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作品名:混沌こそ我が墓碑銘 作者:鈴木善行

第12回   12
 負のアドレナリンが分泌しまくるなか、無駄なエネルギーを浪費しながら、ぶつぶつと呪いをかけるかのように、血文字をつづるかのようになんとか履歴書を仕上げた頃には、原と直子の会話も落ち着きをみせ、坂本もチューニングを終えたようだ。

「ワンツースリーフォー」という直子のカタカナ英語を号令に、わたしは住所不定の浮浪者に青白くて消え入りそうな儚さだと評価された二の腕にめいっぱい力を込め、わざとだろうといわんばかりの狂ったチューニング上等、渾身の轟音をかき鳴らす。原、坂本がそれに続く。非音楽的なアンサンブル、初っぱなからコードは破綻、支離滅裂のリフレインが無自覚なうねりを打ち、苦渋に満ちた空間を成形する。そこに直子の金属シャウトがからんできて、轟音に対抗するテンションでかぶりをふり、乱れた髪の隙間からほの見える表情はなんとも淫猥、まさに美の暴力と化していた。演奏中は精神が軽いカオスを生みだし、みな、阿呆になっていた。無謀な音量と狂いまくったチューニングのせいで音は切り裂かれ、無邪気に歪み、直子のすさまじい唾液攻撃によって顔面シャワー状態のマイクはお持ち帰りしたくなるほど臭そうだ。うげっ。気分よすぎて吐きそう。いっそ吐いてやろうか。いや、吐かないでおこうか。

 部屋のなかもまた軽いカオスに彩られていた。初めて睡眠薬を飲んだとき夢で見たことのある、あれはまるで異世界の建造物、世界観、あまたの白い粒が雪景色のようだ。顔をあげると、山姥が天井に這いつくばってこちらを見ていた。体に冷蔵庫を縄で縛りつけて担いでいる黒髪の女が、天井や壁沿いを高速で移動する。ミキサーを操作しているスーツ姿の小太りの変死体、床から吹きあがる紫色の煙。部屋の隅では豚の頭をなでながら、いたこが祈っていた。山姥とまた目が合う。なぜか笑っている山姥。黒髪の女は移動するのをやめ、肉を食らっていた。いたこが呼びだしたのか、ウイスキーの瓶を手にしたジム・モリソンが中央の直子になにか力を送っていた。しかし、そんなことなど知るかとばかりに叫びつづける直子の胆力といったらどうだ。原と坂本の姿はいつのまにか見えなくなっていた。そのかわり、部屋を飛び交う透明の妖魔が蛍光灯の光に反射してきれいだ。


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