20代から中高年のための小説投稿 & レビューコミュニティ
 ようこそゲストさん トップページへ ご利用方法 Q&A 操作マニュアル パスワードを忘れた
 ■ 目次へ

作品名:タイムマシン稼働マネージャー 作者:Hei George

第9回   慶三郎
優喜は、下北 正の悲しい、情けない心を知って、3000年前に送り込むことは人間の根本を知ることではないかと考え始めた。レポートを書いた後、人寂しい感覚を感じたが、あまり人と話すと、禁じられたことを話すのではと怖れ、エアーカーで帰宅して音楽を聴き、夕食を食べて、大画面を出してもらい、立体画像の映画を見て、見終わったのち眠りに着いた。優喜はそこで変な夢を見た、小さな小さな自分が、だんだん大きくなっていき、大きく大きくなったのち、また小さく小さくなっていく、目が覚めた時、熟睡したため、夢のことはすっかり忘れていたが、寝汗をじっとりと掻いていた。

時間局に出勤したあと、優喜は、7人この世紀に帰ってきた中に、一人だけ年取った人がいた。その人のことをどこかで見たような気がしていたが、次のレポートを書くときに名前を見て思い出した。西沢慶三郎、芥川賞作家だ。彼の“山と人間の郷愁”という小説は、優喜も3回ほど読みなおしたことがある小説で、山に登って、そこで出会った男女の、会社での仕事から、レストランでの再会、恋愛、そして2人の過去の恋愛に対する清算。絡み合う上司との確執など、28世紀の現代社会に対する多くの問題と、個人の生き方を描いたすばらしい作品である。優喜もその作品を読んで魂が揺さぶられる思いを感じたほどだ。とにかくあまり先入観を持たずにタイムマシンに乗る前の脳監査をしてみた。

西沢慶三郎、56歳、17歳の時から小説を書き始め、“黒の性質”、“コンピューターの嘘”
などの作品を発表、東大文学部に行くが、2年で中退。“文学の裏側”、“科学と文学の間で”
など、大学を批判する作品を出していたが、25歳ごろから、人間の本質を鋭く描く作品を書き始め、“海の中の青年”で芥川賞を受賞、その後、“山と人間の郷愁”、“湖の美人姉妹”
“池と道路と水の話”を書いている。49でノーベル文学賞にノミネートされたが落選。その頃23歳の新進の女優と結婚。その後、50過ぎごろから、警察が自分を付け回している、私はFBIに監視されている。様な気がして、筆が進まなくなってきた。妻の勧めで、精神病院へ入院、53歳ころ一時完寛して退院したが、55歳で再発、精神科医から自殺のおそれがあるとしてタイムマシン療法を受けることとなる。タイムマシンで過去に行った後は、農村に着き、農業に従事し、稲を植え、雑草を抜き、水を運び、雨の時は子供たちに、いろんな話をしてやって1年が過ぎ、すっかり被害妄想も、うつ状態も取れてしまった。農家の娘と縁談話を持ちかけられるが、自分には妻がいると断り、28世紀でも妻と一緒に農業をし、牛を飼うつもりで戻ってきた。過去のことは時間規則によって書くことはできないので、今からの農業や牧畜のことを書いていこうと思っている。

“この世界で農業と牧畜は相当金がかかるだろうなあ。”
と神戸で食べた自然食品のことを思いながら、優喜はつぶやいた。今日は午前中で一つレポートがかたずいたので、昼食を食べて午後もう一つレポートを書こうと思うと、
ウサギが出てきて、
”昼食はどこに用意いたしましょうか?“
と言ってきたので、
“この施設で昼食を食べる場所はいくつあるんだい?”
と聞くと、
”もちろんここでもよろしいですが、皆さんが大勢で食事なさる場所は5つございます。
1つは、昨日の食堂、1つは5階の食堂、2つは喫茶グリル、そしてもう一つは展望グリルでございます。“
と言ってきたので、
”展望グリルで食事をする。“
と言うと、
“それではご案内いたします。メニューは75階でお示しいたします。”
と言われて、
“このビルは75階もあるのか”
と初めて知った。優喜のいる部屋から入り口まで戻ると、正面の、入口から左手に大きな扉が開くと、100個ほどの直径1mくらいの筒がたくさん並んでいる。うさぎの案内した筒の前に立つと筒が開き筒型の個人用エレベーターが高速で上に登っていく。3秒ほどで75階に着くと、そこは一面の空間で、食事する人たちが行くと、その前にテーブルとイスが出てくる。
“ここでは景色を見るため、相席は原則として行われていません。ここにテーブルを用意しますが、メニューはこれらとなっています。”
目の前に、画像と名前が出てくる。優喜は、コーヒーも付いている焼き肉ピラフをしようと思ったらウサギが、思っただけで
“かしこまりました。”
と言って、窓際に小さなテーブルとイスが突然出てきた。その後すぐに、野菜サラダと焼き肉ピラフが出てきた。コーヒーは後でと思ったのでまだ出ていなかった。周囲はこのビルより高いビル20個くらい間隔をおいてみられた。下を見るといろんな小さなビルもたくさんある。景色を見ながら、食事を済ませると、すぐコーヒーが出てきて、ゆっくりとコーヒーを飲んだ。


← 前の回  次の回 → ■ 目次

■ 20代から中高年のための小説投稿 & レビューコミュニティ トップページ
アクセス: 7406