「通信士っ!通信回線を開け。トルーマンに連絡をしてくれ。」 「デーモンですか?戦艦デーモンのトルーマンに連絡をとれという命令ですか?」 「そうだ。他にトルーマンがいるか。」 「いくら司令官でも、トルーマンに連絡をとることは出来ません。ルドルフ統括自ら、きつく禁止しているんです。」 「だが、この港は、このままじゃ全滅だ。ケガ人も避難させねばならん。」 「で、ですが。」 「ならば、ルドルフ統括に連絡をとってくれ。トルーマンを呼び出すように頼み込む。それと、兵士を集めてくれ。ドズルの研究開発室にも何人か行っていたな。見張りを残して、皆来い、と。」 「了解しました。」
サクラは、運ばれてきたドズルに接続された作業カプセルのパネルを開けようとしていた。 レーザーカッターをパネルラッチ部分に当て、ラッチを破壊し、エアロック扉の施錠装置用コイルを切断した。スクリュードリルをこじ開けた穴に無理やり押し込み、ロックシリンダーにかませれば、後はスクリュードライバーを回せばシリンダーがスライドしてロックが外れる。 パネルをはずすと、人一人がやっと通れるほどの穴が開いており、その向こうに制御パネルがひしめいて設置されているはずだったが、中は暗くてよくわからない。がしかし、目を凝らしてよく見ると、その中に、光をかろうじて反射する4つの目があった。こちらを見ているようだ。それもそのはずである。暗い場所を見る目も慣れてよく見ると、馴染んだ顔、ゼンダの顔ではないか。 サクラは、叫び声を上げる寸前の大きく息を吸い込む瞬間、 「シっ!」 ゼンダは人差し指を口にあて、威嚇した。それが無ければ、サクラは大声を張上げていたかもしれない。 もう二つの目は、見たことも無い男だった。照れくさそうに頭に手をやると、ペコリと頭を下げた。ゼンダと体を寄せ合って狭いところに入っているせいか、憎めない顔をしている気がした。 ゼンダが生きていた喜びも束の間、どうしていいかわからずにサクラの動きが止まっているのを、そばの戦闘服の男がサクラの異変に気が付き近寄ってきた。 「何があるんだ?」 サクラは必要以上に、驚いて見張りの男と目を合わせた。男は、異常に気が付き怒気をはらんで作業カプセルを点検しようとしている。そばにいた戦闘服の男がもう一人、異変を察知し、後からサクラに近付いてきた。 その時、 「おーい、港が今大変らしい。貨物船が暴れだしたそうだ。ここに10人ほど置いて、他のものは港に行くぞ。」 向こうの方で声がした。 近付いてきた二人の戦闘服の男たちは、ドズルのコントロールユニットどころでは無くなった。 次々に、部屋から戦闘服の男たちが立ち去って行く。 男も銃を構え直して、立ち去ろうとした。 サクラは、ホっと胸を撫で下ろしたが、もう一人の戦闘服の男はそのサクラの機微を逃さなかった。 「キサマ、何を隠してるっ!?」 一人が銃を構え、警戒しながらサクラに近寄ってきた。 その声を聞きつけてか、もう一人の戦闘服の男が戻ってきた。 「しまった。見つかってしまった。どうしたらいいのか。」 サクラは焦りに焦った。 「何でもないわ・・・」 言いかけた時に、戦闘服の男に銃のストックで頭を殴られた。 「ぐうっ!」 サクラは、悶絶打って吹っ飛んだ。 銃を構え、中を覗いた戦闘服の男が、驚嘆の声を上げた。 「おお、これはこれはゼンダ博士。生きてたか。」 「何っ!?ゼンダ博士が?」 見張りの為に、残った戦闘服の男たちも驚いた声を上げたが、驚いたのは、私服の研究職員達だ。 「こ、殺されたんじゃなかったのか。」 その瞬間回りの誰もが、何が起きたのか理解するのに暫くの時間を要した。なんと、ドズルのコントロールユニットのパネルの中を覗き込んだ戦闘服の男が、その反対側に吹っ飛んで行ったのだ。 「ナ、ナニっ!?」 地蔵のように固まっていた回りの戦闘服の男達が、我に返りドズルのコントロールユニットに集まってきた。男達は、銃を構え恐る恐るドズルのコントロールユニットに近づく、と、パネルの中から、何やらカプセルのようなものが、ポーンと投げつけられた。 コーンと床に着地すると、バウンドしてコロコロと転がる。 戦闘服の男達が銃口をそのカプセルに構えて見ていると、突然そのカプセルが目もくらむ光を放った。一瞬パニックに陥り、カプセルに向けて銃を発砲した者までいるが、なにぶん、カプセルの発光で視力を失い、何も見えない。 「発砲するなっ!ケガ人が出るぞ。」 明らかに同士討ちを警戒しているが、すぐに銃声は鳴り止んだ。 「グエっ!」「ギャーっ!」 明るすぎて、何も見えない部屋の中で悲鳴が上がった。明らかに銃で撃たれたのとは違う悲鳴だ。
発光も暫くして落ち着き、目が慣れた時、サクラは薄目を開き、周りの状況を確認した。回りで、戦闘服を着た男三人が悶絶うって倒れていた。 「な、何が起きたの?」 見ると、その傍らに見たことの無い男が立っていた。こちらに背を向けているのは、戦闘服の男達に構えるためだ。 「大丈夫か?」 サクラは、腕を掴まれ、抱き起こされた。その声は、あの懐かしい祖父、ゼンダの声だ。見ると、ゼンダが心配そうにサクラを覗き込んでいた。 「おじいさん、無事だったんですか?」 「ああ、貨物船ジャックした先で、助けられたよ。」 「ルドルフ統括は、ゼンダ博士は殺された、と。」 「おまえ達を助け出す為に、ちょっと作戦を立てた。ウソをついたんだよ。二人のケガ人兵士もこの奥に連れて来ている。もう大丈夫だ。」 「あの人は?」 「彼は、クウガ。貨物船のクルーだよ。」
そう言っている間に、視力を取り戻した戦闘服の男達はクウガに走り寄ってきた。 「取り押さえろっ!」 「銃は使うな。同士討ちになるぞっ!」 早くも、戦闘服を着た二人が、銃のストックでクウガに殴りかかっている。 「あぶないっ!」 とっさにサクラは叫んだ。
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