「三人とも、こんな所にいたの?課長がお呼びよ。」 サリナは、カレーライスを運びながら、前の男三人に向かって、口調も荒く毒づいた。 今朝から、この三人をずっと探していたのに、連絡すら取れないと思ったら、社員食堂で早々とメシを食っている。 それにしてもサリナは、この広い社員食堂で、よく三人を見つけたものだ。 「こんな所って、社食で捕まえといて、こんな所もねぇだろうよ。それに、課長の用事は今回の仕事についてだろ。もう渡されたレジュメは読んで、インストール済みだぜ。」 口の中にメシを頬張らせながら、クウガがサリナにお言葉返した。汚ねぇ、しゃべる口からメシツブが飛んでいるじゃないか。 見た目極めて普通なのだが、なんとなく頼りなさそうな印象を受けるのは、きっと、そのダラケきった態度のせいであろう。そして何より、他の二人の体がでかすぎるせいで、クウガの体は必要以上に小さく見える。本当に頼りにならなくても他の二人が何とかしてくれそうだ。 さらに、隣に座って定食を食っているハンが続けた。 「それに、課長がいちいち新しい仕事だからって、呼ぶんじゃないって言っといてくれ。おれたちゃ、明日からの仕事で、午前中は半休を取ってたんだ。」 ハンは、老けた顔をしているが、クウガよりもちょっとお兄ちゃんなだけだ。それを証拠に筋肉質の上に、日に焼けたでかい体。さらに頭に巻いたタオルを見ると、土建屋を絵に描いたような風貌である。 「確かに、課長がおれらを呼び出したって、鬱陶しいだけだ。メールでよこせ。」 さらに、さらに体がでかい、スタンガードも追い討ちをかけた。体がでかいと言っても、全身これ筋肉、スキンヘッドの上、顔の掘りが深すぎ。身長は優に2メートルを超えている。まったく、エラそうな連中だ。 「ええぇ〜い、うるさいっ!」 サリナは、バンっと運んできたカレーライスを置いて、三人に向き直ると、両方のコブシを腰に当て、三人に向かって説教を始めた。 「仮にも、あんたらのオペレーターであるあたしに連絡もよこさず、休暇とは何事だっ!そんなこったから課長に目をつけられるわ、外洋勤務が多いわ、客は選ばれるわ、危険な仕事だわ、徹夜も多いくせに、給料安いから、おまえら彼女もいないんだっ!」 「危険な仕事で、徹夜が多いのは、おれたちじゃないか。」 「給料安いのも、彼女がいないのも大きなお世話じゃ。お前に迷惑かけてねぇーだろ。」 「そう言うサリナだって、男と、長期付き合ったためしがない。欲求不満だからって、おれらに当り散らすな。」 初対面の者は、サリナに男がいないと聞くと、一瞬にわかに信じられない、みたいな態度をとる上に、男であれば、ラッキーと思うらしい。だが、その疑惑と幸運は、時間が経つと共に、次第に確信と逃亡へと変化していく。そして最後には、ああやっぱ男いないのね、そんなんじゃ男も逃げるわよ、との忠告と、ボクはキミには似合わない、初めに見た印象と全然違う、などの理由から男から逃げられるという、経験を山積みさせている。
三人は口々に反論したが、最後にハンが放った駄目押しの呟きが、サリナの怒りの火に油を注ぎ、引火させた。 「うううるさあぁーいっ!欲求不満は余計だっ!おまえらはとっとと課長のところへ行ってこーいっ!クウガっ!」 「はいっ!」 ケンカの勝敗はあっけなくつき、クウガは怯えて反射的に返事をしてしまった。 「水持って来おいっ!」 「はっ!ただいま。」 「それと、福神漬けとラッキョもだ。」 「え〜、カレーライス注文したときに、一緒に持って来いよ。」 「うるさいっ!忘れたんだ。」 「くそ、めんどっちい女。」 「なんか言ったか?」 「いえ、特に何も。」 「ウソつけ、いつも美しいサリナ様にカレーライスは似合わない、って聞こえたぞ。」 三人は、マシンガンをぶっ放されたかのような反撃の前に手も足も出ず、心の中で呟いた。 「いっぺん告訴したい、このヤロウ。」
株式会社ゼイムカンパニー。業種は、わかりやすく一言で言えば、運送屋である。 今や、人口増加に伴い、国土に限界を感じている地球は、その居住圏を宇宙に移し始まっていた。 エリアと呼ばれる宇宙ステーションには、全人口2万人から3万人が居住し、その居住者たちによる他のエリア拡張の建設がすでに行われている。 建設物資は、大雑把に言うと、火星の周回軌道の外側に位置する小惑星帯からの切り出しと、宇宙保護の観点により、地球から運ばれる資源に分けられ、それら資源の運搬、エリア間の物品授受など、近年では民間の請負会社が進出してきており、一大産業を築いていた。が、広大な上、混沌とした宇宙空間に、正義と秩序が隅々にまでいき渡っているはずも無く、地球連邦共和国としては治安の整備が急務となっているこの時代、特に小惑星帯への外洋まで出る運搬業者としては、大きな危険と隣り合わせである。 そんな中で、ゼイムカンパニーの着荷率と信頼性の高さは業界でも最高水準に達しており、民間の運搬会社の中では大手グループに属していると共に、全域各地に流通拠点を持っている。 と言いつつも、宇宙運搬業はやっと始まったばかり。盗賊出現や、宙域航路の未開発により、まだまだ中世大航海時代と変わりないリスクを伴う航海と、一度船出してしまえば、貨物船クルーの腕に頼らざるを得ない部分が大半を占めている。 しかしそこは営利企業なので、一応縦割り社会の常として、ピラミッド組織としていた。
|
|