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作品名:ファング・プライズ 作者:Sita神田

第13回   ステルス性ゼロ
「光速ドライブとは、全く違うものだぞ。」
「当たり前だ。運送屋ごとき、光速ドライブを積んだ船など無いはずだ。見たことはおろか、聞いたことすらない。」
「仮に、ヤツが光速ドライブを持っていたとしても、あの姿は光速ドライブではないぞ。」
熱ヒストグラムのグラフ表示も、余熱を残してダンジョー号が消えたとしか思えない動きで止まっていた。
「ヤツらは、おれ達の知らない、何かをやっている。」
「気を取り直そう。とにかく、あのダンジョー号を支配しているのは、#405の貨物船ジャックだと思っていたが、先ほどの映像では、ダンジョー号クルーではなかったか?」
「#405が出した兵二人のデータを見たが、奴らがしくじる可能性は極めて低い。間違いなくダンジョー号は#502へ行くだろう。奪還しなければならない当初の目的は変わらないぞ。」

「デーモン」のクルー達は、どういうわけか、ダンジョー号が襲われ、ドズルが#405の手に渡ることを知っていた。知った上での攻撃だったのだ。
エリア#502へ、中東からドズル核弾頭を輸入する事、トルーマンはこの仕事を引き受けた。トルーマンのこのチームに愛船「デーモン」があれば、核弾頭を輸入するなどの危険な仕事もしくじるわけは無い。なぜならば、トルーマンは軍人だった。仲間を引き連れて外人部隊としてこの宇宙を駆け巡っている。金次第では、地球連邦警察すらケンカすることを辞さない。しかも、必ず依頼は遂行する。
そんなトルーマンの元に、任務途中でありながら新しい依頼が舞い込んできた。同じ依頼人であるが、乗っ取られている民間貨物輸送船からドズルを奪還せよ。との指令である。
「前線のことを何も考えてないのか?連邦警察の巡洋艦と戦った直後にまた戦か?」
トルーマンは相棒であり副長のバークリーにこぼした。
「そう怒るな。相手は民間の船だ。クルーはどうなってもいいらしいからユニットの奪還が最優先のようだ。楽な仕事だ。その上ギャラもいい。」
「そうだな。アステロイドエリアの連中は金持ってやがる。」
「それでも、それじゃ飽き足らないそうだ。戦争おっぱじめてでもまだまだ金が欲しいとよ。」
「今は依頼人だ。終わってから聞くよ。それはそうと、二人がしくじったと言う情報は間違っていなかった。」

トルーマンは、つい昨日のそんなやり取りを思い出していた。楽な仕事のはずだった。巡洋艦撃沈直後のチンケな仕事だったが、勝ち星に花を添えて、核弾頭にコントロールユニットという、1セット揃えて依頼人に引き渡せば、気持ちよく請負金を請求できるはずだった。それが、いきなりこの体たらくだ。だが、任務に変更はない。ちょっとしたアクシデントだ。トルーマンは気を乗りなおして部下達に指示をした。
「ヤツが、どんなカラクリを使ったか知らんが、おれたちは当初の予定通りだ。ダンジョー号からドズルを奪い、#405へそれを運ぶぞ。」
「だが、ヤツが何をやって、何でミサイルが当らないのか謎解きをしないと、今回の任務は危ういぞ。」
「なに、捕まえて力ずくでドズルをむしりとってやるさ。」
「簡単に出来ればいいが。」
バークリーも、なんとなく胸騒ぎがした。
そんな沈滞ムードを冗長するかのように、レーダーを睨んでいた技術兵がCICの中で叫んだ。
「連邦警察の船が、ここから2000キロ地点に光速から減速。この船に向ってます。」
「船は?」
「はたかぜ1隻。レーザービーム射程距離内まで5分。」
トルーマンは、艦長席に座りなおすと共に、気まで取り直すと、すかさず迎撃体制を指示した。
「ホッパーとチャフをばら撒け。はたかぜの動きを把握すると共に、ヤツらにミサイルを撃たせるな。」
光速データリンクを内蔵し、レーダーのアンテナ阻止を組み込んだホッパーを射出する事によって、「デーモン」の目と耳のスペックは格段に上がる。これで捉えた座標により、「デーモン」から発射したミサイルを、自艦の撒いたチャフに邪魔される事無く、「はたかぜ」の50センチ四方の艦橋の窓に当てる芸当ですら可能である。
「座標が算出されたら、はたかぜの熱源に向けてミサイルを発射せよ。あとはかまうな。技術班は、ダンジョー号探索に全力をしぼれ。見つけ次第そっちへ行く。」


「リード大尉、不明船からミサイルが発射されました。ハープーンミサイル5機」
「よーし、戦闘だあ。予想はしていたが、いきなりのミサイル発射かよ。エディ隊、用意は出来てるか?」
「3機、いつでも。」
エディ隊、ベン、ヘンリー、カーラは揃って返事した。
異様に平たい船体に、鋭角的にして機能を無視したようなアームの先に、レーザービームを据付け、根元に行くと、迎撃ミサイルを掴んでいる。見るからに異様であるが、パッシブレーダーを送信者に返さない形。そう、まさにステルスを思わせる、と言うかステルスシステムそのもののこの機体は、「はたかぜ」の艦載機である。
リードは、ここ、「はたかぜ」の艦橋から外を見ると、その3機が飛び出して行ったところだった。
「ミサイルは、船のABMシステムがなんとかする。エディ隊は、ホッパーをぶっ壊してくれ。」
ABMシステムとは、かつて弾道ミサイルを迎撃するミサイルを発射する為のシステムであったが、このように縮尺版を宇宙戦艦に搭載されてなお、通称ABMシステムと呼ばれていた。長距離、中距離、近距離と、撃ち漏らしの段階を追ってシステムが判断し、打ち出されたミサイルを破壊する為に動作する。
戦艦同士の戦いがここまで長距離になる場合、まず相手の目を潰さなければならない。この戦いにおいては、不明船から打ち出されたホッパーを破壊する事である。同じ意味で、こちらでも相手艦を捉える目が大事である。「はたかぜ」は、地球の周回軌道の戦いから放ってあったセントリーから情報を吸収できる為、この戦いにおいては有利に展開できると言ってもよいだろう。
エディ隊は、「はたかぜ」から一度45度の方向に飛ぶと、中間地点から不明船のある座標へ向って飛んだ。
不明船は、エディ隊を警戒し、レーザーガトリングを撃ちまくった。レーザーガトリングは、ヘンリー機のアームをへし折った。
「ホッパーを片付けろ。ヤツが飛んでれば、我々は丸見えだ。」
本来レーダーは、自分の発するパルスの反射波を受信する事によって敵の位置を探る。エディは、このパルスを拡散することにより、発信元へパルスを反射しない。取りも直さず、ステルスがレーダーに映らない理屈である。が、ホッパーで発進したパルスを別の場所、この場合「デーモン」で受信する場合は、この限りではない。ステルスの性能を有しているエディといえどもレーダーに捉えられてしまう。
カーラが、レーザーでホッパーを一つ打ち落とした。
「間近で見ると、不気味な黒だ。薄気味悪いやつめ。」
「デーモン」はすでに遁走の体勢に入っている。
「逃げられるぞ。こっちからヘルファイヤーを打ち込むっ!」
エディのコックピットからベンが叫んだ。


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