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作品名:ファング・プライズ 作者:Sita神田

第18回   攻撃の兆し
部屋の扉が開き、男二人に連れられてきたサクラが入って来た。
「サクラさん。」
「お嬢さん。」
みな、一斉にサクラを見ると、それぞれ声をかけた。今や、どんなに細くても、このエリアの最高責任者に会いに行ったこのサクラが望みの綱なのだ。
「みんな・・・」
サクラは、みなを見回すと、声にならない声を絞り出した。
「ダメでした・・・」
この後は、サクラは泣く事しか出来ず、みなは、うつむく事しか出来なかった。

それを見計らったかのように、白衣の恰幅のよい男が入室してきた。堂々と胸を張り、脂ぎった顔をしている。
「オーロっ!キサマあ、おれ達をココに売ったな。ゼンダ博士までも。」
私服の男の一人がオーロと呼んだ男に掴みかかった。その男はたちどころに戦闘服たちに取り押さえられると、別の戦闘服が、口を封じるかのようにその男の腹にショットガンのストックをメリ込ませた。
「げええっ!」
男は、その場にうずくまったが、白衣の男は、何事もなかったかのように話を始めた。
「ドズルが到着した。ゼンダ博士が命をかけて運んだ装置だ。みんな、これまで以上にがんばって欲しい。」
得意げに話す白衣の男にサクラが食って掛かった。そして、回りから疑問視の声も同時に沸き上がった。
「命をかけて、ってゼンダ博士は死んだのか?おまえが殺したのか?」
「ゼンダ博士は、自ら望んで運んだ物じゃないわ。」
白衣は、サクラを睨みつけると、そのままサクラの前に歩を進めた。
「ゼンダ博士は、ドズルの、そして核の研究に命を捧げた。本当はここに到着する前にコントロールユニットであるドズルの調整は終了しているはずだったんだが、死んでしまっては文句を言う事も出来ない。」
その後、白衣はみんなを見回した。
「おれ達は、急いでいる。コントロールユニットが完成しなければドズルが動かん。ドズルが動かなければ、核を持っていても無用の長物なんだ。これまで以上の働きを諸君に期待している。」
抑揚も激しく、ドンドンその男は調子に乗っていった。そして最後に付け加えた。
「これが完成しないと、おれ達は#502へ帰れないぞ。」
天井に設置してあるクレーンが動き、隣の部屋から、直径3mほど、長さが5mほどの一見円筒形の物体を吊るして持って来た。私服の連中の頭上に来ると、クレーンに設置してあるチェーンブロックの余丁が巻き取られ、その反対側に吊られていた円筒形の物体が下がってきた。よく見ると、後ろに箱が付いている。
「これは。」
どこからとも無く上がった声に、白衣が答えた。
「ドズルだ。ゼンダ博士を殺した運送屋が快く提供してくれた。みなもこのコントロールユニットに命を吹き込む為にがんばってくれ。ドズルが制御する核本体は、おっつけココに来る。」
サクラは、ゼンダが死んだ事は今でも信じられないが、ドズルの部品が届いた事によって実感が沸いて来た。
「クソっ!人殺し。裏切り者の人殺し。」
「サクラ、ここの居心地が悪かったら、おれの部屋に来てもいいぜ。特別におまえだけは入れてやる。はははは。」
それだけ言い残すと、白衣の男は部屋から去った。
「サクラさん、ゼンダ博士が亡くなったって本当なんですか?」
「先ほど、ルドルフ統括も同じことを言っていた。ゼンダ博士は、おじいさんは、賊として貨物船に押し入り、返り討ちにあったと・・・」
それ以上、サクラの口からは何も出なかった。
別のところから声が上がった。
「お、おれは帰る。#502へ帰るぞ。こいつを完成させれば帰れるんだろ。おれはやるぞ。」
「そうだな、やろう。ユニットが届いた事で、先が見えた。やれば帰れるんだ。」
歪んだ希望であったが、ここにいる連中にとって、何も無いよりははるかにマシだった。


エリア#405の宇宙港では、ダンジョー号がブザマに横たわっていた。
「あの船の中は、なんかカラクリがあるようだが、もう用済みだ。宇宙に放り出して、我らの戦艦の大砲で撃ってもらおう。解体するよりは痕跡も残さないし、その方がいい。」
ってなルドルフ統括の判断もあり、宇宙港からのダンジョー号撤去作業を行おうとしたその時だった。
横たわっていたダンジョー号が突然轟音を上げたかと思うと、宇宙港の管制塔に突っ込んで来た。
管制塔は不意をつかれたと言っていい。特に中からの攻撃があるわけでもなく、外壁もなされるがままだった為に、クルーはショックで死んでしまったか、よくてもビビって動けないと、誰もが思っていた矢先の出来事だった。
管制塔の中は、阿鼻叫喚の大惨事となった。
運が悪い事に、エリアでは、自分が持っていた兵器がアクシデントのショックで引火し、爆発を起こしたところもある。
「なんなんだっ!これは。」
「本気で突っ込んできたのか?あの船は。」
管制塔の中の司令官も惨劇を見て、呆然としていた。
すぐ目の前に、ダンジョー号が威圧的に存在していた。まるでそびえ立っているように司令官には見えた。
「ケガ人を運べっ!」
「火を消せ。」
エリアの宇宙港の人間とは言え、民間人である。このような災害にはもろかった。統制が全ての軍人と違い、みな各々勝手な判断で動いている。
「待てっ!あの船の撤去が先だ、ヤツは生きてるぞ。あの船を撃破しろ。」
脅威は目の前にある。一瞬でここまでの被害をもたらせた原因が目の前にある。これ以上何をするか分らない。
考えれば、油断は禁物だった。ムーンステーションで送った男二人も、ゼンダが足手まといになったとて、失敗するような男達ではなかった。ましてや、やられて宇宙に捨てた、などと今にして思えば信じられる話ではない。ここにある貨物船は、他の貨物船とは全く異質のものなのだ。
「甘く見すぎていたのか?あれをナメ過ぎていたのか?おれ達は。」
司令官は、周りの惨劇を見ながら血の出るほどの悔恨を噛んだ。
さらに、管制塔にメリ込んでいるダンジョー号の右舷についている、対になった2枚の反射板を前方に設置したアセンブリのような物が管制塔の内側に向って、スライドした。
「なんだ、あれは?」
それを見た誰もが思った。
その2枚の反射板の間に光が集まったと思ったら、一瞬その回りが眩いばかりの光に包まれた。その光は、その周り一体の鉄を溶かし、物を焼いた。焼かれた配線の匂いと黒煙がひどい。
「貨物のコックピットを攻撃しろっ!我々は、攻撃を受けているぞっ!」
司令官は、我にかえり、そこらにいた作業員に叫んだ。
「今まで、なぜあの貨物はなすがままだったんだ?なぜ今になって攻撃をしてきたんだ?」
司令官は、フと浮かんだ自問に、自答できないどころか、考えている余裕すら無くなった。回りのパニックに、自分の頭もパニックになっていたからだ。


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