映画の撮影は順調に進んで、亀鳥監督は、その日の夜九時ごろ “明日は午後からで、3時間くらいで撮影は取り終わる。最後の日は抜けているシーンを撮ってそのあと打ち上げだ。みんなよく頑張ってくれたな。もう一息だ。ただし編集部員は今からが大変だけどな。” と言われた。優喜は、 “明日で終わりなのか?その前に小百合と結婚できてよかった。” と思った。 小百合はさすがに大女優だけに優喜との関係はおくびにも出さない。今日の朝の小百合がうそのようだ。優喜は自分の撮影所の部屋に戻り今日の九州までのワープをキャンセルして、コンピューターを使って明日の朝5時半にワープの予約をしてもらった。昼からの映画の撮影でいいので、さらに東京までのワープも12時に予約した。優喜には一つのアイデアがあり明日時間局の仕事が終わった後山下博士に話をしたいと思っていた。自分の控室での仕事を全部終了し、 “この控室も明日で終わりだな。” と思い、エアーカーに乗り込んで、 エアーカーで下村プロダクションのビルまで行った。そこには優喜用の駐車場のスペースが用意されていた。駐車場からの道案内は専属のコンピューターが耳元に話しかけてくる。 “優喜様右にお曲がりください。その先にエレベーターがございます。” そうして見覚えのある地下通路まで来ると、 “これから先は案内ができません。優喜さまのご存じのようにお進みください。” と言ってきた。 “これから先はあらゆる面で秘密なのだな。” と思った。時計を見ると夜10時半だった。 “結構ワープの予約に時間を取られたんだな。” と思った。ワープの予約はかち合うと変更しないといけないのですごく面倒である。 さらにワープしても九州まで40分以上かかる。優喜の考えは山下博士に言って何とか自分の家まで瞬間的に送る装置を作れないかとの相談をすることだった。優喜が思うにタイムマシンは自由に位置を選ぶことができる。物質を分子化して時間の流れに乗せるからだ。その原理を使えば1秒後の未来に位置を指定して行けば殆ど瞬間的に位置を移動することができるはずだ。そういう装置を作ってもらえば小百合と住む新しい自宅と記憶科学研究所の社長室に自由に出入りすることができるはずだ。そう考えながら自分の部屋に向かう。 昼間賑わっていた居間を過ぎたが10時半なので誰もいなかった。優喜は自分の部屋に向かっていった。エレベーターに乗って光のスキャンを受けると自分の部屋に着いた。 部屋には小百合が待っていた。 “優喜お帰り。明日で映画の撮影終わりだね。今日結婚できてよかったわ。” “そうだね。小百合。僕もそう思う。” そのあとの時間は長くて短い時間の経過である。 優喜は5時に下半身に軽い重さを感じながら飛び起きた。 “小百合は熟睡している。” 眠る前に、明日は5時に起き、5時半のワープに乗るから君は寝てていいよ。きっと疲れているから。“ と言っていた。案の定、小百合は疲れ果てている。 昨日までの感情の吐露と不安感、そして不眠のせいもあるだろう。 “ゆっくりお休み。” 優喜はそっと呟くと、ワープ走行で九州にできた記憶科学研究所に向かった。 6時過ぎに記憶科学研究所に着き会議室で山田副社長、相沢副社長と全体的な話し合いを済ませると、社長室に入った。8時少し過ぎていたが少しの時間でも過去の映像を眺めた。過去の映像を見るのは飽きがこない。 それから時間局に出かけた。時間局で自分の部屋で事務作業を終えた時、女性が入ってきた。 “こんにちは初めまして。私が新しくTMの係長になった作村吉江と申します。宮村は昨日秘密を暴露した件で配置換えになりました。よろしくお願いします。” “あっつ!そうですか?今日の仕事は終わりましたのでちょっと山下博士に会いたいのですが、よろしいでしょうか?” “いいですよ。今まで宮村に相当不愉快な思いをなさっていたと承っておりますがTMの仕事はずっと続けていただけますか?なかなか脳監査の刺激に耐えうる人が少なくて戸田さんはそれに耐える十分な資質をお持ちになっているので是非とも続けていただきたいと思うのですが?” “勿論です。記憶科学研究所の方は2人の優秀な副社長がいるのでこちらの仕事はおろそかにしません。” “来週15人の人を過去に送る仕事ができましたのでよろしくお願いします。” “分かりました。” “山下博士はとても多忙なので時間が開いたらこっちに来てもらいましょうか?それともご自分で行かれますか?行かれるならウサギに案内させますが?” “待ちますのでご連絡お願いします。” 山下博士の忙しさはすごく知られているので優喜は遠慮して待つことにした。 5分も待たないうちに山下博士はあらわれた。 “すいません。お忙しいのにご足労お願いして。” “いやいや。今からの仕事が大事だし、大体ここにはわしはいなくても優秀な研究者ぞろいだからね。ワシなんかいなくていいんだよ。” “実は、タイムマシンがどこでも行けるのなら1秒後の世界の東京まで送るなら物質の瞬間移動ができるかと思いまして?” “君はすごい。すぐできるよ。簡単なことじゃ。0.1秒先に送ればいいことだからな。そして制御装置も何にも要らん。時間は指定されてるからじゃ。そんなことはここのコンピューターでもできる。まあ。ワシじゃないとできんがな。” “できれば記憶科学研究所の社長室と東京の自宅までの二つをつなぎたいんですが。” “よし記憶科学研究所の社長室に行こう。コンピューター山下だが記憶科学研究所の社長室に行くぞ” “山下博士入口にエアーカーを手配しました。” “じゃあ戸田君行くぞ。ついてこい。” そう言うと山下博士は足早に歩き出した。とても定年前の64歳とは思えない足取りである。時間局の入口に行くとエアーカーは二人を乗せて時間局の社長室の駐車場スペースに乗りつけた。社長室の中に入るとコンピューターの装置をいじり始めた。15分間後に、3回くらい時間局からの呼び出しにも、 “それは後じゃ!” と3回とも答えて、 “よし!出来た。コンピューター瞬間移動装置Bを!” と言うと人が一人くらいはいるカプセルが出てきた。 “君の東京の自宅の位置は?” と優喜のいう位置を聞いた。 “あの地下なんですけど。” 大丈夫緯度経度深さ全部コンピューターが計っているじゃろう?“ “はい。” “その位置には誰もおらんじゃろうな?” “ちょっと待ってください確かめます。” 小百合がいたら困るなと思って小百合に電話をすると、小百合はマネージャーと下村プロダクションにいた。 “大丈夫です誰もいません。” “まあ居ても送れないだけだけどな。危険はないよ。” と言って、 “それでは瞬間移動装置Bを新しい社長の自宅まで送れ、コンピューター!” と言うと今まであった立体型の人が一人入れるくらいのカプセルが消えた。 “この部屋のコンピューターに瞬間移動装置Aは設定されているから、コンピューターに命令するとすぐに行けるよ。ではわしは時間局に戻るからな。” そう言うと博士は乗ってきたエアーカーですぐに時間局に戻った。優喜のエアーカーは優喜が記憶科学研究所に戻ったので、自動的に社長室に戻ってきている。 “コンピューター東京の私の自宅まで送ってくれ。” そう言うとすぐに東京の下村プロダクションの寮の自分たちの部屋に着いた。 “これはすごいや。” と思いカプセルからいったん出て、周りを見回したが、すぐにカプセルに入りなおして、 “九州の記憶科学研究室の社長室まで送ってくれ!” と命令すると社長室に着いた。 “コンピューター今の時間を教えてくれ。” と言うとさっきから5分もたっていなかった。 “これは本当にすごいな。” と思っているとコンピューターが、 “副社長の相沢さまと山田さまがこちらに来たいそうですが、よろしいですか?” と聞いてきたので、 “二人にもこの話を聞かせてやろう。” と思って二人を待った。二人とも言い出しにくいようなそぶりを見せたので、自分の方から“瞬間移動装置を付けたこと、自分は北川小百合と結婚して下村プロダクションの近くに住んでいること、山下博士に頼んでそこまでの瞬間移動装置を作ってもらったこと” などを話した。二人ともあまりの展開の速さにびっくりしたようだったが、 “おめでとうございます。” と素直に喜んでくれた。山田が、 “実は今週の土曜日本当に映画作成記念パーティーには行ってよろしかったんでしょうか?” と聞いたので、 “勿論だよ。山城美佐さんにも清原美代加さんにもちゃんと紹介する話も付けてあるからね。” と言うと、 “それは非常に今週の土曜が楽しみです。ところで戸田さんはあんな大女優と結婚できてうらやましい限りです。私も清原美代加とうまくやれないかなあ?” “まあ頑張ってみることだね。” 山田も独身の相沢を応援していた。 副社長二人が帰った後、社長室で一人、階下にそびえるビル群を眺めながら、 “タイムマシン稼働マネージャーになって本当によかった。東京の下村プロダクションの駐車場にはとても自分では買えないと思っていたベンツルノーゼットと言う、ダイムラー社と日産とルノーが共同で製作した最高級エアーカーを置いて小百合といろんなとこにドライブに行こう。” とこれからの生活や仕事のことを考えるといずれも楽しいことだけが思われるのであった。以前の安サラリーマンの戸田優喜の姿もはや全くなかった。
完
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