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作品名:混沌こそ我が墓碑銘 作者:鈴木善行

第8回   8
 新宿の駅に着くと、東口中央東口西口中央西口南口東南口ルミネ口サザンテラス口等々錯雑に入り組んでいて、毎週来ているにもかかわらず、どの改札を通りどの階段を上りどの出口を出れば目的の場所に逸早く辿り着けるのか、いつも軽く迷ってしまう。その都度、女は先天的に空間認知能力が欠けていて、だから方向音痴なやつが多いんだという兄の言葉を思いだし無駄に腹がたつ。ここに群棲しているのかとも思える、あまたの人の波に自ら流れ込みながらどうにか東口の改札口を通り抜け、向かって左側に少し歩いていくとそれらしい地下通路の出口があるので、こっから出てもだいじょうぶだよねといった具合で階段を上ってみたら、いつもの場所に出られたとようやく安心できる。地上に出たまさに目の前、円の形に近い広場にはちょっとした特設ステージがあり、毎度そこではなにかよくわからないイベントが行われていた。広場のいたるところで、銀色を基調とした惨めで危険なデザインの制服を着たコンパニオンがティッシュやチラシなどを配っていて、あれは物だ、あほだ、人じゃない、無視しようと思ってはみてもそこそこに鬱陶しい。

 広場から北に向かう信号を渡った先に、フルーツの切り売り、匂いのしないドリアンなどが店先に並んでいる果物屋があって、その隣に某テレビ番組でおなじみのスタジオアルタのビル、わたしたちは毎週そこを待ち合わせ場所としていた。ビルの前まで行き、ひとまず見慣れた顔の存在を確認する。黒いミニスカート、細いとも太いとも形容しがたい太腿まで丈のある靴下を履き、見る者を複雑な気持ちにさせているという自覚など微塵もないであろう原、隣りには、ムダ毛を処理する概念がなく無精髭が憎たらしいほど常に一定の長さを保ち続けている坂本、直子の姿はない。ふたりがわたしの存在に気づいても、おはようという挨拶はない。そんなものは必要ないとお互いが了解しあえる、ぬるい関係性。頼もしいかぎりだ。

「直子はもう少ししたら来ると思うよ。さっき連絡あったから、遅延だって、電車、丸ノ内線」と、わたしが聞きたいことをすでに察知していたのか原が言うので、涼しい顔をしつつも少しドキドキしながら、そうなんだと答えた。一瞬、原がにたと笑ったようにも見え、無意識に視線をそらすと坂本。むぎゅう、と微々たる奇声を発しながら両手をフル稼働させ携帯電話でメールを打っている坂本の姿が目に入る。しょうもないものを見てしまった。坂本の、奇声を発しているときの顔のなんと無様なことかと心のなかでつぶやく。無様だが、かわいい。というのは嘘だ。そんなやつはいない。無様は無様だ。


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