れん。急いだ方がいいな。」 「まったく、とんだババを引いたな。」
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