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作品名:ファング・プライズ 作者:Sita神田

第2回   上司と部下の心温まる風景
ゼイムカンパニー、課長ブースでは、課長のハガがダンジョー号チームの今回の仕事内容を、ミッションカートリッジで確認をした上で、内線ごしではあるが、部長に噛み付いていた。
「今回の仕事内容は、あまりに危険すぎるんではないですか。この依頼はすでに請け負ったんすか?」
「ハガ課長。この仕事は専務も咬んでるし、すでに契約まで済んでいるんだよ。今さら撤回するのも違約金を払う事になりかねないと思わんかね。」
その時、課長ブースのドアホンが鳴った。今さっき、社員食堂でサリナにどやされた、スタンガード、ハン、クウガの三人がだらけた姿勢で立っているのがモニタに映し出される。
ハガは、三人を確認すると、
「まぁ、こいつらに期待するしかないか。」
と思いながらも、
「部長、とりあえず保険は上限なしでかけますし、現場の判断で、危険を察知したら撤収するように指示しますよ。大事な部下ですから。」
「その辺に関しては、異議を挟まないように管理部署に言っておく。君の部下は、ワシにとっても大事な部下だ。」
ハガは、内線を切ると、ドアホンのボタンを押しながらマイクに向って言った。
「遅かったじゃないか、入れ。」
振り返ると、もう三人は課長ブースに入ってきて、ちゃっかり腰掛けている。
スタンガードが切り出した。
「三人、呼ばれたから来たけど、今回の仕事の件なら、もう船にインストール済みだし、心配には及ばないが。」
あまりにものんびりしたスタンガードの言葉に、ハガが諭すように状況を説明し始めた。
ゼイムカンパニーでは、仕事内容はロム・カートリッジで配布される。これを直接船に読み込ませ、仕事に対する航海は船が自動で行うのだ。これらの設定をインストールと呼んでいる。
「おまえらのこれから行くエリア#502だが、実は、エリア#405と小惑星帯の利権の主張がかみ合わず、先週から緊張状態が続いているのだ。武装モジュールの運び込みが行われているかのような噂も流れてる。」

太陽系4番惑星である火星の外周を回る小惑星帯。学術調査を終えた宙域から、順次資源採掘用へと開放しており、これら採掘工事にも営利企業が続々と進出していた。
すでに、国家とも言える規模を擁するプラントが乱立し、学術調査開放の根回しや、開放された宙域の採掘権の奪い合いなどが複雑に絡み、地球側から制御する事が不可能なほどの人員が移住、生活の基盤を整えている。
そんな中で、小惑星採掘によるアステロイドドリームを追いかけて移住してくる荒くれ男どもが集まれば、それらの利益を、武力を行使してでも我が手中に収めたい、と思うプラントが出てきても何ら不思議はない。
そこへもって来て、何としてでも小惑星帯の採掘権を、より多く確保しようとしているプラント2箇所は、お互いをけん制し合うように、武装を始めており、その動きの噂が先週辺りから流れ始め、よもや戦争か?と世論にとられるくらいに発展していた。
この2箇所のプラントの動向は、回りの採掘プラントに及ぶばかりか、地球の経済状況ですら影響を受ける。

「そんなこたぁ百も承知だし、それどころか今回の積荷だって、兵器の可能性が高いだろ。」
スタンガードは、 やけにはっきりハガに言うと、さも当然と言わんばかりに足を組んだ。
「そこまでわかってたか。一応、積載物名称は学術調査物資となっている。今、部長に確認もしたんだが、この仕事はもう契約も済ませ、やらねばならん。くれぐれも気をつけて仕事を遂行して欲しいのと、危険を感じたらすぐに引き上げてくれ。おれは、お前達をそんな危険な宙域に行かす事が心苦しい。」
ハガはしんみりと、三人に詫びるように頭を下げた。
「何が心苦しいだ。そう思うんだったら、給料上げろ。」
「たまには男らしく、部長にガツンと言ったらんかい。そんな危ねぇー所、自分で行けとかさー。」
「どうせ、おれらが断らねぇーと思って、こっちにフったんだろ。ミエミエだぞ、ハゲ課長。」
三人は、口々に課長であるハガにたて突いた。
「なにおおーっ!おれはハガだ、ハゲじゃない。しかも後退してるだけで、まだまだ頭髪は健在だっ!それにっ!」
先ほどの神妙な会話とはうって変わり、ハガは鼻息荒く三人相手に反論した。
「きさまらが仕事を遂行する為の犠牲は多大なモンがあるんだぞっ。こないだのインテリジェンスステーション破壊を筆頭に、正体不明とは言え、巡視艇の破壊、エリアの損害、エトセトラエトセトラっ!そしてっ!」
ハガは、三人に人差し指を勢いよく突き立てると、
「ダンジョー号の兵器積載違反っ!厳重注意が出るたびに俺が頭を下げてんだっ!挙句の果てにお前ら、よりによって、連邦警察にケンカ売って、駆逐艦まで損傷させやがってっ!」
「いや、あの、連邦警察については、あれは無いものとして処理された事ですし・・・」
「無いものだ?あれは連邦警察が非を認めた上に、駆逐艦が民間貨物艇にやられたとあっちゃ、プライドも地に落ちるってな判断で揉消してくれただけだ。貨物艇が駆逐艦にケンカ売るなんぞ、古今東西聞いたこともねぇーし、正気の沙汰かっ!」
「あの、課長。課長がボクたちを心配して頂いてると言う事が、大変よくわかりまして。この場は落ち着いてよく話し合ってそれから出航させて頂くと言うことでお納め頂ければ、まことに幸いでございますが・・・」
「フーっ!わかりゃいいんだ。いいか、くれぐれも身の危険を感じたら、引き上げるんだぞ。そこでケンカすんじゃねぇーぞ。わかったかっ!」
「わかりました。」
三人は、ハガの怒りを納めるべく、声をそろえて了解の意図を伝えた。
どこへ行っても、返り討ちにあう三人であった。


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