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作品名:ファング・プライズ 作者:Sita神田

第10回   ダンジョー号、黒船、接近遭遇
助手は、目が覚めた。顔面に激痛が走り、思わず呻き声を上げてしまった。辺りを見回そうと思ったが、体の自由が利かない。
「目が覚めたか?」
声の方向に目線をやると、仲間が縛られている。顔面蒼白で、夥しい汗をかいている。自分も縛られている事に気付いた。
「ど、どうしたんだ?おれは、・・・一体どうなってるんだ・・・」
「油断した。おれ達が袋叩きにしたあの男にやられたんだ。おれも肩を砕かれた。作戦も失敗だ。」
「なんだとう。あの男が、たった一人で、おれ達を、こ、こんなにしたって、言うのか、」
途切れ途切れにしゃべるのもつらそうな、顔面を潰された助手が、それでも元の記憶をたどろうと、肩を砕かれた男に何が起こっているのか聞き出そうとする。
案外、トロそうな男だった。死ぬほどの訓練に耐えてきたこの二人にとっては、隙だらけの一般市民に見えた。こんな貨物輸送船を乗っ取る事など何の計画も立てずに行き当たりばったりで実行できる。仮に言うならミッションもたった1行だ。
「ドズルを積んだ船をエリア#402へ運ぶ。」
たったコレだけのことだ。むしろ、この男どもの腕の買われたのは、この後のミッションである。それがたった1行目でこのザマだ。
「くそっ。このままでは済まさんぞ。」

「おう。片一方も目が覚めたか。」
声の方向を見上げると、先ほど蹴りを入れてやった、あのトロそうな男が涼しい顔で立っている。
「わりぃけど、次の港に着くまで、手当ては出来ないよ。あんた達、襲うのが早すぎたよ。」
「きっ、きさま、おれたちをどうする気だ。」
「手当てしてやりたいけど、薬も医療器具も無いんだ。そう言ってるじゃん。おれ、クウガ。あんた達は?」
「おれ達に名前など無い。」
「あ、そう。ところで聞きたいんだけど、」
クウガは、まるで興味なさそうにそう言って、持って来たパネルを二人に見せた。パネルには、500キロ後方でキャッチされた、正体不明のフラットブラックの戦艦が映し出されている。
「この船、なんだかわかる?識別信号も出してないんだよ。あんた達の仲間なら、二人とも引き渡したいんだけど。」
「知らん。」
「あ、そう。じゃ、この船が#405か、#502かの船かも知らない?どっちかでおれらの対応も全然違うんだけどなぁ。」
「きさま、おれ達はどんな拷問にも耐え抜くように訓練されてる。無駄な事をするくらいなら、殺すんだな。」
「なんだよ、物騒だな。教えてちょんまげって、低姿勢にお願いしてんじゃん。ケチ。」
まるで、無邪気な子供のような捨てゼリフを二人に吐き捨てると、クウガはそのまま休憩室から出て行った。

「やっぱり会話にならないわ、あの二人。どうする?帰る?」
クウガは、コックピットに戻ってくるなり、スタンガードとハンに言った。
「アイツが#405の船か#502の船か、どっちかくらいも聞き出せないのか。まいったな、こりゃ。」
ダンジョー号の依頼主である#502所属の船であった場合、ワケを話せば、自分たちの護衛すら引き受けてくれそうな期待をできるが、仮にあの船が#402所属だと目も当てられない。一辺に敵と見なされ攻撃を受けかねない状況なのだ。折りしも先方は戦艦を撃沈している。普通だったらそんな物騒な船にかかわり合いたくないものだ。
ハンが、何かハタと閃いたように掌をポンっと叩いた。
「エリア#405に行くってどうだろう。」
「てめぇーはそれっきゃねぇーのかっ!」
ハンのナイスアイデアは、クウガによって瞬殺された。
コックピットまで来ていたゼンダが、三人の会話に割って入ってきた。
「ドズルを、ワシと共にあの船に預けてくれんか。#502の船ならワシは帰れる。#405の船なら、人質は延命できる。これ以上この船に迷惑をかけることは出来ん。」
「ゼンダせんせ、あの船が#502だったとしたら、人質の命の保証が出来ないぜ。なにせ、あの船が核を積んでいたと仮定したら、人質は不要になっちまう。コントロールユニットも核も#502に渡るんだからな。」
「それは#405だったとて同じじゃ。ワシらは核ミサイルの開発などしたくない。」
ゼンダは残念そうに言うと、視線を下に落した。
「めんどくせぇーから、ハンの言うとおり#405へ行こう。このまま積荷を#502へ持っていって人質が殺されちゃ、後味が悪くっていけねえ。」
スタンガードがべらんめい調に言うと、なんとなく一同納得した気になってしまった。
「クウガ、いいか?」
「ええ〜?結局そうなるのかよ。で、あの黒い船、どうすんのよ。コントロールユニットまで賊としてかっぱらおうってんだから、あの船が#405の可能性のほうが高いよ。」
「直接聞いた方が早いだろ。行くぞ。」
「しょうがねぇな。」
ゼンダは、このやり取りを聞いて、身震いするほどうれしかったが、同時に恐怖も感じた。相手は血の気の多い賊の操る戦艦の可能性が高い。しかも、コントロールユニットが#405へ行くと言うことは、核を発射する条件が全て#405に揃うということだ。
だが、ゼンダはそんな不安を口にする事が出来なかった。これまで続く囚われの時間が、ゼンダを弱腰にさせていたからだ。
スタンガードは、早くもダンジョー号を失速させていた。2分もすれば黒船はダンジョー号に並ぶだろう

「あの助手二人は、この船をジャックした後、何をしようとしたんだろ。」
クウガは、伸びをした後、頭の後ろに腕を回して、スタンガードとハンに話しかけた。
「そのままこの船で#405に行こうとしたんじゃないか?」
ハンが、クウガに負けないくらいノンビリした口調でクウガに答えた。
「と言うことは、あの黒船が後ろに迫ってるってことは、範疇の外だったって事だ。でも、コントロールユニットと核が無ければ用は足さないんだから、どっかであの黒船は#405に行くはずだよね。#405の所属か、これから襲われるかは別として。」
それらの会話を遮ってスタンガードが叫んだ。
「ミサイル撃ってきたぞ、あの黒船。」
「なに?いきなり先制パンチっすか。さっきの二人もいきなりケンカ売ってきたし、せっかちな奴ばっかしだな。あの船は#405か?」
黒い不明船から、なんと3発のミサイルがダンジョー号の尻に向けて発射されている。問答無用の攻撃であった。


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