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作品名:仏教と物理学の奇妙な関係 作者:ツジセイゴウ

第4回   縁起が悪いの本当の意味
私たちは日常よく「縁起が悪い」という言葉を使っている。一般的には、「不吉」とか「不運」ぐらいの感覚で使われている。卑近な例では、友引の日に葬式は出さないとか、病院では4号室という病室を作らないとかいうのがある。前者は友引に葬式をするとまた別の葬式ができる(友を引く)から、後者は単に「4」が「死」に通じるからというだけのことである。ほとんど迷信と言っていいレベルの話である。
しかし、仏教で言うところの「縁起」とは「因縁生起」の略で、この世で起きる事象(事物と現象)の一切にはそれを生起させる原因があり、定められた法則により「結果」が決まるという意味だと解されている。これを因果律という。そして、現れ出た結果は、次の瞬間には新たな原因となり、さらに因縁が加算されて次の結果へと進んでゆく。この連鎖は、第3話で説いた輪廻転生のサイクルが止まるまで未来永劫続く。
物理学でも全く同じような考え方をする。ある事象の背景には必ずそれを生起させる物理法則があり、それは単純な理論(標準理論あるいはそれをさらに進めた大統一理論)で記述できるとされている。
今日、人間が存在するのは、138億年前ビッグバンによって宇宙が生まれたところから出発する。今から138億年前、第1話で説明した対生成により宇宙は「無」の状態(物質は存在せずその元となるエネルギーだけが存在する状態)から急激な膨張を起こして生まれた。その時生まれた物質と反物資は「対称性の破れ」により、反物質だけが消え、物質だけが残った。それが、今日あまたある宇宙の星々や私たちの体を構成する源となっている。
まずここが縁起の第一歩である。もし対称性が破れていなかったら物質はすべて反物質と対消滅を起こして消えてしまい、何も残らない空っぽの宇宙になっていたからである。アートマン(我あるいは個体)がブラフマン(梵あるいは宇宙)から分離されたことで、自我が生まれたのである。
でも、同時に物質(自我)の生成こそが煩悩の生成でもあった。第3話で述べた通り、エネルギーが形ある物質に変換されたことで、輪廻のサイクルが始まった。
生れ出た物質は、宇宙が冷えるにつれ凝縮され、やがて星を形成してゆく。重力の法則により、質量のある物は互いに引き合い集まってゆく。途方もない長い時間をかけて恒星が、そして惑星が形成された。そのうちの一つ、地球において今から40億年ほど前に最初の生命が生まれた。この後の話は、地球の歴史が示すとおりである。
このお話を聞くと皆さんはどう思われるであろうか。ああよかった、ビッグバンのおかげで今日この地球があり、そして我々が存在する。もし、ビッグバンがなければ私たちの存在すらない。
でも仏教ではこれとは真逆の思想を取る。「無我の境地」と言う通り、仏教では「無」こそが本来の宇宙のあるべき姿であり、物質あるいは肉体が存在する今の宇宙(これを現世あるいは俗世という)は異常な状態なのである。肉体に執着することで煩悩の連鎖が始まったのである。
「縁起が悪い」とは、こうした世の中を作ってしまった物理法則、その中でもすべてのスタート地点となったビッグバンこそが最大の悪者だと言っているのである。


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