11時頃料理が出来上がった。スープとすき焼きと御飯がコンピューターによって出てきたテーブルの上に並べられた。 ”これはね。すき焼きって言うのよ。このといだ卵につけて食べるの。“ 優喜はすき焼き丼というのはコンピューターによる合成されたものを食べたことがあったが、すき焼きそれも本物の食材によるすき焼きは食べたことがなかった。 といだ卵にどのようにつけるのか戸惑っていると、 ”最初だけ取ってあげるわね。“ と言って、肉、野菜、豆腐、こんにゃくを入れてくれた。 食べるとほんとにおいしかったので、 “うまい。” と言った。 紀子はうれしそうだった。そして自分も食べ始めた。 ”やっぱり本物は違うわね。外務省役人はこんなものばっかり食べてるんだから贅沢になるわけだ。“ “えっ。外務省役人からもらったの?” “うん。ミャンマー担当の外務省役人。あそこは頑として食事を合成するコンピューターを入れないんだって。軍事政府が今も農業を推進してるので、今では大金持ちの国よ。各国の金持ちだけが本物をミャンマーから取り寄せて食べるからね。” “日本でも今でも農業、牧畜をしているグループはあるんだけどね。高くてとても買えないからね。” 優喜はそう言って、西沢慶三郎のグループを思い出した。 ”あそこにも来週行かなくては。“ 少し呟くと、紀子が “うん?” と聞いたので、 ”君も知っていると思うが西沢さんのグループが農園を営んでるんだよ。来週の火曜日あたりに行こうと思っているんだ。“ “あっつ。それ、私も誘われた。昔に比べてコンピューターの作る料理って美味しくないんだよね。私も少しは心が動いたんだけど、私には大好きなものがあるからね。それは男。” と言って色っぽい目つきで優喜を見つめる。 優喜はぞくっとするものを感じたが、知らんふりして食事を進める。 空になって卵だけになった容器にすき焼きを入れる。そして黙々と食べる。紀子は、 つけっぱなしになっているテレビを見て、 “あらあ。こんなかたい番組を見て!” NHKのニュ−スだけをやっているチャンネルから民放に変えた。 そこではヨッシーとコウが歌を歌っていた。 ”…・宇宙で二人は出会った。宇宙で二人は愛を強めあう・・・・・・・“ 紀子が言う。 ”ヨッシーとコウって素敵ね。私この{宇宙での二人}の曲大好きでいつも聞いてるの。“ “ふん。あの二人の実力で勝ち取ったものじゃないよ。” と優喜が言うと、紀子が急に怒りだして、 ”なんてこと言うのよ。あんたなんてカメハメ波ゲームなんてしたことがないでしょ。何にも知らないくせに偉そうなこと言うんじゃないわよ。エリートのあんたなんて批判するばかりで何にも分かっちゃいないのよ。“ と火のついたような怒りようで、取りつく島がない。 優喜はあまりこれは言いたくなかったが、仕方がなく、 “カメハメ波ゲームの中の公務員の役のジュンているだろ。あれは本当は、僕なんだ。そしてあのゲームはほとんど僕が得点を取ってるんだ。” と言ってしまった。 そのとたん紀子はうっとりした眼をして、 ”やっぱり私の目に狂いはなかった。貴方芸能界にデビューして!{海へ}に出たらすぐジュン役に抜擢されるわよ。前のジュン役は{宇宙での二人}でクビだそうよ。そしたら私あなたと結婚してあ・げ・る。“ 甘い言葉でにじり寄ってきた。 “今食事の最中だから。” と言うと、 “じゃあ。後でね。” と、優喜が今までかつて女性で見たこともない色っぽい顔をする。優喜は頭がくらくらして抱きつきたい誘惑を抑えながら、 ”だって僕は君と結婚なんてしたくないから。“ “あら。ゆっくり可愛がってあげるから、そうしたら気が変わるわよ。私が可愛がってあげた人で私になつかない男なんていないんだから。食後楽しみにしていてね。” “食事を食べ終わるのが怖い。” と思いながらも何か期待する心もある。優喜の下半身は突っ張ったままである。 ”とにかく僕は時間局は辞めないからな。“ とかろうじて理性を呼び起こして言うと、 ”あなたは私に任せればいいのよ。“ と女房みたいな事を云う。 ちょうどその時救いの立体映像電話がかかった。かおるからだった。 ”こんにちは戸田さん。今、昼休みなので電話してるの。これが私の職場。活気があるでしょう。あら。そこにいるのは妹さん。“ “ああ。仕事で面倒見ている女の子だよ。紀子さんって言うんだ。” ”こんにちは紀子さん。素敵なお召し物来てるのね。私は西条かおるって言います。“ ”こんにちは。あなたは優喜さんの何なの。“ 優喜が慌てて答える。 “恋人だよ。” 紀子は急に涙目になる。 “私帰る。” 涙をたくさん流しながら出て行った。扉の前で、 “タクシー呼んで。” と言ったので、 ”僕のエアーカーに乗って行っていいよ。エアーカー。紀子さんを自宅まで送り、戻っておいで。“ エアーカーで帰って行った。こういうとこはまだ15歳だ。 “私悪かったかしら?” かおるが言ったので、 “あっつ。ご免。勝手に恋人なんて言っちゃって。” “いやうれしかったわよ。でもいいのあの子泣いて出て行っちゃったよ。” “いや。本当にいいタイミングで電話がかかって、助かったよ。僕と君はやっぱり、相性がいいみたいだね。” “なんか良く解らないけど、まあいいわ。明日楽しみにしているわ。” ”僕も。約束の時間でいいんだね。“ “うん。11時半に待ってるね。” そう言って電話が切れた。 優喜はほっとしたのと、なんか残念な大きな魚を取り逃がしたような複雑な気分だった。テレビでは{宇宙での二人}の映画の大ヒットと、ジュン役がカメハメ波ゲームでいい点が取れなくて解雇され、新たに{海へ}の映画撮影のためジュン役の募集がなされていた。 “紀子の言ったとうりだ。しかし、海なんてまだ世界中のカメハメ波ゲームで、誰も行ったことがない場所に行けるなんてありえない。その映画は完成しないのではないか?” と優喜は思った。
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