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作品名:ファング・プライズ 作者:Sita神田

第14回   ドライブマジック
「デーモン」の艦橋では、ダンジョー号の識別発信を捕捉していた。小惑星アイダ宙域にあるエリア#405付近である。
「あのエディどもがうるさい。UCAVを射出しろ。」
UCAVは、無人戦闘航空機と言われた時代からの名残でそう呼ばれているが、「デーモン」から打ち出されたUCAVは、レーザービームをどの位置にも発射できる、ドーム型の兵器である。「デーモン」からのコマンド命令が無ければ、セットした目標物を攻撃し続ける。これはホッパーからの送信パルスと「デーモン」の受信レーダーからも目標物を算出できる為、「デーモン」、ホッパーの両方が健在であれば、電池が続く限りずっと3機のエディを追跡、攻撃する事が可能だ。
UCAVの攻撃をよけながら、エディ隊は、フル噴射している不明船のエンジンを見た。
「ちきしょうっ!これでも食らえっ!」
ベンは、ヘルファイヤを打ち出すトリガーを引いた。ベンの集中力は、不明船に向けられた刹那、UCAVは、ベンのエディにレーザービームを発した。ビームは撃ち出された直後のヘルファイヤを焼き、エディを誘爆させた。
カーラはベンに向って渾身の声で叫んだ。
「ベーンっ!」
辺りが急に明るくなった。ベンのエディが燃えている。
「カーラっ!UCAVの動きが早すぎる。一旦引くぞ。」
「でも、ベンが。」
「落ち着けっ!ベンの心臓は止まった。」
エディには、パイロットの生存を確認するあらゆる設備が設置してある。パイロットを映すカメラは勿論の事、酸素濃度計、心電図、通信機。その全てのデータはリアルタイムに他の機体、そして「はたかぜ」のCICでも受信している。ベンの体がエディの爆発によって焼かれてしまった事は「はたかぜ」でも認識した。
カーラの耳に、リードの声が届いた。
「カーラ、引いてくれ。はたかぜから、ハープーンを発射する。すぐに不明船に届く。」
「りょ、了解。」
「はたかぜ」から発射されたハープーンが不明船を撃破出来るか、はなはだ疑問ではあったが、ヘンリーに続き、カーラも戦線を離脱した。遠のく不明船に歯噛みしながらも、UCAVを1機撃墜する事が精一杯だった。


「ブラックマターって物質はご存知?」
ダンジョー号コックピットでは、ハンが眉間にシワを寄せて、ゼンダに詰め寄っていた。
「暗黒物質と呼ばれてるものか?」
ゼンダも科学者として、ブラックマターの名前くらいは常識中の常識であるが、肝心のブラックマターそのものについてはまだまだ未知の物質である。
「そう。宇宙の質量の大部分を司る物質です。」
銀河渦の運動に影響を及ぼす重力の存在から算出された質量は、星の明るさから推定された星やガスの質量を全部足した値よりも最大10倍も重い。この目に見えない質量を持つ物質を、以前はミッシング・マスと呼び研究対象とされてきたが、その後ブラックマターと呼称を替え埋め合わせをしてきた経緯がある。

「ブラックマターとは、架空の物質ではなかったのか?物質というのも不明で、天体と見ている学者もおる。」
「勿論、全てをひとつにまとめて考えるには乱暴だが、その一部は、太古の昔エーテルとも呼ばれていました。この宇宙は暗黒物質で満たされている。」
「全てを満たす物質か。だが、それと重力とどんな関係があるんだい?」
「星がそこに存在する時、そのブラックマターを圧しのけて浮いているんです。そこに歪が生じる。つまりブラックマターの濃淡がそこに発生してるってことっすね。その歪は物質に近いところでより顕著に現れる。まあ当たり前なんですけど。」
「そ、それが重力ってもんか?」
「もっと乱暴に言うなら、ブラックマターってのは空間で、重力ってのは空間そのものの歪を言います。でも空間と時間軸は非常に曖昧な結びつきなんだ。」
「ひょっとしてこの船は、そのブラックマターと時間軸を操って航行してるのか?」
ゼンダは興奮気味に、ハンたちを見回して先走りした話をした。
「あはははは、そんな大それた事はできないよ。海を進む帆船、ヨットだって、風を操ってるわけじゃないでしょ、風を利用してるだけ。ダンジョー号も同じで、あくまでもこの歪を利用して航行してるだけ。歪から歪へ、空間から空間への差を感知して自分をその方向へ引っ張ることが出来るってだけなのさ。時間を修正する技術がキモだがね。」
「す、すごい。それで瞬間移動ができるのか?」
「時間の概念が欠落してるだけだから、瞬間に見えるだけっす。人の時間の感覚なんて、曖昧なもんだからね。」
わけがわからなかったが、現にダンジョー号は瞬間移動をしている。
「わしは、こんな小惑星帯の僻地に来て久しい。最近の地球の船は、と言うか地球の技術はこんなにも進んでいたのか?地球の船はみな重力ドライブを備えているのか?」
「い〜や、これはおれ達だけの秘密ですぜぇ。重力ドライブなんて、まだまだ架空のドライブ。おれ達だけの技術なんだ。」
「え?3人だけが持っているドライブなのか?」
スタンガードがメインコックピットから話の終わりを告げた。
「お出迎えだぜ。両脇に磁力アームの船に抱えられたし、向こうから指定の通信ポートを開く。」


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