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作品名:ユキとマモル 作者:Sita神田

第2回   わがままユキと、ロボットマモル
逃げ惑う人の流れが駐車場に向っているのに対して、男は、それとは反対のマシン搬入口へ向った。パニックの中に引き返すような形のこの搬入口は、ロボットがまったく無かったので、盲点だ。なぜか男は、ここが安全と判断した。ここへ逃げてきた人はさすがに、ユキと男だけの二人。停電は、この倉庫のようなマシン搬入口にまで及んでいたが、月明かりがあり、まだ明るいところで顔が見れる。
見回すと、まだロボットたちはここまでは来ないようだ。
ユキは、一息つくと、男に向って聞いた。
「ちょっと、これはどういうことよっ!?」
「おれだって知らんよ。回りのロボットどもが停電と同時に暴れだしたんだ。」
「わたしは、ユキ。ブラッキングプリンのブースでコンパニオンしてたの。」
「おれ、マモル。形式ニューロンブースの学習型ロボット。」
「ぎゃあああー。あんた、ロボットなのおっ?」
ユキは、腰が抜けてその場にへたり込んだが、なおもその男から逃れようと後ずさりした。
この男の、危険回避の嗅覚は、ロボットのものだったのだ。

駐車場の方向で、轟音が上がった。見ると、駐車場の方向だけ夜空が燃えているように明るい。燃えているように、というか、燃えていた。かすかに悲鳴も聞こえる。
「ロボットたちの電子頭脳が狂ったんだ。恐らく車のコンピューターユニットも狂ってる。駐車場に逃げては、奴らの餌食だったんだ。」
「あんた、ロボットなんでしょ。なんであんたは狂ってないのさ。」
「わかんない。多分、おれは、アナログ式だからかなぁ。」
ユキは、マモルののんびりした口調に、あたしを置いて逃げようとしたり、自分のことをよくわからないと言ったり、本当に頼りにならない上に、トボけたロボットだ、コイツ。と半ば怒っている。とは言え、ユキは突然叩き込まれた地獄に、もうパニックだった。

遠くに見えるビル群、いつも見る明るい夜景は、夜の蛍光灯が虫を寄せるかのごとくアベックらを寄せ付けたりするが、今晩は、そんなロマンチックな夜景は無かった。
ただ、ところどころに火の手が上がり、この国際見本市会場と同じ阿鼻叫喚の絵図が都心にも展開されているかも知れない。
「どうしたらいいの?わたしたち。どうしたらいいの?」
ユキは、この頼りにならないロボット、マモルに聞いた。
「わかんない。」
ユキは、深い深いため息をひとつつくと、駅に向って歩き出した。


世間では、瞬間的に停電になった。24時間稼動の工場、24時間稼動のシステム、全てがシャットダウンし、それと同時に、稼動し続けているロボットたちは、人間を襲った。人間たちは、何が起きているかわけもわからないまま、ロボットたちの手にかかっていく。
まさしくジェノサイドだった。ロボットに密着した社会だった為に、人間は絶滅するんじゃないのか?と思うほどの被害である。


ロボットに怯えて夜を明かしたユキが、日の出と共に見た光景は、人間が無残にも虐殺されている図だった。静寂の中に不気味に響くモーターの音が、時折人間を見つけたらしく、複数のモーター音に増幅し、やがて断末魔と共に、そのモータ音が拡散していく。
一体何なのだ?どうしてこんなになった?
電車も車も走っていない。人間を狩る機械の他は、何も動いていないような世界。
ユキが一晩、生きながらえているのは、このマモルのおかげのような気になってきた。マモルは、何を聞いてもわかんない割には、鼻がいいせいか、安全なところを逃げ、こうして無事にいる。ただ、こいつもロボット。いつ狂いだすかわからないのだ。何もかもがわからずじまいだ。
「あんた、狂ってない?」
「だから、何度も言ってるでしょ、おれは大丈夫だって。」
「何でロボットが狂ったのかも、何であんたが大丈夫なのかも、何もわからないんだ。こうなったら、お母さんの安否もわからないし。」
「お父さんの安否はわかるのか?」
「あの、わたしにはお父さん、いないので、気遣う必要は、お母さんだけなの。」
「ふうん、ユキにはお父さんがいないのか。」
「あんたとは、万事こんな会話で、ロボットじゃなくても、こっちが気狂ってくるわ。」
「おれは狂ってない。大丈夫だよ。行こう。じきにここにも偵察が来る。」


防衛省は、このロボットたちの氾濫に対して、対策室を立てた。インターネットに接続したロボット、コンピューターシステム、全てが狂いだしたのだ。コンピュータウィルスなのか?幾重にも保安プログラムが張り巡らされたネットワークに、これだけの被害が出ることは、およそ考えられる事ではない。対策室に設置された、200インチのモニタに映し出されるプログラムスキームには、異常が見当たらない。だが、このネットワークに接続されているコンピューターすらも、狂ってないとは誰も言い切れないのだ。対策室の当面のミッションとしては、自動車、作業車両などを含めたロボットどもの鎮圧だが、鎮圧するべき兵器車両も狂ったロボットどもの仲間入りをして、人間に向って牙を剥いていた。被害者を収容する事さえも不可能になっている。原因が知りたかった。ロボットどもが狂った原因が。
とにかく、コンピューター技師たちを集めるように指令が下った。が、こんな状況下では、技師たちを集める事もままならない。ロボットたちをなぎ倒しながら、それら技師たちを無事に保護できるかどうかが一種の賭けのようになってきている。
電話、ネットワークも不通になっているこの状況、どこから手をつけていいものか、はっきり指針を出す者すらいなかった。


マモルとユキは、とにかくロボットの活動範囲の外に出たかった。
「多分、ネットワークの届かない所に行けば、ロボットたちは来ないよ。山の中とかさあ。」
どうしてよいかわからないユキにとって、今となっては、マモルの言うことに従い行動するしか無い。マモルと一緒に人里離れ、機械の及ばないところに避難することにしたいのはやまやまだったが、
「もう歩けないぞ。ロボットなら、あたしをおぶって行ってくれ。」
「緊張感の無い奴だな。置いて行くぞ。」
「薄情者っ!パニックが収まった暁にはおまえを解体してやるぞ。」
「口の悪い女だな。ほれ。」
マモルは、ユキに背中を向けると、しゃがんでおぶさるように促した。
「何だよ、最初から素直にそうすればいいんだよ。たまには役に立て、ブツブツ。」
ユキはマモルにおぶさると、途端に、考えられないスピードで走り出した。やはりマモルはロボットだ。ユキは改めてマモルの恐ろしさを認識した。


街の惨劇は目を覆いたくなるような光景が続いていた。そこかしこが死体の山となっていた。その中をロボットたちが統率の取れた動きで生き残った者を狩っていた。あらゆる車も暴走している。
動いているロボットが1体、走り抜けようとしているマモルとユキを見つけた。その途端に、暴走していた車がマモルに向って全速力で走りだした。
ロボットと、車は完全に同じ意識の中で動いている証拠である。
「見つかったぞっ!」
ユキが、マモルの背中で叫ぶが早いか、マモルは、ユキをおぶったまま人間業とは思えない跳躍力で飛んだ。勿論、人間ではない。
「ぎょえーっ!」
ユキはこの世のものとも言えない悲鳴を上げた。5メートル以上も上空に跳躍すれば、ビルの3階まで一気に飛んだことと同じ高さだ。
「飛ぶなら、先に言いな・・・シャアアーーー。」
ユキが、怒りながら悲鳴を上げた瞬間、マモルは、そこから、走っている車に着地する。ドガンっ!ひしゃげたその車は、たちまち走行不能に陥った。あとから、なおも車がマモルたち目掛けて突進してくる。
マモルは、足元に転がる、走行不能になった車を無造作に蹴った。マモルたち目掛けて走ってくる車に、その車の残骸がヒットし、2台目の車も残骸になってしまった。
マモルは、なおも跳躍し、手近にあった雑居ビルの壁を蹴って、その向かいにあった雑居ビルの4階部分の窓を破り、フロアに入った。ユキは破られた窓ガラスの破片を浴びそうになったが、すんでのところでマモルがかばった為に、運良く無傷で済んでいる。
雑居ビルの防火シャッターが閉まり始めた。
「なんなの?シャッターが降りてる。」
「おれたちを閉じ込める気だ。」
「誰が?何の為に?」
「背中でゴチャゴチャうるさいなぁ。細かいことはわからんよ。」
「どうでもいいけど、あたしをおぶってること忘れないでよ。シートベルトも無いんだから、このロボット・・・ぎゃああーっ!」
ユキの言葉をよそに、今度は、マモルは、シャッターに体当たりすると、そのシャッターをぶち破った。
シャッターの向こうには、工事用ロボットが4体、マモルとユキを抹殺しに構えていた。ロボットの手には、コンクリートをはつり出す、ショックハンマーが握られている。
マモルは、廊下の壁に向って跳躍すると、壁を蹴り、ロボットの1体に向って飛んだ。目標を誤った工事用ロボットは、マモルに蹴られて、あっさり吹っ飛んでいった。他のロボットは、マモルに向けてショックハンマーを打つ。がロボットは、マモルの早い動きについて来れず、ショックハンマーもマモルに当たらない。
「もう死んでしまううう〜。」
ユキは、いっそのこと、マモルの背中から離れたかった。こんなに振り回されては、死なないまでもムチウチになって、街がこんな状況なら、医者もいないに決まっている。
マモルは、2体のロボットを縦に並べる位置に着地したところで、目前の1体のロボットを思いっきり蹴った。蹴られて吹っ飛ばされたロボットが、後ろのロボットにヒットし、2体とも再起不能になった。
1体は、あいも変わらずショックハンマーをマモルに向けて撃とうとしていた。あとから、続々と工事用ロボットが、マモルを目がけてやって来ている。
マモルは、近くにあったエレベーターの扉を蹴り破ると、エレベーターシャフトの背面の壁に向って飛んだ。
「ぎょえええー。」
ユキは、悲鳴の上げすぎで、声が枯れ、のどの痛みを覚えた。
マモルは、跳躍によって、エレベーターシャフトの中を一気に3フロア分上昇。対面する壁を再度蹴り、もう2フロア分上昇したところで、再度、背面の壁を足がかりに、跳躍したままエレベーターの扉を内側から蹴り破った。
眼前に見える階段を駆け上り、屋上に出るだろう扉を、破壊した。
マモルは、屋上を横切ると、躊躇することなく、隣の雑居ビルへ飛んだ。
「あたしゃもうダメだあ、死ぬ〜。」
「元気じゃん。」
マモルは、のんびり背中のユキに話しかけた。
ユキは、雑居ビルの屋上から、首都高速道路の立体交差を越えて、飛び降りたマモルの背中で、意識が遠くなっていった。


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