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作品名:ファング・プライズ 作者:Sita神田

第16回   歪んだ理論
ダンジョー号の外では、バックリとコンテナ上部が醜く強引に開かれていた。作業ロボット2機と、武器を持った隊員4人が、警戒した上で中に押し入り、中のスタックコンテナを引き出そうとしているところだ。作業ロボットのアームがうなりを上げている。
さらに、切断したコンテナの天井の穴が小さいと見えて、もう1機の作業ロボットは、レーザーで穴の周りをさらに切っていた。
コンテナ内部に押し入った隊員は、固定ラッチが外れない事に嫌気がさして、ヒステリックにレーザーを振り回している。
この様子を、スタンガードはコックピットからモニタで眺めていた。
「すげぇな、プラントがやることか?こいつら兵隊なのか。賊でさえここまで大胆にやらねえぞ。」
恐怖や怒りとも通り越して、呆れかえっていた。
コンテナの中では、スタックコンテナが完全に外れたようだ。中からズズズズとその姿が出てきたのをスタンガードは見た。
エリア#405据付けのフローティングキャリーが隊員の一人に操縦されてやって来た。手際よくスタックコンテナを掴むと、元来たガレージへ下がっていった。ガレージへの通路は、スローティングキャリーが通ってきた時にはかなり余裕があり、広めの通路であったが、さすがに取り出したコンテナを通すには狭いようだ。慎重に通路に入り、光りすぎじゃないかと思うばかりの照明の明かりの中に飲み込まれていった。
「なんか、ハラが立ってきたな。」
目の前で自分の積荷がかっぱらわれているのだ。運送屋として、平常心でいられるわけも無い。


「他の職員達を解放して下さい。」
白衣を着たサクラは、渾身の念で懇願している。サクラの対面にいる男は、先ほどダンジョー号に通信を送っていた男だ。エリア#405の統括であるルドルフである。

エリア#405は、1万5千人強を擁する国家規模のスペースコロニーで、小惑星帯アポロ・アモール型付近の採掘調査、開発を行うプラントも兼ねている。
食料、その他生活物資を地球からの輸入に頼るが、小惑星から切り出される資源物資は、輸入をはるかに上回る利益をもたらす。
独自の政治理論を完成させたわけではないが、地球の政治から受ける影響は少なく、植民地として考えるならば、西部開拓時代のアメリカのような荒々しさがある。あくまでも、土地として考えるならばまだ若い、と言ったところだ。
が、これほどの人口であれば、当然指導者が現れる。もはや地球から制御されるのではなく、現地にいる指導者の下、統率を取られているのが、エリアだ。
ルドルフは、このエリアの最高指導者である。地球所属のプラント型エリアであったことから、統括と呼ばれ、その名称が定着した。
そして、ここはルドルフの執務室。無駄に地球から輸入された骨董品の数々、高価な調度品、絵画、陶器と、贅の限りを尽くしている趣がある。執事、ボディーガードといった取り巻きも何人か控えていて、とてもここが地球から遠く離れた小惑星帯とは思えないと錯覚するほどである。

「異な事を言う。誰もあなた方を束縛していませんでしたよ。」
「では今すぐ、ゼンダ博士を連れ戻した後、わたし達をエリア#502へ帰して下さい。」
「#502は核兵器を輸入したんです。ゼンダ博士を始め、あなた方技術者はその核兵器の開発に携わっている。絶対にあってはならない事だと思わんかね?」
「わたし達のMOX燃料とγ線スペクトルの研究は、あくまでも平和利用のための研究です。あってはならないのは、あなた方のような、力ずくで宇宙の富を独占する行為です。」
「ゼンダ博士はわかっているはずだ。特にMOX燃料など、いちエリアで扱う研究材料ではないことを。外洋からの外敵から人類を守る為、という詐略的な名目に、内に向けた軍備計画が進められているこの時に、平和利用など、本人が望むとも叶う事は絶対ありえない。」
筋が通っていた。やはり治外法権のようなこの宇宙で、核の研究は平和利用とはとらえられない。回りの者を恐怖に陥れるだけのものにしかならないのだ。
それでもサクラたち研究員は、いや、ゼンダ博士は人類の平和のための研究に自分を捧げてきた。そんな人たちを、だからと言って監禁してよい道理は無い。
「とにかく、ゼンダ博士に会わせて下さい。ここ最近わたし達は、まるで強制労働かのような不当な扱いまで受け始まっているのです。」
「強制労働かのような?まだぬるいようですね。これは強制労働です。命令なんです。これまでは先ほど申上げたとおり束縛してはいなかったが、状況が変わりました。#502では軍を雇ったという情報が入っていますし、ゼンダ博士は、今ここに到着している輸送船のクルーによって船から捨てられたとの情報も入っています。なんとかあなた方にドズルを完成させてもらわねばならない。」
「え?ゼンダ博士はどうなったとおっしゃいましたか?」
「殺された可能性が高い。運送屋にね。ゼンダ博士が命をかけてドズルをこの#405へ持って来てくれたんですよ。」
「うそです。ゼンダ博士は研究だけに従事してるのです。そんな危険なことはしません。」
「それは、ゼンダ博士の助手としての言葉ですか?それともゼンダ博士の孫という立場からの言葉ですか?」
「あなたがおじいさんを殺した。そして、あなた方はわたし達に核兵器の開発をやらそうとしている。わたし達を解放しなさい。」
サクラは、ルドルフに詰め寄った。まさにその時、サクラは両脇を男二人に抑えられ身動きが取れなくなった。
「研究職員の方々の家族も、みんな職員が#405のために働いてくれる事を望んでいます。サクラさん、あなたもラボに帰ってドズルを完成させ、おじいさんの仇をとりましょう。」
サクラを抱えた男達は、容赦なくサクラを抱えてラボへ向かう。サクラは、男達の腕を外そうと懸命にもがいたが、見るからに屈強な男達の腕は、まるでロックしたかのようにビクともしなかった。
「汚いっ!職員たちの家族まで人質にとったのですかっ!?ドズルは絶対に組み立てない。絶対に核兵器など作らないぞ。」
叫びも虚しく、男達は執務室からサクラを連れて行った。
ルドルフは、執務室に一人きりになると内ポケットから内線を取り出し、番号を押した。程なくして相手が出たようだ。
「身の方はどうにかなっとるのか?部品ばっかりあっても何ともならんぞ。」
「心配するな。順調にそっちに向っとる。」
「これからだな。」
「ああ、これからだ。頼むぞ。」
ルドルフは、内線を切った。執務室の贅沢な装飾品たちを眺めると、自然と笑みがこぼれる。今日は一際笑えた。


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