”これでタイムマシンを使うための訓練はだめになったな。“ と、優喜は少し残念だったが、相沢が会社に来てくれるので、 “たまには相沢さんと一緒にタイムマシンで同行させてもらおう。” と頭を切り替えた。そしてタイムマシンの訓練の断りの連絡をした後、 “今の実験もどうやら研究員の麹野と満田が何とかやってくれているようだし、タイムマシンで帰ってくる人もしばらくはいない。後は山口氏にこのことを報告せねば。” と思い、 山口氏に映画出演の件を報告すると、 “よかったね。紀子さんがすんなり辞めてくれるそうで、私も心配していたのだ。彼女が時間局やタイムマシンについて知っていることの秘密保持の件よろしく。 TMの件はまあ大丈夫だろうし、兼職願ももう1件事務に言って追加しとくから。” “お世話になります。” ということだった。亀鳥のいる部屋に戻ると、亀鳥は、 “この2人は今日東京へ連れて行きます。ちょっと考えることがあって映画の構想をもう一度組みなおそうと思います。戸田さんは明日の10時ごろ来てもらえますか?” “分かりました。でもちょっと紀子さんと話させてください。” 部屋の隅に紀子を呼んで、 ”この研究所で聞いたことや知っていることは他の人には絶対にしゃべらないでほしい。いいかい?“ “ほとんど何にも聞かされてないけど、いいわよ。絶対話さない。” 陽子には特に重要な件は知らない部署にいたし、人に聞かれても問題のないことしか知らないので、口止めはしなかった。紀子も陽子には何にも話さないように優喜は頼んでいた。 “家の荷物なんかはどうするの?” “亀鳥さんの部下が、物質転送機で全部送ってくれるそうよ。じゃあ。もう行くね。” ”戸田さん。{海での戦い}のストーリーを大幅に変えますけどそれはいいですね。“ ”映画のことは監督にお任せします。“ 優喜は無難な形で紀子が記憶科学研究所から出て行ってくれるのでほっとしたところだった。しかし亀鳥の次の言葉で、 “少し惜しかったかな” という気もした。 ”実は紀子さんを見てビビッと来ました。この人はきっと大物女優になりますよ。私が保証します。桜川監督ではなく、私の目に留まったのが幸いでした。桜川さんもきっとみのがさなかったでしょうから。“ と言って2人を連れて東京へと戻って行った。 優喜は何か大事なものを取られたような気がした。 山口から電話があり、 “すまんが、TMの部屋まで行ってくれんか?山田君の後に新しく係長になった宮村君がどうしても君の自筆の署名がないと兼職を認めるわけにはいけないと言っているのだ。かなり説得したのだが自筆のサインだけは譲れないと言うので、サインをしに行ってくれ。” “分かりました。” と優喜は言うと、山田副社長に、 “時間局に行ってサインをしてくる。” と告げた。 ”新しい宮村でしょう。あいつはがりがりの公務員でかなり小言を言われますが聞き流してくださいね。“ とアドバイスをもらった。優喜はがりがりの公務員と言う言葉が分からなかった。 TMの部屋に行くと痩せた、メガネをかけた宮村が待っていた。 “君が戸田優喜君か?特別扱いされて君は思いあがっているのではないかな?” といきなり言われた。さらに、 “だいたい、TMはいつも非常勤と決まっているのにちょっと有名になったからと常勤の公務員にしてもらって、さらに兼職は原則的に禁止されているのに、例外的な、{世間の役に立つ人はこれにあらず}という項目で記憶科学研究所の社長までさせ、さらに映画出演なども兼職するとは部長以上では数件見られるが、こんな下っぱでは初めてだ。” と続けた。 “TMの職は長続きしないと言うので君は結構甘く待遇されているが、私が係長になったからにはもっと厳しくいくからな、今日の西沢農場の実地見学も報告書を書いて今日中に提出してくれよな。そして、サインは原則として自筆と言うのが規則だからな。ちゃんと覚えておいてくれよ。普通の公務員は部長でも課長でも自分の上の人の許可とサインをもらって、自筆でサインして直接の上司に届けるのだからな。君の直接の上司は僕、宮村だから、よく覚えておくように。明日からの休みの届書もサインをするように。所長から全部許可が出ているのでサインだけでいいが、本当は君が係長、課長、部長、局長とサインをもらいに行かねばならないのだぞ。そして兼職での報告書もちゃんと書いて私に提出するのだよ。” サインを受け取ると、 “じゃあ報告者を書いてから帰るように。” と言い残して不機嫌そうに出て行った。 山口に電話して ”こう言うことを言われた。“ と話すと、 ”兼職の報告書なんていらないよ。僕から宮村に言っておくよ。西沢農場の報告だけは頼むな。“ と言われたので、西沢農場での西沢慶三郎、矢作亨、田中喜代子のことを十分に書いた。すると優喜の頭には西沢しのぶの、綺麗な顔が浮かんできた。 ”明日は、女優さんたちがいっぱいいる場所に行くのだ。“ と期待に胸が膨らんだ。しかし紀子は普通の人よりは綺麗だが、女優になるほどの綺麗さだとは思えなかったし、まして映画監督がビビッと来るような美しさだとは思えなかった。 しかし、亀鳥は天才的な男たらしの内面を見たのだった。
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