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作品名:続・不可思議情報の私的考察 作者:ツジセイゴウ

第34回   テレポーテーションは可能か
テレポーテーションとは、一言でいうと「隔地間転送」というような意味になる。つまりある物質を瞬間的に離れた場所に移動させるという技術である。かの有名なSFドラマシリーズ「スタートレック」を見ていた人はよくご存じと思うが、宇宙船から遠く離れた惑星の上に人間を瞬間的に転送するというものである。
それは、ワープやワームホールとも異なる。ワープやワームホールは空間を曲げて異なる2地点をくっつけることで、瞬時に遠い所に移動する方法である。これに対し、テレポーテーションとは、空間をゆがめることなく、物質自体を離れた場所に瞬間移動させる方法である。そんなことが本当に可能なのであろうか。
テレポーテーションの最も簡単な例はFAXである。FAXは、紙に書かれた文字や絵を単なる細かい点の集合としてとらえ、それを電気信号に変えて相手に送信し、受け取る側ではその電気信号を元通り点の集合に戻すことで情報を再生している。
しかし、これは本当の意味でのテレポーテーションではない。なぜなら、発信元の原本は紙もインクもそのまま元の場所に残っている。受信側に出てきた紙は、実際はコピーである。瞬間移動したのは、紙に書かれた情報であって、紙そのものが移動したわけではない。
では、紙も含めて一切のものを完全に移動させるにはどうする必要があるのであろうか。「File68 「1−1=0」が悩ましい」で出てきた素粒子物理学で言うところの対消滅・対生成という極めてややこしい方法を使うことになるであろう。地点Aにあるリンゴ1個を地点Bに瞬間移動させるには、まず地点Aにあるリンゴを完全に消去し、その情報を地点Bに送って全く元の状態に再現させるという手順が必要となる。
理論的には、アインシュタインのかの有名な公式E=MC2を使って、まず地点Aにおいて質量(物体)をエネルギーに変換し、エネルギーの状態で地点Bまで転送し、そこで逆の手順でエネルギーを質量に戻してやることにより、テレポーテーションを完結させる。
具体的には、地点Aにおいて全く同じ数の反・原子ばかりで出来た反・リンゴ1個を用意し、対消滅により完全にリンゴを消し去る(1−1=0)。その際に生じるエネルギーを地点Bに送り、今度は対生成によりリンゴと反・リンゴを発生させ(0=1+(−1))、反・リンゴのみを消すのである。これでリンゴはコピーされることもなく、完全に地点Aから消え去り、地点Bに転送されたことになる。
ただ、原子と反・原子の数が1個でも違っていると、元のリンゴは完全に消えたことにはならないので、テレポーテーションは失敗となる。よって、テレポーテーションを実現するには、まず手始めに物質をその最小単位である素粒子レベルまで正確に解析して完全に読み取る技術が必要となる。
「フライ」というSFホラー映画では、テレポーテーション技術を開発した科学者が自ら実験台になって転送実験を行なった際に、装置の中にハエが1匹紛れ込んだため、再生の過程でハエの遺伝子が組み込まれてハエ男になってしまうという悲劇が描かれた。でも、まだ再生されればいい方で、最悪は単なる肉の塊、あるいはただの原子の集まりになってしまう可能性すらある。やはりテレポーテーションはSFの世界だけの話にしておく方が無難なようだ。
余談になるが、光の粒子である光子については、量子テレポーテーションという技術により瞬間移動できることが実験でも確認されているという。ただし、厳密に言うと、これは物質を移動させるというよりは、光子の量子状態を移動させるということになるそうだ。


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