パネルでミサイル種別を確認していたスタンガードが、視線をそらさずに叫んだ。 「エゲツねぇーな。ファイヤーカッターにマイクロウェーブを仕込んでやがる。」 「なんじゃ?それは?」 今、不明な言葉を吐いたスタンガードに素朴な疑問をぶつけるためにゼンダが聞いた。ゼンダは、核については博士かも知れないが、兵器については丸っきりの無知であった。当然の反応である。 「ファイヤーカッターそれ自体は、船体に食い付く機能以外は特に無いけど、中に仕込む武器で性格が変わるのさ。マイクロウェーブを仕込めば、船の中にいる人間をみな焼き殺す。平ったく言えば、宇宙船それ自体を電子レンジにしちまうのさ。」 ハンがさらに付け足した。 「これくらい小さい船には有効だ。ダンジョー号は、ファイヤーカッターの中身まで解析できるんだ。」 ミサイルは、ダンジョー号目指して、勢い良く近づいてきている。その様子が、ダンジョー号コックピットのメインパネルに映し出され、それを見たゼンダがパニックに陥った。 「な、なんじゃっ!この船は攻撃されとるのかっ!?」 「わめくな、デイブ」 ハンは、目を細め、眉を太くしてゼンダに言った。ゴルゴ13のものまねだとは、だれも気がつかなかった。ハンはちょっとかわいそう。 「当るっ!」 パネルに映るミサイルの像がことさらに大きくなった時、ゼンダは余命が極端に短くなった事を察し、その事を呪うかのように目を固く瞑った。 が、特に何の変化も感じられない。何事も無く、これまでの時間が刻まれているだけである。 ゼンダは、恐る恐る目を開いてみた。何の変哲も無く、何の変化も無い。想像していた地獄絵図は何もなかった。 「ん?どうしたのだ?」 見ると、今まで頭を向いていたミサイルは、今度はケツを向けてダンジョー号からドンドン遠ざかっている。 「ハテ?ミサイルが素通りしたのはどういうわけだ?」 「ダンジョー号が横によけた。」 ハンはサラっと言ってのけた。 「横?横によけたのか?宇宙船とはそんな変幻自在な動きができるものなのか?しかも何のショックも感触もない、揺れもしなかったぞ。この船は。」 「重力ドライブを作動させた。重力ドライブを背負ってるからね、このダンジョー号は。」 「重力ドライブ?」 ゼンダにとっても初めて聞く名前だった。 「ジュ、重力ドライブとは、何だ?一体あなた達は何者なんだ?」 「そんな事より、やっぱしあの黒船は、このダンジョー号を追って来たな。ドズルを積んでると知っているぞ。それを奪いに来た。」 「ってことは、#502所属の船で、貨物船ジャックを知ってるってことになる。予測だけどね。」 クウガがそう言ったところで、無差別発信の映像音声がダンジョー号の通信ポートに受信された。パネルには、ひげ面のいかにも軍人オーラを発した無骨なおっさんの顔が映し出され、ダンジョー号の乗組員にしゃべり始めてきた。高圧的な命令口調だ。 「ダンジョー号乗組員に告ぐ。ドズルとその関係者を即刻こちらに引き渡せ。」 なんとなくベタな展開であるが、ハンはそれに響くように回答した。 「#402にとられてる人質の解放と、ここにゼンダ博士の解放が条件だ。飲めなければ、おれ達はあんた達から逃げるが、どうよ?」
全身にツヤの無いブラックペイントを施し、船の上下に複眼全天レーダードームを備えている。複眼とは、文字通り、アンテナ素子を大小さまざまに配置しており、中距離、長距離に撃ったミサイル、レーザーの命中精度を上げるために一役かっている。言わずと知れたレーダー射撃管制システム、業界用語ではFCSと呼ばれているシステムといい、光学的な筒の元に高圧縮加速させる、レーザーブースターを備えたレーザー砲という、およそレトロな船の形に似つかわしくない装備を搭載した、あくまでも好戦的なスタイル。 間近で見ると、なるほど、連邦警察の巡洋艦隊を破ったのはまぐれではないことがわかる。 識別番号も発信しないこの船は、もちろん違法の船であり、名前も無いはずだが、クルー達は、見た印象から「デーモン」と呼んでいた。
この「デーモン」の艦長トルーマンは、少しばかりイラっときた。今発射させたミサイルは威嚇ではない。前の識別番号からマッチングさせた船、ダンジョー号にマイクロウェーブを被弾させ、中の連中を皆殺しにし、悠々と積荷を検分してドズルを奪うはずだった。ミサイルが素通りしたように見えたのは、何かワケがある。多分小細工だろうが、何とも言えぬ薄気味悪さを、トルーマンの軍人であり、この「デーモン」の艦長としての本能が感じていた。 「普通なら、レーザー砲で叩き落とすはずだ。」 そして、普通の貨物船なら、この「デーモン」から発射された、前例の無い改造を施してある高速ファイヤーカッターのスピードを見誤り、最低でも1発は食らうはずだった。 その本能を信じて、トルーマンにしては珍しく、前の貨物船の投降を促したが、不敵にも貨物船の分際で条件を押し付けてきた。 トルーマンは、再度射撃班に命令すると、またもマイクロウェーブ装填のファイヤーカッターの発射を命令した。 「必ず命中させろ。」 最後に、そう念を押すと、ミサイルを発射させた。
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