映画出演のことが決まって優喜はますます忙しくなった。時間局の報告書を書きあげたのが夜の9時半。それから記憶科学研究所に行って副社長と残務整理をしていたら12時を過ぎてしまった。それから帰宅してエアーベッドで寝たのは午前2時だった。翌朝は5時起きで、5時半には山田副社長と3洋工建設の出してきた見積もりや設計の検討をした。山田副社長だけに任せるには身が重すぎるからだ。実は優喜が時間局に呼び出されているとき、三原山建設のガラの悪い男が押し掛けてきたが、 “三島紀子には辞めてもらった。” ことを告げると渋々と去って行った。 優喜は後のことは山田と塩見で決めてもらえるまで煮詰めて7時に時間局に行った。時間局では2時間で本日の予定はすべて終了して、実験室で満田、麹野の報告を聞いて東京へと向かった。10時ちょっと前に着くと亀鳥、桜川両監督が迎えに来ていた。桜川は、 “今度の映画は君が出演するのだそうだね。亀鳥君の映画処女作にもなるので楽しみに見させてもらうよ。” と言って、自分の仕事場に消えた。 亀鳥は、 “主演女優が決まったので紹介します。戸田さんは主演男優となります。” と言って、いたずらっぽい目をして微笑んでいた。 50階の高さでエアーカーを降りたのだが、3階上に行き、奥に100メーター位進み、7階下に下がったところで個室があり、 “美里 サチ” と書いた白いプレートがある部屋で、 ”亀鳥だけど入るよ。主演男優である戸田さんを連れてきたのだ。“ と言って部屋に入った。 すると髪は金髪で、瞳がピンクで、まつ毛が長く、今まで見たことがないような人種のような女性がほほ笑んで立っていた。 映画やテレビではこのようなメイクは見たことがあるが、実際に目で見るのは初めてだった。清純な西沢しのぶとはまた別の最も新時代的なメイクを施した魅力ある女性だった。 しばらく魅入っていると、 亀鳥監督が笑いだした。それにつられて美里サチも笑いだした。 “ほうら、僕が言ったようにやっぱり気づかなかっただろう。” “そうね!賭けは私の負けだわね。優喜さんは勘がいいから、きっとわかると思ったのだけど。” まだ優喜はぽかんとしている、 隣の部屋から香山美香、西条かおるが飛び出してきて、 美香が、 “こんにちは。戸田さんも映画に出てもらえてとてもうれしいわ。” と言った。 かおるは、 ”戸田さん。この娘、三島紀子さんよ。きれいでしょ。私もびっくりしたのよ。“ 実際しげしげと見てもまだわからなかった。 そこで亀鳥が、 “戸田さん。貴方は金髪でグリーンの目をしてもらいますが、それでよろしいですね。あなたの部屋はここから20メーター位先にあります。コンピューターと自動物質作成機は備わっているので何一つ不自由はないはずです。トイレも個室についています。台本がテーブルの上に置いてありますから1時間くらいでメイクをしながら読んでください。メイクはメイクロボットが受け持ちます。1時間後に映画を撮り始めますからだいたいの筋はつかんでいてください。演技指導は私が直接やります。” そして傍にいた30過ぎの男を紹介してくれた。 “私の助監督は3人いるのですが、そのうちの一人の安田君です。主に戸田さんの担当と美里さんの担当になります。安田君。戸田さんを部屋に案内してあげて。” “はじめまして安田です。こちらに来てください。” “よろしくお願いします。” と優喜は言って後を追った。 安田は、 ”亀鳥さんもすごい女性を見つけてきたもんですね。この映画ビルでも評判になっていますよ。美里サチは、カメハメ波ゲームをさっきの女性二人に指導してもらって始めたのですが、最初は全然駄目だったのですが、亀鳥さんが、 ““怪獣を男だと思って考えて攻略してご覧。”“ とアドバイスをしたところあっという間に宇宙の怪獣を攻略してしまったのですよ。“ ああいう人を天才というのでしょうね。“ と言ったので、 “なるほど怪獣と男は共通点があるな。” と優喜もヘンに納得してしまった。 部屋にはテーブルといすと台本があり部屋の隅にはトイレ用の区画があった。 ”コンピューター、小便。“ ”コンピューター、大便。“ というと用意ができるのは今の日本では全国共通である。用を足した後は物質変換機で元素に変えられ、物質移送機で送られて日本の備蓄室にためられる。それからいろんな物質が合成されて利用されるのだ。だからトイレの区画だけがあり命令するとトイレが出現し、用を足した後は消失する。 テーブルのいすに座り台本を読み始めるとどこで調べたのか時間局で出てくる優喜専用のウサギが出てきて、 “今からメイクを始めます。戸田さまは台本を読んでいてください。” と言うので、コンピューターにまかせて台本を読むのに熱中した。
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