20代から中高年のための小説投稿 & レビューコミュニティ
 ようこそゲストさん トップページへ ご利用方法 Q&A 操作マニュアル パスワードを忘れた
 ■ 目次へ

作品名:タイムマシン稼働マネージャー 作者:Hei George

第41回   健作
優喜はそこでコーヒーを頼んだ。
”コンピューター。サントスのコーヒーをブラックで!“
そうするとデザインのいいテーブルと同時にしゃれたコーヒーカップの中に入ったコーヒーが出されてきた。以前までは平凡なカップや無構造なテーブルだったので、優喜は時間局における待遇が上がったのかと思った。今日帰ってくる予定の12人のファイルを見ながらコーヒーを飲んでいると9時近くなったので、
“コンピューター!すべてかたずけて、脳監査装置などタイムマシンから帰ってくる人たちの準備を!”
と言うと、4人ほどのいすと筆記具の置いてある机と脳監査装置が出現した。
“たった4つでいいのかな。”
と思ったが、9時になった。
すると一旦、周囲が暗くなり、少し明るい光の中に男性が一人だけ現れた。
“たった一人なのか?”
優喜は驚いた。
“1割にも満たない帰還率だ。”
男性は動物の皮を体にまとい、金属の穂先を持つ槍をもっていた。そして懐かしそうに周りを見回す。
”コンピュータ。この人の氏名と年齢を教えて!“
“鹿屋健作、21歳です。”
“鹿屋クン。お帰りなさい。服装を現代のに、変えてもらっていいかね?”
“ああ。”
“コンピューター鹿屋クンの衣装を現代風に交換して!”
そうするとその男の姿は28世紀の服装に変わった。
“TMの戸田です。鹿屋クン、脳監査をさせてもらっていいかな?”
“ああ。”
”コンピューター、鹿屋クンの脳監査開始。“
5分後、
“それでは一応規則なので、この1年間の感想文を書いてください。書いたら、隣に関係者が控えていますから、その人と一緒に帰っていいですから。”
“おれの関係者は誰が来ているんだ?”
”コンピューター、鹿屋クンの関係者は誰が来ている?“
“鹿屋千尋さん。お姉さんがいらっしゃっています。”
“姉貴か?母親は……………………………………….”
“えっつ何ですか?“
“いやいい。”
鹿屋健作は1時間くらい感想文を書いていた。完成して、
“じゃあもういいんだな。姉貴を呼んでくれ。”
鹿屋千尋が現れて引き取って行った。出て行ったのを確かめて優喜は脳監査の昔の女性のパーマをするような機械に自分の頭を入れて鹿屋健作の昔の脳を脳監査した。

鹿屋健作は鹿屋大作、鹿屋佐和子の3人目の子として生まれた。長女の千尋、長男の光一からも親からもかわいがられて眼の中に入れても痛くないほどの甘やかしの中で生活していた。18歳になり、大学受験に失敗して浪人になったが、みんなの反対を押し切り上京して東京予備校に入ったのが間違いだった。家にいるときは4人がいつも面倒を見てくれていたのに気がつかなかった。一人になると何にも出来ない。浪人生活は無味乾燥で、一人の生活は寂しくて、退屈だし、第一周囲に店があるが、自分では何にも出来ない。仕送りは銀行に入っているが、金銭の管理も十分にできない。だんだんと精神に異常をきたし夏に父親がマンションに寄った時は、家の中で一人妄想を抱えてぶつぶついう姿があった。
そのまま連れ戻して九州に連れ帰り自宅から精神病院に受診したが、外来通院で特に軽快しないまま年が過ぎ、脳のアミンの状態からこのままだと1年で命が危ない。自殺する可能性が高いということで3000年前に送られた。

うつ病の脳監査は優喜にとってもつらい。以前に比べてかなり慣れてきたが、やはり頭がくらくらしていた。
少し休んで帰ってきた後の脳監査をすることにした。
“コンピューター。ブラームスの曲をしばらく聞かせてくれ。”
座り心地のいい椅子で、20分ほどブラームスの九州交響楽団による演奏を聞いて、今とれたばかりの鹿屋健作の3000年前に行った経験の脳監査を始めた。

優喜の脳監査の楽しみは患者たちが3000年前に行きうつ病が次第に軽快していく過程を味わうことにある。
鹿屋健作は一人野原に送り出されていた。野原に狩りをしてきた3人組が通りかかる。
“おい。あんなとこに一人男がたたずんでいるぞ。”
”ほんとだな。何をしているのだろう。“
”もし。あなたはどこから来たのですか?“
健作は、ぼーっとしている。
“頭がおかしい人ではないかな。村に連れて行って長老に見せてみよう。”
“そうだね。長老のとこに連れていこう。”
そのまま健作は3人の男から村に連れていかれた。
長老は健作を見ると、
”これはキツネツキだ。みんなが面倒を見てやるとキツネが出て行って正常になる。村のみんなを呼んで皆で狐を追い出すように話そう。“
そして村全員を集めて、
“この者はキツネツキだ。他のもの以上に親切にいろいろ教えてやってくれ。そうするとキツネが出て行き正常に戻るから。”
長老の言葉で、村のものみんなが生活を共にしていろいろ親切にしてくれ、又、仕事もいろいろと手取り足取りにて教えてくれた。キツネツキときいてよけい親切に教えてくれる。2か月、3か月と経ってだんだんと生活に必要なことが自分でできるようになってくると、精神は正常に戻ってきて、28世紀では自分がいかに甘やかされて自分で何もしなかったかがはっきりとしてきた。6か月過ぎると父、母に自分を甘やかしすぎたことを話したくてたまらなくなった。3000年前では狩りを覚え、狩りもとても上手になった。このままここにいてもいいとは思ったが、どうしても父と母に一言いいたくて28世紀に帰ってきた。狩りの1日前に長老に話して、
“私は遠い世界から来たのです。明日狩りの途中でいなくなると思いますが、探さないでください。1年間どうもお世話になりました。このご恩は一生忘れません。”
と挨拶をしてきた。


← 前の回  次の回 → ■ 目次

■ 20代から中高年のための小説投稿 & レビューコミュニティ トップページ
アクセス: 7406