マモルは、車を踏み潰すと、さらに次の車に向って跳躍した。介護ロボットが、跳躍したマモルに向って体当たりをすると、地面に叩きつけられた。 「くそったれ。」 別の車がマモルに向ってタイヤから煙を吹きながら突進してくる。起き上がりもせず一緒に地面に叩きつけられた介護ロボットをその車に向って蹴ると、車に直撃し横転した。直後、横転した車に向って身を翻すと、さらに突進してくる車が、横転した車に突っ込み駆動不能に陥った。マモルは道路をそのまま走り、崖上に向って飛んだ。1歩目は、崖の中腹に着地、そのまま蹴り上げ、2歩目で崖上に到達した。大学が見えた。 マモルは、塀を飛び越すと、そのまま教育棟のベランダに着地、端まで走り抜けると、勢いを落とさず研究棟の6階の窓に向って飛んだ。車が数珠繋ぎとなって階段を上がってきている上に、佐渡研究室の扉が最初の車の体当たりによって、今まさに破壊されたところだった。 あいも変わらずにぎやかなユキの悲鳴が聞こえる。 マモルは、その車を蹴り上げ横転させると、2台目の車の中から助手席の下のコントロールユニットをむしりとり走行不能にした。そして、3台目の車を無造作に階段に押し込むと、それ以降の車は上がって来れなくなった。 マモルは、佐渡を左小脇に抱え、ユキを右小脇に抱えると、6階の窓を破り、地上に飛び降りた。 「ぎょえええーー。また飛びやがったなぁああーー。」 ユキは、マモルにしがみつきながら、またしても渾身の悲鳴を上げた。
「おお、3人が戻ってきたぞ。無事だあ。」 見張りの一人が叫んだ。3人は、再びテントに戻ってきた。このテントはネットワークの通信が及ばない為、今のところは安全とされている。 「佐渡先生、外はどうだった?」 「すごい有様だ。みんな殺されている。」 「そうなのか。遺体を取り返すことすら出来ないの?」 「ロボットどもが溢れかえっている。行けば行った奴がやられる。」 「アンドロ軍団だな・・・」 「ところで、マモルも帰ってきたようだが、どうだったんだ?」 マモルは、皆の前に出てきて、言った。 「マザーブルーのプログラムが書き換えられている。人間のミスだな。」 全員が口をそろえて叫んだ。 「なんだってええーっ!」 「原因は、ブラッキングプリンだ。ブラッキングプリンは、マザーブルーのプログラムを書き換える権限を偶然持ってしまったようだ。だから、マザーブルーのスペックを100パーセント近く発揮できたんだ。」 「そんな、」 ユキは、ヘナヘナとその場にへたり込んだ。ユキは、ブラッキングプリンをロボットショーで紹介していたコンパニオンだったのだ。言うに及ばず、ユキの責任でも無いが、図らずも関係していたものが原因と言われると、ある程度ショックは受けてしまう。 「実は、ブラッキングプリンのプログラムは、地球環境の係数をマザーブルーからダウンロードすると同時に、地球と人類の共存と言うプログラムのオブジェクトをデリートしてしまった。今、マザーブルーのプログラムは、人類の存続よりも、地球環境のプライオリティの方が上だ。」 「たったそれだけのために、これだけ多くの人たちがロボットに殺されたのか?」 テントの中を絶望が支配した。 「もっとはっきり言うと、マザーブルーの頭の中は、人類がいるから環境破壊が進行していくと判断して、その原因である人類を消しにかかってる。工場やプラントをストップさせてるのも、環境破壊を食い止めるためだ。」 「な、なんと。我々人類は、自然を破壊しつくした。今そのしっぺ返しを受けてるというのか・・・」 佐渡は、マモルに言った。 「マザーブルーのプログラムを、人類第一、自然は2の次って、書き換えらんないのか?」 「おれは無理だ。書き換えるには、ブラッキングプリンが必要だ。」 マモルは残念そうに言うと、ナイスアイデアがあるように希望の光を眼に宿しながら言った。 「みなさん、ここはどうでしょう、マザーブルーに、おれたちは環境破壊野郎じゃないってところを見せつけてやるってのはっ!」 「おお、そうだそうだ。じゃ、おれは、その辺のゴミを拾うぞ。」 「よし、じゃおれは、たばこの吸殻は、キチンと吸殻入れに入れるぞ。」 「おれは、夏はクーラーの温度は30度に、冬は18度に設定するぞ。」 「電気はこまめに消そう。」 「車の空ぶかしはやめよう。」 「車のアイドリングが続く時は、エンジンを切ろう。」
こうして、テントのみなさんだけは、マザーブルーに大目にみてもらったとさ。 んなわきゃねーだろっ!
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