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作品名:ファング・プライズ 作者:Sita神田

第12回   トルーマンのイラつき
「また撃ってきたぞ。景気いいねぇ〜、連邦警察とやり合った後に無補給でこれだけ撃ってくるのかよ。相手にしてられねぇ。」
ハンは、いつものようにノンビリした口調だが、休憩室に監禁している二人の、何も言わない態度といい、好戦的な戦艦の存在といい、うんざりしてきたようだ。
「今、何をしたのかよくわからんかったが、またやるのか?」
なんとなくキツネにつままれたような顔をしていたゼンダが、今度は慌てる事も無くなく聞いた。ひょっとしたら見かけに反して、頼りになる男どもかも知れない。
「いや、核積んでる船とケンカするのもナンなんで、重力ドライブを作動させたことだし、そのまま#405への旅をお楽しみ下さい。」
スタンガードがメインの操舵席から、サービスよさげなアナウンスをすると、その直後、ダンジョー号のメインパネルに突然巨大な島が映し出された。地球で見る満月よりも大きい。ゴツゴツした感じの形の悪いジャガイモを髣髴とさせる星で、赤く輝いている。

小惑星アイダ。アポロ・アモール型小惑星帯の一群に属するこの小惑星は全長60キロに若干満たない。がしかし、周回軌道を持つこと、衛星ダクツゥルを持つなど、活動的な天体であること、そして何より、その生産性の高さにより、研究と開発が急ピッチで進められている。
生産性の高さとは、鉄、ニッケル、コバルトと言った資源としても有用であるばかりか、金、白金、イリジウム、オスミウム、パラジウムなどの貴金属の発掘量も、今や地球の生産率を10倍近くアップさせてくれる可能性を持つ恵みの天体なのだ。
時には、地球の軌道を横切ったり、地球スレスレまでに接近してくる、いわゆるアステロイド・クライシスの小惑星の軌道を計算するサンプリングとしてもかなりの成果を収めている。
人類は、この小惑星帯の研究に着手して、もう何年にもなる。
ゼンダは、その研究スタッフの一員としてかなり初期の頃から、この小惑星アイダに携わってきた。

プラントエリア#502が敷設されてからは、研究もかなり楽に進められるようになった。何よりもこの施設のおかげで、これまでの悪条件下の調査研究に比べて、人間らしい暮らしを営みながらの調査研究は、驚くほど能率も成果も上げていた。
だが、そこそこの調査研究も終焉を向かえ、これからは資源を発掘するための天体となったときに、プラントも営利企業の手に渡り、利益追求の対象物となった。そして、それまでとは違ったドロドロとした利権がらみの愛憎が入り込み、進む環境破壊をゼンダは実感し、正直なところ、物悲しさを感じている。ゼンダは、この不恰好な、それでいて月まである一丁前のこの天体に愛着を持っていたのだ。

何年も付き合った、小惑星アイダ。それが、今乗り込んでいるダンジョー号のパネルに映し出されている。
そしてゼンダは、ダンジョー号の外を確認するために、視線をパネルの上にずらした。パネルの上の窓には、リアルな外の景色が見える。確認して驚いた。パネルの中は、現在あるダンジョー号の目の前の景色が映し出されているのだ。
はっきり言うと、小惑星アイダの近海にダンジョー号はいる。

「こ、今度は一体何が起こったのじゃ?突然、窓にアイダが映し出されたぞ。」
「映し出されるのも当然だ。小惑星帯に着いたぞ。正体を明かして重力ドライブを使ってやったんだ。感謝して下さいよ。先生。」
「え?この瞬間に小惑星帯まで飛んだのか?さっきの横っ飛びといい、合点のいかない事ばかりだ。一体何がどうしたものやら。あなた方は魔術師か?」
「おれたちは、運送屋だ。マジシャンではない。」
「先ほどから言っている、重力ドライブとやらを使ったのか?一体、重力ドライブとは何なのだ?」
ゼンダはこの何日か、ずっと脅迫と強制労働に耐えてきた。今も孫と仲間達は、ゼンダが味わってきた屈辱の日々に身を置かれている。それらの恐怖と怒りを払拭するくらいの衝撃が、この貨物船にはある。ゼンダは、子供のような好奇心を剥き出しにしていた。


トルーマンは、ヘッドセットを自分の耳からむしり取ると、床に叩きつけた。艦橋にあるスピーカーから流れ出るノイズは、ダンジョー号が通信圏外に飛び出したことしか物語れない。加えて、自信マンマンに撃ったミサイルは、またも虚しく闇の彼方へ飛んでいってしまった。トルーマンは、副長であるバークリーを呼ぶと共に、技術担当の者に、ダンジョー号の解析を指示した。
「おれは、ムカついた。バークリー、キミの意見を聞きたい。」
「同感だ。それよりあの運送屋、動きがおかしかった。一体何をしたのか把握した者はいるか?」
バークリーは、言って辺りを見回しながらトルーマンの元に進み出た。
「スロー、再生されます。」
技術担当がCICのシートから叫ぶと、艦橋にあるパネルに、ほんの何分か前の出来事が映し出された。そのパネルには、フテブテしい態度のダンジョー号が映し出されている。少なくとも、トルーマンにはそう見えた。
画面に3発のミサイルが飛び込んできた。矛先はダンジョー号に向いている。パネル脇には熱変化を表すヒストグラムも映し出されているが、まったく動かない。パネルの中にある、動くものはミサイルの他何も無いのだ。そして、ミサイルの動きが緩慢になった。
「ここからスローです。」
異変はここから起こった。ミサイルが、ダンジョー号に10メートル単位に近づいたときに、突然ダンジョー号の姿がチューインガムを伸ばしたように一点から伸びていった。
「止めろっ!」
トルーマンが叫ぶと、ダンジョー号は、そのある一点を伸ばした状態で静止画となっている。
「こ、これは何だ?」
バークリーも、信じられない目でダンジョー号の姿に釘付けになっている。まるで瞳孔が開きっぱなしではないかと思われる状態からかろうじてひと言を搾り出した。


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