滝川の言う「会長」は、早川ひとみも所属する、株式会社テイヨウの役員も勤めている。株式会社カクナカの社長、倉田や、株式会社オウクの社長、小幡などが忠誠を誓っている人物である。港湾計画の舞台となる、神戸の米奥地区の出身者であり、計画の推進者でもある。 広大な土地を必要とする港湾計画にとって、その土地の提供者は必要不可欠である。会長は、その計画地の地主たちを元締め、積極的に港湾計画に提供する活動を展開しているが、その強引さは、時に地域住民の反発を買う事にもなっているが、米奥地区の長老的な立場を利用する事と、さらに、倉田、小幡、さらにその仲間たちの働きによって、今日までその精神を貫いてきた。その住所すら決定していない日本の土地の地主を統括すると言う事は、並のエネルギーでは持続することが不可能なのだ。 ハブ空港といわれるからには、物流ネットワークを考慮に入れてのプロジェクトになるため、米奥地区に開発しようとしている国際空港を拠点に、関東、東北、九州その他各方面へ直接結ぶ交通基幹であるインフラの整備も、港湾計画には含まれている。その辺の計画に向けての水面下の段取りを、株式会社オウクは積極的に取っているという宣伝であった。広大な土地の確保と、そのような物流幹線の建設を、どのように行うか、という疑問が残るが、株式会社テイヨウの考えでは、あくまでも法的な措置を取るという、加藤への説明である。 これは、防災上、という但し書きがつくものの、居住者の同意を得ることなく区画整理事業を行う事ができるという、捉えようによっては、政府の都合のよい法律に基づく。 加藤は、これらの話を、他でもない倉田から聞いていた。聞いたときは、それほど現実味のない話として記憶に留めておいただけに過ぎなかったが、滝川、吉崎の口から改めて聞くと、空恐ろしいリアリティーがあった。
建築会社は、政界に繋がりを求める。土地に関係する仕事であると同時に、建築基準法に縛られて建物を建設していく過程で、地方自治体、そしてその向こうにある政界に接点を持つ事は、あらゆる面で優遇を期待できるからだ。そして、それがエスカレートした域にある、公共事業等の新規事業情報であり、斡旋である。無論、純粋な人と人の繋がりによる場合もある。吉崎は、中でも有力な政界へのコネクションを持っていた。古くからの吉崎の知人であり、後者である、純粋な旧知の友、とのことだ。 吉崎は加藤を連れて、永田町へ向った。行った先は、議員会館である。訪問先と自分の身分を明かす簡単な書類を書き、受付に渡した後、吉崎は勝手のわかる廊下を歩き、目当ての議員の部屋にたどり着いた。加藤は、初めての経験に緊張している。 吉崎は扉をノックすると、中に入り込んだ。女性が一人、書類を捌いていた。 「こんにちは。今日は静かですねぇ〜。」 吉崎は、普通の知り合いに話しかけるように、女性に世間話を始めた。 「吉崎さん、お待ちしてましたよ。先生も、そろそろ出かけるみたいだから、あまり時間取れないみたい。」 ここは、前室兼秘書室になっているようだ。思ったよりも質素な雰囲気の部屋だった。 吉崎と、加藤が、奥の扉を開けて、議員の部屋に入ると、そこには、テレビでしか見たことの無い、国会議員がいた。議員は吉崎に、おだやかに言った。 「いらっしゃい。これから出かけるんだけど、吉崎さんが来るって言うから、暫く待っていようと思って。」 吉崎は、挨拶もそこそこに、本題に入った。 議員は、 「確かに、法務省の動きは、ここのところ活発だねぇ〜。法整備も躍起になっているようだけど、吉崎さんの言うことと一致してるかは分らないよ。」 「ところで、神戸方面で、地方自治体が何かしらの動きをしてるってのは、ありませんか?」 吉崎は、極めて普通に議員と話をしている。加藤は、吉崎の人脈の広さを、ただ感心するばかりであった。
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