“黒田さんですか?今車の中ですか?” “おう!今、車ば、路肩に留めたけんなんや?” “あのですね!検死医の人がですね。どうも殺人事件と言うようなんですよ。それでその検死医の人が法医解剖をしようと言われてですね。” “法医解剖のできる医者ってそう多くはないぞ。誰や?” “南先生ですけど。” “えっつ!ケン先生か?よくきてくれたなあ。お前!いい人に巡り合ったなあ。研先生は俺のこともよく知っているからよろしく言っといてくれ。研先生か?懐かしいなあ。あっそうだ。署長な。若いだろう。あの人は研先生が法医学教室にいた時、難事件を聞きに行ってそれによる手柄を評価されて若くして署長になったつぞ。勿論試験も良かったけどな。お前も研先生をうまく利用すると事件の解決は早いぞ。そしてお前もえろうなるかもしれんな。わははははー” と言って電話が切れた。 その時吉野巡査が中年のスーツ姿の男を連れてきた。 “3人のうち一人はもういなかった。一人の女は、旅行者で何の問題もなかったのでもう帰した。この男がどうも怪しいので連れてきた。” ちょっとおどおどした男だった。 南はちょっと見て、 “お前すりだな。” と言った。美穂はびっくりして、 “なんでそんなことが分かるのか?” と思った。 吉野が、 “なんでや?なんも言っとらんやろが?” と聞くと、さっき見たときより背広の左ポケットが少し下がっている。そこに一つか二つの財布が入っているはずだ。“ 男は逃げようとしたが吉野は捕まえた男は逃がさない。南は、 “吉野!お前は相変わらずこういうのは強いな。” と言った。 美穂は、 “私はもっとうまいわよ。” と言いたかったが男の左ポケットを探り女性ものの皮財布を2つ見つけ、 外に出て行って、 “この財布を取られた人いますか?” と言うと数人の人が財布を確認していたが、 “あら私のだわ。” と老婆がいい。もう一人は恥ずかしそうに近寄ってきて、 “私のです。” という若い人がいたので。とりあえず、巡査に吉野が捕まえた男と二人の財布を盗まれた女性を参考人として南関の交番に連れて行ってもらった。そして交番から死体搬送車を手配してもらって、荒尾市民病院の病理部長であり副院長である大河原先生に許可を得て荒尾市民病院へと遺体を搬送した。南医師と吉野巡査長は美穂のパトカーに乗り込み世間話を始めていた。 “お前はいつの間に法医をやったつや?” “まあお前とやった警察ごっこみたいなやつが忘れられんでな。あのころは楽しかったな。” “そうやろが。だけんお前も南関中学に行けっていうたやろが。” “親に押し切られて鹿児島のザビエル学院に行かざるを得んかったつたい。” “おまえが、熊大に戻ってきたときは嬉しかったつばってんが、全然同窓会にもでらんかったな。” “あのときは医学の勉強が面白くてな。しかし学生のころほとんど覚えてしまったけんが、卒業してすぐ大学院に行ったつたい。” “しかし今南関で開業しとるやろが?” “ああ。いろいろあってくさ。血液学で開業したつばってんが?” パトカーでサイレンを鳴らしながら先導したので荒尾市民病院に着いてしまった。 美穂としてはいろいろ聞きたいこともあったし黒さんとのことも聞きたかったが、荒尾市民病院の病理解剖室で若い女性の解剖を始めることになった。
|
|